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【ボーイミーツガール & ハイファンタジー!】君を探して 白羽根の聖女と封じの炎  作者: 芋つき蛮族
十三章

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435. 『聖句』

「聖伐の勇者です、って……え?」 


 フェレシーラが告げてきた、その渾名、かの異名……比する者なき称号。 

 それを口に上らせつつも、俺は首を傾げてしまっていた。

 

 そうしながらも『凍炎の魔女』がいた原野を雑木林から覗きみるが、目立った動きはない。

 夜間である為、肉眼での確認が難しいが……

 それでもフェレシーラのアトマ視がある以上、氷術による遠距離からの奇襲は、そうそう簡単に成立しないだろう。

 

 そう考えて、俺は地面に胡坐をかいたまま、視線を再び上に持ってゆく。

 

「そうです。アレはおそらく、『聖伐の勇者』。そして当代のソレは依然、『マルゼス・フレイミング』のまま。代替わりをしたという話も聞いていませんので」

「代替わりしていないって……ちょっと待ってくれ。さっきからどうにも話が見えないぞ。もし俺が聞いていいことなら、わかるように言ってくれないか?」

「それは……そうでしょうね。今までの貴方の反応からして、予測は出来ていましたので」


 目の前にいた神殿従士の少女を、自然見上げる形となって説明を求めるも、返ってきたのはそんな言葉。

 どうやら俺は、なにやら大きな勘違いを仕出かしているらしい。

 が、それがどういう内容なのかが、さっぱりとわからない。

 

 頭は普段より回っていないような気がした。

 もっといえば、時たま目の奥がズキリと痛んでいる始末だ。

 

 頭を強く振り、俺はフェレシーラの言葉に集中することにした。

 

「まずこれは、知らない人の方が圧倒的に多いのですが……『聖伐の勇者』とは、称号、異名、渾名といったものではありません。世間一般では、肩書として認識されているので仕方のないことではあるのですが」

「称号じゃ、ない……」


 澱んだ頭であっても、どうやら最も大事な質問ぐらいは出来るらしい。

 気付けば俺は、青い瞳を伏せて語り始めた少女を、呆然と見上げていた。

 

「はい。云わば『聖伐の勇者』とは、称号ではなく、状態・・なのです」

「状態……」

「ええ。偉大なる女神アーマの代行者と四亜神の祝福の元、魔人を討滅する力を授かりし者。それ即ち、『聖伐』の力を振るうことを赦されたという証です」

「……ええと。つまり、さ」

 

 フェレシーラの言葉を一つ一つ噛み砕きつつも、飲み下すまでには至らぬまま、確認に走ってしまう。

 我ながらせっかちもいいところだが、気になるものは気になるので仕方ない。

 

 称号ではなく、状態。

 魂源神アーマの代行者と、四亜神の祝福。

 そして魔人を滅する『聖伐』の力。

 

「つまり、魔人を斃した英雄だから、聖伐の『勇者』って呼ばれるワケじゃなくって。魔人を倒す力を授けられたから、『聖伐の』勇者だってことなのか……?」

「――まさしく、その通りです」 

「なるほど」


 なるほど。

 なるほどなるほど……なるほどだ、これは。

 という事は、だ。

 

「という事は……滅茶苦茶ざっくり言うとさ。『聖伐の勇者』ってのは、対魔人特効の強化効果バフを獲得した人間を指す、っていう話なんだよな?」

「バ――あ、いえ。その認識であっていますね」

「ふむふむ。てことは、だ。当代の、って言葉を持ち出していたからには……もしかして、『聖伐』の加護を得られるのって、お一人様限定ってことなのか?」

「……先程から、どうも比喩や表現が軽い気もするのですが。その通りではありますね。内容が内容だけに、おいそれと人の耳にいれてはなりませんが」

 

 それまでより更に神妙な面持ちとなったフェレシーラに、またも俺は「なるほど」と返す。

 気付けば片膝を立てた状態での、推測が進む。

 

 まあ今のこれはあれだ。

 所謂、政治とかの話も絡んでいる感じなのだろう。

 

「魔人を……魔人王や、その直属の魔人将を斃しきるほどの『聖伐』の力が任意で得られるとなれば、そりゃあ力を望む人間も群がってくるし。魔人の侵攻に対処しないといけなくなった他の国にしても、『聖伐の勇者』の助けが欲しい状況が出てくるもんな」

「そうですね。勿論、『聖伐の勇者』と成るには相応の条件や試練をクリアする必要がありますので。己の為のみに力を求める不逞の輩などには、望むべくもない話ではありますが」

