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【ボーイミーツガール & ハイファンタジー!】君を探して 白羽根の聖女と封じの炎  作者: 芋つき蛮族
十三章

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432. 信頼のお返し

「一度状況を整理して、目的を定めておきたい」 


 あまりに唐突なこと続きで、思考が……

 いや、気持ちがぐちゃぐちゃになりかけていた。 

 

 それを自覚したこと、そして何より、フェレシーラが『魂絶力ゼフトを使うことは気にしない』という考えを示してくれたことで、俺はなんとか落ち着きを取り戻すに至っていた。

 

 アトマだろうが、ゼフトだろうが、結局は使う奴の中身次第。

 言われてみればもっともだと思える考え方。

 しかしそれを口にしてきたフェレシーラが、その答えに行き着くまでに数多の苦悩が存在したであろうことは、明白だった。

 

「あいつはマルゼスさんだと名乗っていたし、俺もそうじゃないか、って思いはしたけどさ。ならなんで、見た目といい、言動といい、使う術法といい……こんなことになってるのかが欠片もわからない。それが現状だ」 


 状況を振り返りつつ、俺は考える。


 フェレシーラは……フェレシーラ・シェットフレンは神殿従士だ。

 ここレゼノーヴァ公国に本拠を構える、魔人の殲滅を謳う聖伐教団にて、ただ一人、白羽根の称号を与えられた人間だ。

 そしてフェレシーラ自身も、魔人に対して強い敵意を抱えている。


 そんな彼女が『魔人のみがもつ魂の力』とされる魂絶力ゼフトに、良い心証を持っている筈がない。

 俺はそれが怖かった。

 

 もしもフェレシーラに、『お前が魔人の力を振るうのあれば、お前も同種同属だ』と言われて、敵視されてしまうのではないかと……

 心の何処かで、気にしている自分がいた。

 

 ギガントと呼ばれた影人が、ミストピアの街を目指して撤退する兵士たちに向けて『爆炎』を放たんとしていた、あの瞬間。

 俺はジングに命じて、それを止めさせようと目論んだ。

 その結果こそ、ジングらしいオチがついてはいたが……

 

 あれも結局は、『フラム・アルバレットが魂絶力ゼフトを使いたくなかった』というだけの話だ。

 思えばあの、フェレシーラに与えられていた霊銀盤が損壊し、何故だか消え失せてしまってからというものの。

 

 俺は自分の中に、魂源力アトマとは異なる力、即ち魂絶力ゼフトの存在を認識してしまっていた。

 それだけなら、まあ別に俺が望んでそれを手に入れたわけでなし、極論、己に責はないのかもしれない。

 だが俺は、度重なる戦いで己がアトマをすり減らしたことで、心の何処かでその力に縋りついてしまっていたのだと、自覚した。

 いま頭上をふわふわと浮浪雲のように漂う、『凍炎の魔女』と相対した瞬間も、そうだった。

 

 あの時、『マルゼス』の名と共に放たれてきた凍てつきの炎に対して、俺はアトマによる防御を選択しつつも……既にその力が尽きかけているわかっていた。

 その結果、発露したのがゼフトの産物、瘴気の波動だ。

 

 しかもたちの悪いことに、俺はそれをコントロールしていた。

 直前でジングに体を明け渡し、あいつが必死になってゼフトを操る様を目にしていたことで、理論上、それが可能だと感じていたのだ。

 

 定められた目標。

 目にした行為。

 発露せし事象。

 

 そうした結果から逆算して、『では己がそれをやるとしたら』と考えて、実践してしまう。

 ここに関してはもう、俺という魔術士未満の男の習性、癖のようなものとしか言い様がなかった。

 

 フェレシーラの展開した『防壁』が凍りつき、割り砕かれた時だって、そうだった。

 アトマが尽きているのであれば、その代わりの活力リソースとして、ゼフトを用いることが可能なのであれば。

 それをアトマ光波の要領で、剣気として象り放つことも可能なのではという……

 そんな目算が、頭の片隅にて成り立っていた。

 

 その結果が、あのアトマ光波ならぬ『ゼフト瘴波』とでも言うべき黒い飛刃の現出だ。

 俺の中に潜む、力を理で従えようという欲求にて成されたモノ。

 それはおそらく本来、人という種に赦された行為ではない。

 そんな代物は、生まれ育った『隠者の塔』に渦高く聳え立った文献の山の中にも、そこから旅立ち知り得た世界にも、どこにも存在はしていなかった。

 

 術理の獣。獣の術理。

 アトマという牙がなければ、ゼフトという爪を用いればいい。

 そこには欠片の倫理も、心理的な抑制もない。

 

