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【ボーイミーツガール & ハイファンタジー!】君を探して 白羽根の聖女と封じの炎  作者: 芋つき蛮族
十二章

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407. 今度は貴方から

「ったくよぉ……都合の良いときぶぁーっか、叩き起こしやがってよ。この餓鬼ゃあ」

「まあまあ、そう愚痴るなって」


 腕輪に生やした嘴をカチカチと鳴らして不平を洩らすジングに、俺は前もって用意しておいた宥めすかしの言葉を口に上らせた。


「最初に話してただろ? ちょっとばかし大変な感じになっただけで、狙いは変わらないさ」

「フン……ま、俺様もうっすらと覚えちゃいるがな。あのデ影人が、まーた出張ってくるってか。んで、そいつをなんとかするのを手伝えってか?」

「そういうことだな。話が早くて助かるよ」

「ケッ! どーせ根っからの甘ちゃんのテメェのこった。俺が協力しねぇでもここに残るつもりだろうが。これだからイチレンタクショーなんてのは好きじゃねーんだよ!」

「奇遇だな。そこに関してだけは同感だ」


 ルゼアウルが温存する鉄巨人に対抗する。

 それが俺にとっての、目下の狙いだ。

 その為の手段を選んでいられる状況ではない。

 

 腕輪の制限を解かれたジングとて、なんのかんのと言いつつもそれを理解している。

 故に、というべきだろうか。

 明らかに疲弊し、いま肉体の支配権を争うことになれば敗北は必死であろう俺に対して、この正体不明の魔人は乗っ取りを仕掛けてこなかった。 


「ま、そんだけボロボロのテメェの体を奪ったところで、出来ることはタカが知れてるだろうしよ。こんなところで共倒れってのも勘弁だからな。テメェの無駄に長ったらしい口車を聞かされる前に、俺様自ら手を貸してやんよ。嬉しいだるおォ? あァン?」

「そうだな」

 

 一々そんな理由を口にしてくるジングには、思わず苦笑いがこぼれてしまう。

 そんな俺たちのやり取りを、ホムラの上でポカンと眺めていたのがメグスェイダだ。

 

「え……なにその喋る喧しい腕輪。そういやキミ、さっきなんか滅茶苦茶騒がしかったけど……もしかしなくても、ソイツが喚いていたのかい?」

「正解だ。これでもお前と同じ元・魔人みたいだけどな」

「はー……世の中には色んなヤツがいるもんだ。しかし、なるほどね。それでそいつの力も借りて、なんとかしようって腹積もりなワケか」

 

 不可解そのもの、といった様子で話しかけてきたメグスェイダだったが……

 どうやらこれまでのこちらの振る舞いから、何かしらの打開策、奥の手があると思ったらしい。

 

「そういうことなら、ワタシはこのおチビちゃんと一緒に離れておくよ」

「ピ! ピピピピ……!」

「了解だ、メグスェイダ。ホムラ、心配するなって。もし何かあったら助けを求めるからさ。それじゃちょっと、行ってくるよ」

「ピィー……ピ!」


 最小限のやり取りを経て、俺は二人に一旦の別れを告げた。

 先程の風と凍気の息吹の余波だけでも、ホムラ、そして現状のメグスェイダにとっては運が悪ければ致命傷になりかねない。

 

 ホムラとてそこまで粘ることなく返事をしてくれたのは、そうした自覚があるからだろう。

 

「さて……」


 再び上空に身を置いたホムラたちを見届けて、俺はあらためて周囲を見回す。

 まずはミストピアに繋がる夜道。

 そちらで揺れ動く松明には、携帯用の水晶灯と思しき輝きもチラホラと混ざり始めている。

 響く歓声は兵士たちのもの。

 次第に勢いを増すそれは、本来であればこの上なく頼もしいものだ。

 

 だが、このままではそれも裏返ってしまう。

 ズキズキと痛む四肢を引き摺りながらも、俺は近くに転がっていた金縁の鍔付き帽を拾いあげると、次に見るべきものを目指した。

 

「フェレシーラ……ティオは動けそうか?」

「これ以上の戦闘は無理ね」


 フェレシーラの元に辿り着き問いかけると、即答が返されてきた。

 疲労困憊といったティオに肩を貸しつつ、彼女は続ける。


「全力の息吹ブレスを使った反動がやってきてる状態よ。外傷によるダメージじゃないから。『治癒』だけですぐに、っていうわけにはいかないし……でも、兵士たちも駆けつけてくれているから。この場を離脱するぐらいなら、なんとかってところね」

「わかった。なら、フェレシーラはティオを連れて兵士たちを退がらせてくれ」

「退がらせてくれって……どういうこと?」

 

