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【ボーイミーツガール & ハイファンタジー!】君を探して 白羽根の聖女と封じの炎  作者: 芋つき蛮族
十二章

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403. ジングなき戦い

 取り敢えずは、ふとした思い付きからの急造の打ち合わせを終えたところで――


「そういうわけで……いくぞ、ジング!」

「おうよ! まっかせんしゃーい!」

 

 一抹どころか、二抹も三抹もの不安を抱えつつ、俺は地を蹴り進路を変更した。

 狙うは当然、耳木兎ミミズクの魔人。

 

「ホゥ……逃げ回るのは止めにしましたか。その覚悟や、良しです」


 ルゼアウルがそれを見て、両手両翼を広げて迎え撃つ構えを見せてきた。

 標的である俺が自ら突っ込んでくるとあれば、あちらにしてれば願ってもない好機、千載一遇チャンスというヤツに違いない。


 戦い慣れてはおらずとも、基本的なスペックではこちらを上回っているであろうルゼアウルからすれば、ここで守りに入る理由はない。

 当たるを幸いとばかり手を出して、一発いいのを入れてさえしまえば、後はどうとでもなるという判断だろう。

 

 だが…… 


「ハッ! ぬぁーに大物ぶってやがる、この雑魚が! テメェのすっとろい攻撃なんざ、こちとら目ぇ閉じてても当たらねーんだよ! 欠伸がでちまわぁ!」

「な……!?」


 当たり前のことながら、いまのフラム・アルバレットくんは、『生ける騒音、喋る阿呆』ことジングくんがもれなくついて来る迷惑仕様となっている。


 ていうか、攻撃を避けているのって俺なんですけど。

 

 なんて事実もお構い無しに、口を開けばチンピラ丸出しの罵詈雑言。

 口を塞いでも直接頭の中でそしりはしりは日常茶飯事。

 そんな鷲頭の参戦は、ルゼアウルにとっては予想の外にあったらしい。

 

「そ、その口汚さ、品の無さ……もしや、私の術に紛れ込み、あろうことかその者の体を操っていた!」

「お……気付く程度のアタマはあるみてぇだな? そうよそうよ、俺様こそが」

「オンボロ吸血兜ヤドカリ!」

「――って、んだそりゃあああああああああァっ!?」


 耳木兎ミミズクの魔人の指摘を受けて、俺の腕がめっちゃブルブル震えた。

 

 いやホントうるさいなコイツ。

 腕輪経由で叫ばれただけで、握ってた短剣落としそうになるってどんだけだよ。

 あと自分のやったことを思えば、むしろ的確だろその呼び名は。

 

 ……とまあ、そんなことはどうでもいいとして。

 こちらはこちらで、この隙に準備に入っておかねばならない。


 でないとマジで喧しいだけのお邪魔虫でしかないもんな、この状態のコイツって。

 

「おのれ面妖な……! 大体貴方は、なんなのですか! 突然邪魔立てしてきたかとおもえば、今度は喋る腕輪などという、ふざけた姿で! 何者ですか! 名乗りなさい!」

「おン? なんだテメェ、俺様の名乗りを聞き逃してたのかよ。まあいい……三下下郎、サンゲロウくんにも特別に教えてやろうじゃ、あーりませんか!」

「ぐぬ……! 一々偉そうに!」


 ……よし。

 いいぞいいぞ。

 やっぱりコイツ、読み通りだ。

 

 影人を率いる魔人、ルゼアウル。

 言うなればコイツは、俺と同類でもある。

 ある意味で、悲しいまでに似た者同士なところが――

 

「うぉれさまの、ぬぁまえはあぁ! 勇猛にして獰猛。知的にして美的。怜悧にして鋭利。生まれながらにしての王者! 超、絶、王、者! ジング様であーる! 頭が高いわ、くぉのぅ雑魚めが!」

「いや、流石にうるさすぎんだろ! ていうか二度も王者って言うの、必要だったかいまの!? マジでお前の頭ん中どうなってんだよ!」


 思考の最中、絶好調で荒ぶり割って入ってきた鷲兜に対して、ついつい予定外のツッコミに及んでしまう俺。

 ちょっとちょっと、ジングくんや。

 キミ、復活してから更に喧しさに磨きがかかってやしないか?

