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【ボーイミーツガール & ハイファンタジー!】君を探して 白羽根の聖女と封じの炎  作者: 芋つき蛮族
十三章

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433. 試しの時

 腹の底から湧き上がる熱を、掌に集めるまでに冷まし切るイメージ。

 極々僅かなエネルギーをそこに集めると、極小の球体という形で瘴気が生成されていた。

 

「……よし」

 

 ゼフトの放出とコントロール。

 アトマを扱う際のそれとはまた異なる力の発露を一旦は打ち消し、それが完全に消失したのを見届けてから安堵の息を洩らす。

 これまで二度、勢いに任せてやってきたそれを、微細な出力で実現出来た。

 正体不明のこの力を扱う上での、本当の意味での第一歩。

 

 ここからアトマを操るノウハウを転用して、やれることを探っていく必要があるのだが……

 

 まずは何よりも、フェレシーラを巻き込まないように注意しなければならない。

 現状どうしてもストレートに力を引き出すと、瘴気という形で現れるから短時間とはいえ残留が起きてしまう。

 言わずもがな、これは基本的に攻性のエネルギーを持ちながら、人にとって毒素に近い影響を及ぼす代物だ。

 

 勿論、フェレシーラだけでなく俺自身の体にもマイナスとなりかねない。


「アトマが回復してくれたら、無理に頼る必要もないんだろうけどな」


 ついつい、そんな無茶を願いつつも、次のステップに移行する。

 本格的な睡眠、もしくは瞑想による休息を取らなければ、一度底をついたアトマは早々回復なぞ望めない。

 特にこれまで、アトマが完全に枯渇するレベルまで消耗した経験がなかったので、どれぐらい休めば効果があるのかも、感覚的に掴めていない。

 

 先日フェレシーラがダウンしたように、急性アトマ欠乏症に陥らなかったのは、不幸中の幸いというべきか……

 多分アトマの総量が大きい故に、一気に消耗しきるというケースが発生しなかっただけだろう。

 

 なんにせよ今現在、目下の標的『凍炎の魔女』が上空にあるクソデカ『照明』に引き寄せられている間に、テストを試みておかねばならなかった。

 

「それにしても、なんだか水晶灯に引き寄せられた羽虫みたいね。あの凍炎さん」

「あー……たしかに、言われてみればそれっぽいな。なんか目を閉じながら、『照明』の中を突き抜けて往復してるし。もしかして、あれに気を取られている間に離脱出来るかもな」

「んー。さすがにそれは厳しいんじゃない? 多分だけど、あれってゼフトを感知してここに来たんだとおもうから。一時的に興味を引かれているにしても、逃げたら追ってきそうだし」

「ゼフトに引かれてやってきたのに、今度はアトマの産物に興味津々とか、猫かなにかかよ。ま、取りあえずこの隙にやってみるか……!」

 

 己を鼓舞する為に発した言葉に、やや遠巻きに構えていたフェレシーラが、頷きで返してきた。

 まずは僅かながらも、ゼフトの流れをコントロールできた。

 ならば、次に俺が試みることは決まっている。

 

「原初の灯火、火の源流……導く軌跡にて、我は戻り逝く……」


 両手にゼフトを留めて、その中間、胸の前にて術法式を組み上げる。


「残り火還り火、煌々と。楽土焦がして、堕ち昇る……天地あまつち貫き、燃え盛る」


 威力よりは制御に。

 速度よりは精度に。

 そしてなにより、アトマではなくゼフトにて『熱線』の魔術を発露へと至らせる。


「――吹き飛べ!」


 その為の発動詞だけが、虚しく氷柱の合間を駆け抜けていった。


「……ええと。いまの、なに?」


 ややあってこちらに声をかけてきたのは、後ろで待機してくれていたフェレシーラさん。

 ちょっと困ったような顔が可愛いですね。

 じゃなくって。

 

「うん。やっぱゼフトを術法式に流し込んでも、うんともすんとも言わないな。術法式が壊れるとかでもなく、単に流れて戻って来て終わりになる感じだ」

「……つまり?」

「リソースの無駄かな。このやり方だと。もし術法式を起動出来るとすれば、式自体をゼフトをエネルギーとして使えるように、根本的な部分から作り直さないといけないかもしんないぞ」