 こちらの要望に、フェレシーラが怪訝な面持ちとなる。

 当然だろう。

 彼女にしてみれば、魔人たちを討ち果たす絶好の機会なのだ。

 

 故にこれからこちらがやろうとしていることにも、賛同は得られない可能性が非常に大きい。

 言葉を選び、俺は説明を行った。

 

「まだあっちは、あの『爆炎』を搭載していたのと同じタイプの影人を温存しているって話だ。たったいま、メグスェイダから聞いた」

「……なるほどね。それで貴方だけで足止めをするつもりってわけか」

「ああ。詳しく話している時間はないけど、やってみたいことがあるんだ。もしそれが嵌れば、この場をなんとか出来るかもしれない」 

「もしに、かも、ね」

 

 それだけ口にすると、フェレシーラがこちらの腕をじっとみつめてきた。

 そこにあるのは、鷲の嘴を生やした漆黒の腕輪。

 

 ふーっ、と長い長い溜息の後に、青い瞳がこちらを見据えてきた。

 

「どの道、あの木偶の坊が出てきてからじゃ手遅れだものね。私としては、どうせ賭けに出るのなら、一か八かであいつらを倒しにいくのも手だとおもうのだけど」

「ああ。お前がそうするんなら、俺もそっちでいくよ。やるならどちらかだ。中途半端は嫌いだろ?」 

「ちょっとちょっと。それ、こんな時に言う?」

 

 呆れたような、しかしどこか嬉しげな笑みで彼女は言ってきた。

 

「この場は任せます、フラム。ただし、必ず無事で戻ってくると約束してくださるのであれば、の話ですが」

「ああ、任された。必ず戻る」

「そうですか。ならば私も、必ず皆を護ります。まずはそれから、ですね」


 互い見つめ合っての、言葉少ななやり取り。

 フェレシーラが『治癒』の詠唱に移る。

 

「気休めでしょうが、これだけでも」

「助かる」


 暗い夜の中、温かなアトマの光にしばし身を委ねてそれだけを返す。

 フェレシーラが、一瞬、肩を貸していた同門の少女へと視線を向ける。

 

「おい」

 

 それが引き金となったのか、ティオが苦しげに片目だけを開き、口を開いてきた。

 

「私のこと、皆にバラしたらブッとばしてやるからな」

「いやいや、そこは『気合入れてこい!』とか、『負けんなよ』、とかだろ? 普通さ」

「普通だとか、普通じゃないとか、知らないよ。そんなの当たり前のこと、どうでもいいし。それよりも、その腕輪のこととかもちゃんと話せよ。これ以上隠すんなら、別口でブッとばしてやる」

「了解だ。おもったより元気そうで安心した」

 

 こちらが帽子を差し出すと、彼女はそれを受け取り、目深に被ってみせてきた。

 

 そういやコイツ、たまーにだけど一人称がボクじゃなくなるんだよな。

 勝手気まま、自由奔放って感じだけど……案外キャラを作ってる、ってヤツなのかもしれない。

 というか、晩餐会のアレ。

 エキュムが飲んでいたペスカザント産のお酒に文句いってたのも、多分自分が半分、竜人族ドラガートの血を引いていたからなんだろうな。

 

「俺もまだまだ色々聞きたいしさ。行ってくるよ」

「ん。許可してやるから、ボクの代わりにまとめてブッとばしてこい」


 そうこちらに命じてから、ティオはフェレシーラの支えをそっと手で押し退けて、松明の灯りへと向けて一人歩きだしていた。

 それを見送り、俺は四肢の感触を確かめる。

 

 フェレシーラの『治癒』が効いたのか、なんとか動ける状態にまで戻ってはいる。

 本音をいえば、もう少し回復を待ちたいところだったが……

 これ以上時間をかけては、ルゼアウルにも大きな余裕を与えてしまうのは、わかりきっていた。

 

 もしかすれば、既に鉄巨人の召喚に取り掛かっていたり、それに比する脅威を持ち出してくるかもしれない。

 

「フラム」


 そこに意識をもっていったところに、どちらともつかない、フェレシーラの声がやってきた。

 

「――」


 戸惑いから動けずにいたところに、やってきたのは左の頬への、あまく柔らかな感触。

 

「一緒に還れたら、今度は貴方から続きを……ですよ?」


 一方的な要求だけを残して、白いブーツが地を蹴り駆け去っていった。

 あとに残るは、呆然と立ち竦む俺一人。

 

「……たまにゃあ、気を利かして静かにしてやろうと黙って聞いてたがよ」

 

 すっかりと忘れていたが、それともう一人。

 

「これからって時に、クッッッッッッソゆっるゆるの、にやけた顔してんじゃぬぇーよ! テメェはよぉ!」

 

 呆れ具合よりもキレ具合のが若干勝る勢いで、ジングくんが叫び散らかしてきたのだった。



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