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【ボーイミーツガール & ハイファンタジー!】君を探して 白羽根の聖女と封じの炎  作者: 芋つき蛮族
十二章

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404. 標的、其処に在らず

「出来れば無傷で捕えたかったところでしたが……それもここ迄です! 覚悟なさい、フラム・アルバレット!」

「ま、そうなるわな……!」


 ふわり、と猛禽の翼でもって宙に舞い上がる魔人を前にして、俺は素早く後方に退避を開始していた。

 耳木兎ミミズクの魔人、ルゼアウル。

 如何にコイツが戦闘を得手としていないとはいえ、手加減抜きで仕掛けてくるとなれば、また話は変わってくる。

 

 手を振りかざすのみで生み出せる、瘴気の波動。

 そして翼より放たれる無数の羽根。

 どちらも指向性が高く、攻撃の範囲自体は広い飛び道具だ。

 

 明らかに肉体派には属さぬルゼアウルにとって、それは使い勝手良い攻撃手段なのだろう。

 だが―― 

 

「ぬうぅ……!」


 耳木兎ミミズクの魔人が、初めてみせる『溜め』の動き。

 胸の中心にて両の掌で『何か』を抑え込むような仕草から、不意にその手が、見えぬ『何か』を圧し潰した、その刹那。

 

 ルゼアウルを起点とした周辺に、突如して暴風の渦が出現した。

 

「うぉっ!?」

 

 渦上に吹き荒れる颶風に、体が横倒しになりかける。

 咄嗟に右の踵で地面を抉るようにして踏みしだき、姿勢を低く取ることで、俺はなんとかその結末に抗っていた。

 そうしながらも、意識は両腕、手甲へと持ってゆく。

 

 強烈な風圧で以てこちらを捻じ伏せようとする風の暴威は、その発露の在り方は別として、こちらにとっては予測済みの行動だ。

 ちまちま追い込む必要がなくなれば、溢れる力、魂絶力ゼフトをもって広範囲を一気に薙ぎ払う。

 シンプルながらも非常に効果的な力押し。

 

 多少の小細工など物ともせぬその御業は、ルゼアウルという魔人の力を示すと同時に、付け入るべき隙の象徴でもあった。

 

「起きよ、承けよ――」

「!?」 

 

 地べたにしがみつくようにして堪える俺の声に、琥珀色の瞳が驚愕に見開かれる。

 その直上に在る二本の羽角がビクリと揺れた瞬間に、俺は手を眼前へと突き出していた。

 

「結実せよ!」

 

 本日何度目となるかもわからぬ、『熱線』の魔術の模造品。

 不定術により練り上げられた拳大の火線が、灰色の靄に遮られて無散した、その直後――

 

「せいッ!」

 

 俺は抜き身にしていた蒼鉄の短剣より、アトマの斬撃を繰り出していた。

 銀閃が煌めき、無風となった地に何かがぼとりと落ちる。

 

「ぐ」


 耳木兎ミミズクの魔人が、反射的に手で顔を覆う。

 それはきっと恐らく、遅れてやってきた衝撃だったのだろう。

 

「ぐおおおおぉぉぉォォッ!?」


 夜の静寂しじまを引き裂いて、ルゼアウルの絶叫が周囲に響き渡っていた。

 

「ルゼアウルさま!」

「な……!?」

 

 遅れてやってきたのは、赤銅の魔人ターレウムと、ローブの魔人ツェブラクの声。

 

「もらいッ!」

「いただき!」


 主の窮地を察した従僕たちに、気を逃さずフェレシーラとティオが仕掛けるのが、視線を巡らせずともわかった。

 

「あう!?」

「ぐうっ!」

 

 続けてあがる苦鳴の声と、轟音に閃光。

 拮抗していた形勢が一気に傾く気配を背に、俺は地を蹴り標的へと迫る。

 そこには今の今まで羽角の生えていた右頭頂部を掌で押さえよろめく、地に落ちた魔人の姿があった。

 

「お、のれ――」

「さすがに攻撃と打ち消し、両立は不可能だったみたいだな!」


 ルゼアウルの能力、『発動しきった術法』への強制介入――

 こちらのフルパワーの『熱線崩撃』すらも容易く打ち消し、その上こちらの精神領域に関わる術法式の改変まで同時に行ってみせるという、恐るべき異能。

 

 これに関する情報を集めた上で、それを打ち破るとすれば。

 そこはやはり、『ルゼアウルの異能の適応範囲』が、どういった代物なのかを見極めることが肝要だった。

 

 どれだけ強力な異能であろうと、何かしらの欠点や、得手不得手はあって然り。

 決め打ちに等しい思考だが、相手の力が万能であると根拠もなく仮定する必要はない。

 というか、そんな考えでは打ち破れる物も打ち破れない。

 