 

 一応思惑があってコイツを解放してみたが、流石にこれは行き過ぎ、逆効果になりかねない。


「てなわけで……ちょっとお口にチャックな、お前」

「おァン!?」


 翔玉石の腕輪に念じてジングの口を封じてからの、しばし様子見。

 勿論相手は、間近で警戒するルゼアウルだ。

 

「……貴方がその珍妙な生物の主、というわけですか。フラム・アルバレット」

「んー。まあ大雑把にいうとそんな感じかな」

「ホゥ」


 じわり、と距離を詰めつつ、視線は黒き腕輪とこちらを往復させる。

 

「人間が作った秘術生命体……にしては、意図がまるで見えませんね。余興で拵えたものか、失敗作ということであれば――いや、それにしても理解出来ません。その様な道化を傍におくなど、一体なんの利益が?」

「言いたいことはわかるっていうか、正論だとは思うけどな」


 推測、そして質問、更には疑念。

 それら次々と湧いてきた言葉を、俺は否定せずに受け流す。

 そこにルゼアウルが、瞳を細めて言ってきた。

 

「的外れだと言いたげですね」


 焦りも苛立ちも感じさせぬ、只々、『答えが欲しい』といった口振り。

 それを受けて俺は確信する。

 

 耳木兎ミミズクの魔人、ルゼアウル。

 コイツはいわゆる『知りたがり』だ。

 

 それも生半可ではない、極度の、病的なまでの知りたがり屋とみて間違いない。 

 これまでのやり取りから、俺はそう当たりを付けていた。

 

 まあ、それ自体は大なり小なり、この手の研究者タイプにはその気があっておかしくもないだろう。

 それはいい。

 言ってしまえば、それはこの際オマケのようなものだ。

 

「そんなにコイツのことが気になるか?」

「気にならないといえば嘘になりますね。ですが……いまは時間もありません。まずは貴方を捕えた後に、そちら腕輪も一緒にじっくりと調べさせてもらいましょう。無論、貴方がしてみせたように、そのジングとやらを黙らせてからということになりますが」

「そりゃ懸命な判断だ。コイツにゃ俺も相当手を焼かされているからな。ああ……それと、コイツはな」


 ぴくり、と動きかけていた翼が制止した。 

 ジングに関して追加の情報がある。

 

 ルゼアウルがそう考えるには、最早必然だ。

 何故なら コイツの目的である『我が君』とやらにまつわる事柄と、ジングのやらかしたことは……

 主と崇める『我が君』を差し置いて、『フラム・アルバレットの体を乗っ取った』不逞の輩が存在している等ということは、ルゼアウルにとってはあってはならないイレギュラー。

 何をもってしても阻止すべき、最優先の行動に割り込めるだけの危険性を秘めていることは、誰の目にも明らかだからだ。

 

 故に俺は、そんな彼に向けて……しっかりと練り上げ終えていた(・・・・・・・・・)、力ある言葉を投げつけていた。

 

「吹き飛べ!」 

「な!?」 

 

 会話の脈絡もなにもなく、突如として撃ち放たれた赤きアトマの閃光。

 その一撃に、ルゼアウルが驚愕の声をあげる。

 あげつつも、その頭上に在った二本の羽角がピンと持ち上がる。


 赤一色の煌めきが、喚き立てるジングという騒音の影に隠れてこっそりと用意していた、俺の放った『熱線』モドキが消え失せる。

 狙い違わずルゼアウルを焼き焦がす筈であった火線が、しかし何の結果を残すこともなく、物の見事に消え失せていた。

 

「その羽角の動きと、術法の無効化……それがアンタの能力ってわけか」

 

 そうして後に残されていたのは、見覚えのある灰色の靄。

 耳木兎ミミズクの魔人を包むそれを見て、精神領域に満ちていた物と同じ靄を前にして、俺は言葉を紡いでゆく。

 

「術法式により指向性を与えられたアトマの動きを自在にコントロールする。正直、どうやって一瞬でそんな真似が出来るのかは理解不能だが……」


 断定、疑問、そして残るはもう一つ。


「そんな芸当が可能なら、俺を乗っ取る為に仕掛けられた術法式を利用して、精神領域に乗り込んでくるだなんて離れ業を仕出かしてきたのも、まあ納得だな。あとついでに言えばアレだろ。アンタの二つ名。アレって術法式を崩したり手を加えたり出来るから、そう名乗ってるんだろ? 砂上の楼閣って感じでさ」

「おのれ……おのれ、たばかりましたね! この私に、力を使わせるために! このような、姑息な手で!」


 してやったりといわんばかりの納得の表情を見せてやったところで、『砂閣のルゼアウル』が怒気も露わに俺の指摘を肯定してきた。

 


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