「たしかに、そりゃそうか」


 そっち系の話にはとんと興味がないこともあり、一旦話を終わらせる。

 これまで、『聖伐の勇者』が魔人王、もしくは魔人将を討ち払った者を指す、称号だとばかり思っていた俺だが……

 

 フェレシーラの話からすると、おそらく世間一般の認識も同様なのだろう。

 トラブル防止と聖伐教団のメリット・デメリットを考えれば――

 

 って、違う違う。

 意外なことを聞かされて、ちょっと思考が本筋からズレてしまっていた。

 

「うん。『聖伐の勇者』については、なんとなくでもわかったよ。そんでもって、一人しか『聖伐の勇者』の力を得れないってことも、わかった。だから『聖伐の勇者』であれば、それが『煌炎の魔女』マルゼス・フレイミングに違いない、っていう理屈もわかる。いきなり過ぎて、ちょっと頭がついていかなかったけどさ」


 おそらくはこちらが質問してくることを、予測していたのだろう。

 その言葉に対して、フェレシーラは目を逸らさず、口を閉ざして話に聞き入ってくれていた。。

 そこに俺は、最大の疑問をぶつけにゆく。

 

「どうして、あの『凍炎の魔女』が『聖伐の勇者』だっていう話になるんだ? そこが一番の疑問なんだけど」

「それは……いえ。ここまで来たら、お話しないわけにもいきませんね」

 

 ふぅ、と肩を落としての大きな溜息。

 何か彼女にとって大きな秘密、護り抜くべき情報があるのだろう。

 それを明かしてでも、あの『凍炎の魔女』の正体がマルゼス・フレイミングである可能性を、俺に伝えておきたいという、ことなのだ。

 

「私たちが『聖伐』の力を神々から賜り、行使するために必要なものが、幾つかあります。その中の一つが『聖句』です。私が『聖伐の浄撃』を繰り出す際の詠唱も、その『聖句』の一部より編まれたものです」

「ああ……そっか。それでフェレシーラが本気で『浄撃』を使うときは、聞いたことのない詠唱が使われていたんだな」

「そういうことです。まったく、理解が早過ぎるというのも困りものですね」

「へへ。お褒めに預かり恐悦至極、ってな」


 フェレシーラの『浄撃』。

 つまりは戦鎚ウォーハンマーによる打撃と『浄化』の複合技にも、結構な威力差があるとは思っていたが、それにはこんな理由があったらしい。


「てことは……ええと、なんだっけか」

 

 彼女が口にしてきた『聖句』というキーワードを軸に、俺は記憶の糸を手繰り寄せにかかる、

 そうしてみるも、中々の言葉が出てこない。

 が――

 

「魔を滅する者……」


 その最初の言葉が出てくれば、あとは簡単だった。


「円環を成す者――」


 細い糸を水滴が伝うようにして湧き出でてきた言葉を、『凍炎の魔女』が口にしていた言葉を、謳うようにしてそらんじる。


「盟約を継し者――」


 すると、そこに中高音アルトの美声が唱和を果たしてきた。

 

「天秤を傾ける者。畢竟、聖伐の意思なりて」 

「或いは、砕けし真の銀と黒の胡桃、其の残り火なり……」


 ごう、と風が吹きつけてきた。

 

「これがその、マルゼス・フレイミングなら……『聖伐の勇者』なら知っている、『聖句』だったってわけか」

「本当に記憶力お化けですよねぇ。まあ、いつかこうなる予感はしていたのですが」 

 

 言葉を交わしながら、俺は立ち上がる。

 フェレシーラが戦鎚ウォーハンマーを手にその場より振り向く。

 

「結局、振出しに戻るって感じではあったけどね。一応こっちの根拠はそんなところよ」

「いや、助かるよ。いつまでも半信半疑で、ってのも踏ん切りがつかない部分はあるし。それに結構、休めたからさ」


 渦巻く風は、冷たかった。

 遥か遠方より吹きつけてくるそれに、二人揃って立ち向かう。

 そこに無機質な、しかし忘れようもない声がやってくる。

 

「標的捕捉。AZ波形異常個体『フラム・アルバレット』、並びに高A特化個体……傍受名称『フェレシーラ』。両名の健在を確認――」

「あら。盗み聞きまでして私の名前まで覚えてくれていただなんて、光栄ね」


 夜天の元、月の明かりに照らし出された彼女に少女がにこやかに微笑む。

 その指先より『照明』の魔術が放たれる。

 

 それが『凍炎の魔女』との、再戦の合図だった。

 


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