 そうした思考に基づき当たりを付けたのが、『ルゼアウルの術法介入能力』は『術法式を介したもの、対術法に特化している』という読みだった。

 もしそうであれば、術法とそれ以外の攻撃手段を組合わせることが、最も効果的。

 しかしそれだけでは、足りないとも思えた。

 

 そこで目を思い付いたのが、『全力攻撃中のルゼアウルに術法を叩き込む』ことだった。


 そしてその術法を、戦いに関しての経験が不足しているヤツに、俺の最強の攻撃術『熱線崩撃』だと思わせて、その実、不定術の『熱線』モドキに抑えて仕掛けてゆく。

 

 そうすることで、攻撃中のルゼアウルは『熱線』モドキを避けることなく、己が頼りとする異能を全開にして無効化に及ぶも……

 負担を最小限に抑えていた俺は、余力をもってアトマ光波を放つことに成功。

 

 結果こちらの思惑どおりに、ヤツの異能の発動条件トリガーである羽角の一つを斬り落とし、撃墜することに成功していたのだ。

 

「ま、まだです! これしきのことで……!」

「おっと! 飛ばれたり回復されたりは困るんでな! このまま押し切らせてもらうぜ!」

 

 威圧の宣言に乗せて振るい抜いた蒼き鋭刃が、ルゼアウルの残るもう一本の羽角をも捉え裂く。

 苦し紛れに放たれた瘴気の波動は、左のサイドステップですんなりと躱し切る。

 

 素早く移動を終えたその場所は、ヤツ自身が生み出した完全なる死角。

 そのまま左足を一歩、大きく前へと踏み込ませる。

 湧き出でる殺気は隠す必要もない。

 

 ただ、チラリと視界を周囲に巡らせるのみだ。

 手甲の霊銀盤には、煌々たるアトマの光。

 

 死角の外から尚その力を示す輝きが、窮地に陥ったルゼアウルを更なる泥沼へと引き摺り込んだ。

 

「ぬううぅぅ!」

 

 怒気を撒き散らす魔人の翼より、矢の如き羽群が乱れ飛ぶ。

 無遠慮に迫る不埒者に死を齎す、起死回生の一手だ。

 

「し、しまった……!」

 

 その一撃を放ち終えてから、我に返ったのだろう。

 光波の一撃から立ち直ったルゼアウルが、悔恨の呟きと共に面をあげた。


 必ず捕えねばならない筈の獲物を、思わず蜂の巣にしてしまった――

 それはそんな想いから漏れ出でた声だったのだろう。

 

 焦り、耳木兎ミミズクの魔人が標的の骸を確認しにかかる。

 しかしそこにあるのは、彼自身が放った無数の羽弾のみ。

 

「き、消えた……!? こ、この一瞬で、一体どこへいったと言うのです!」

 

 直立したままのルゼアウルの首がぐるりと周囲を一望するも、求める影すらそこにはない。

 標的の不在に慌ててか、翼を羽ばたかせてふらりと宙に舞うも、結果は同じ。

 やはり眼下にこちらの姿はない。


 そこでヤツは、ようやく異変に気付く素振りをみせてきた。

 

 ここに訪れてからずっと存在していた光源が、その輝きが、強まり始めている。

 

 それはこちらが放つ、眩いアトマに目を奪われてだったのか。

 それとも目まぐるしく移り変わる戦況に、思考と動作がついてゆけなかったからなのか。

 はたまた、然したる光も必要とせぬ琥珀色の瞳が、取るに足らぬ要素だと誤認してしまっていたのか。

 

 なんにせよ……フェレシーラとティオ、そして俺の攻撃術ばかりに気を取られていたのが、そもそもの失敗。


 加えていえば、そう機敏に動けるわけでもないのに、考えなしに宙に飛び上がったのも敗因の一つだ。

 

「ピィィ!」

 

 響く戦友の声に、ルゼアウルが呆然と天を見上げる。

 そこに在るのは『浮遊』の術効を得て上空へと舞い上がっていた俺を見事回収し、間髪入れずの急降下を開始していたグリフォンの雛、ホムラの姿。


 そしてそこから飛び降りたこちらが狙うは当然、呆気にとられた魔人の顔面一択に決まっている!


「せぇ――のっとぉ!」


 落下の最中、身を捻りながらの己がアトマと全体重を乗せた、渾身の踵蹴り。


「グホッ!?」

 

 やることなすこと悉く裏を掻かれ続けた耳木兎ミミズクの魔人が、その一撃を避け切れなかったのは、最早必然だった。


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