 幾ら迷い悩んだ振りをしても、追い詰められれば躊躇することなく、そこに手を伸ばす。

 それがフラム・アルバレットというヤツだ。

 己の本質がそうなのだと、今更ながらに俺は思い知る。

 

 己の行為が引き起こした結果と向きあえ。

 それが力を持つ者の、責務なのだと。

 嘗ての師が教えてくれた魔術士足らんとする者の心得を、俺は何一つとして理解してはいなかったのだと、心底思い知る。

 

 そうした行為を通じて、俺という人間そのものを非難されることが、怖かった。

 なんという身勝手さかと自分自身に呆れそうになるが、思ってしまったことはどうしようもない。

 故に俺は、思うのだ。

 

「ありがとう、フェレシーラ。お前のお陰で、まだ何とか戦えているよ」

「え……なによ、いきなり畏まっちゃって」

「いやさ。こういう時だからこそ、しっかりと伝えておきたい、って思っただけだよ」

「やめてよ、そんな縁起でもない。それよりも、整理して、方針を決めておくんでしょ? いつまでもあの空飛ぶ非常識が、フラフラしてるとも限らないし」

「ああ……そうだな! って、とと……っ!?」


 気合一声、その場より上空を見上げようとするも、凍土と化した地面に足を取られて転びかけてしまった。

 

「ちょっと、なにやってるのよ全く……ほら、掴まって」

「わるい。ほんと締まらないな、我ながらさ」

「別にいいんじゃない? 肝心なときさえ締めてくれさえすれば、十分だし」


 当然の如くして差し出されてきた少女の手を、俺は内心おっかなびっくりで、しかしちゃっかりしっかりと握りしめる。


 きっと、この手が差し出されてこなければ……ゼフトを使った俺を、フェレシーラが気にしない、例え強がりでも言ってくれなかったら。

 幾ら戦う力が残されていたところで、俺はもう、駄目だったに違いない。

 零れ出る白い吐息を、手の内に残る熱で受け止めながら、実感する。

 

「無理難題を言うけどさ。ベストを求めるなら、あの『凍炎の魔女』を無力化するなりして、何者かを確かめたい」

「なる。『凍炎の魔女』ね。中々上手い渾名をつけるじゃない。ティオが聞いていたら、張り合っちゃってたかもね」

「いやいや……反応すんの、そこじゃなくないか? 流石に滅茶苦茶言ってる自覚あるぞ、今回は」

「なに言ってるのよ。もう慣れっこだもの。その線でいきましょう。勿論、戦わずに済むならそれに越したことはないけど……そこは難しいでしょうね」


 言いつつ、俺たちは揃って明々とした夜空を見上げる。

 そこにはこちらを睥睨する、『凍炎の魔女』が独り。

 

 その姿に並ぶ偽りの太陽……俺が生み出してしまった、馬鹿でかい『照明』の輝きに目を細めながら、情報を整理してゆく。

 

「多分だけどさ。あいつ、殆どの術を無詠唱か、発動詞のみで行使しているんだと思う。その上、『転』も絡めているし、攻撃範囲も不必要なほど拡大している節がある。飛行だって消耗は付き物だ。桁違いのアトマを秘めているのは確かだけど、突いていくならそこだと思う」

「ふむ。つまり、無駄な構成が多すぎてアトマの消耗が尋常じゃない、って話よね」

「ああ。その通りだ。言動も奇妙で予測がつきにくいから、急に真っ当な行動に出てくる可能性もあるけど……俺がどれだけゼフトを扱えるかも平行して、そういう部分も見ながらだな」

「オッケ。スタミナ削りの持久戦ってことなら、今回は私が防御担当ね。あんなにひょいひょい飛ばれてたんじゃ、『光弾』以外の攻め手に欠けるし」

「了解だ。もし可能なら、叩き落としも狙ってみる。その時は……一応、お手柔らかに頼むよ」

「そうね。正直言って、あれが本物の『煌炎の魔女』だとしても、一発ブン殴ってやりたくも……っと」


 一気貫通。

 手早く意見を交わしてプランを詰めてゆく最中、『凍炎の魔女』に動きがあった。

 ふわふわと上空で浮遊していたそれが、不意に巨大な『照明』に近づき始めたのだ。

 

「……え。なにあれ。思い切り眩しそうにしてない? もしかして、チャンスだったり?」

「だな」


 理由はわからずとも、この機を逃す手はない。

 

「それじゃ俺も色々試してみるから。フォロー、頼む」


 再び思考を回しながらのその要求には、頼もし過ぎるウィンクが返されてきた。

 


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