「しんないぞ、じゃなくってね」


 実験の結果とそこから得られた改善点を口にしていると、ニッコリとした笑顔が返されてきた。

 うん。

 これはあれですね。

 所謂、嵐の前の――


「なに貴方、しれっととんでもない真似をしてるのよ!?」

「あ、いや、まあゼフトも殆ど注ぎ込んでなかったしさ。最悪暴発とかしても、指の一本か二本ぐらいでさ」

「ぐらいとか、気軽に言わない! 自分の体を一体なんだと思ってるの!」

「ちょ、ちか――っておま、耳元で怒鳴るなって!」


 ささやかな静けさは、これにて終了。

 ついでにぼくの鼓膜もめでたく終了、という流れを経て。


「まったく。そういうときはせめて補助系の術法にしておきなさいな。というかそういう事を試す時は、先に一声こっちにかけておくこと。オーケー?」

「へーい……あっ、はい。次は必ず……余裕があれば、っていってぇ!? お前なぁ! 足場悪いんだから、爪先踏むのはやめろよな! 気軽に『治癒』できるからってさ!」

「そっちが危なっかしいことばっかりするからですよーだ。口で言ってもわかんない子には、おしおきですー」

「そうは言うけどさ。コレ(・・)が使えない時点でほぼ結果は見えていたからなぁ……」

 

 プンスコとばかりにほっぺを膨らませるフェレシーラに、俺は右の手甲、その第二スリットに収められていた『探知』の術効を秘めた、極小の霊銀盤を指し示していた。

 

「え? なにそれ。もしかして、さきに『探知』の術具がゼフトで起動しないか、試していたってこと? それもまさか、私にアトマ視が使えるかって聞いてきたときに?」

「まあな。消費はそれなりだけど、扱いやすいし。なにより直接戦闘用じゃないからさ。お前の言うとおり危険性は低いだろ?」

「なる。それなら試しは済んでた、ってことね。それを早く言いなさいな」

「それはわるかったよ。でもまあ、幾らアレ(・・)とはいえ、逐一説明して時間をかけすぎるのもなんだったしさ。省けることは省こうかなと」

 

 言って今度は人差し指にて頭上を指し示す。

 そこには相も変わらず、巨大な『照明』の周囲をビュンビュンと飛びまわる『凍炎の魔女』の姿。

 一体なにがそこまで気になるのか、あれ程こちらに反応し、あまつさえ攻撃さえ仕掛けてきたというのに、今はずっとああして深夜の太陽モドキに御執心なご様子なのだ。

 

「幾らなんでも、『照明』さえだしておけば無力化できる、なんて話は都合が良すぎ……ッ!?」

 

 一瞬、非戦でいける可能性が頭を掠めたその瞬間。

 不意に周囲を照らし上げていた光が――『照明』の輝きが、忽然として失われた。

 

 代わりにやってきたのは、闇。

 それも普通の、夜の闇ではない。

 

「フェレシーラ、頼む!」

「ええ!」


 星々の、そして月の光一つ通さぬ真の闇。

 

「照らすは汝のねぐら、灯すは子らの燭台……」

 

 無明の帳の中にて、朗々とした中高音アルトの詠唱が響き渡る。

 

「揺蕩う光、安寧の輝きよ!」


 暗闇の只中にて、新たなる『照明』の魔術が完成する。

 完成するも、それは一片の光明も灯すには至らなかった。

 

「これって――」

「ああ。代理戦の時と、同じ……!」

 

 生み出された『暗闇』に呑み込まれたそれをみて、二人共に思い出す。

 このままでは不味い。

 直感というよりは、本能的な恐れからそれを悟る。

 

 足場の悪さ。

 消失した視界。

 そして闇の中に巻き起こる、何かが(・・・)風を裂いて飛来する音。

 

「フラム! 後ろっ!」


 悲鳴にも似たフェレシーラの声に振り返るも、在るのは只、闇、闇、闇――

 

 同一条件下におけるアトマ視の有無による差異がもたらした、どうしようもない程の現実を前にして。

 

「凍れ」

 

 俺の耳に飛び込んできたのは、凍てつきの宣告たる発動詞だった。

 


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