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没落少女、蛮族少女へ目覚めゆく

 蛮族の試練バンゾクエスト。その存在を理解してから、グレイスはまた1つ変わった。

 何故なら、気付いてしまったからだ。まだ自分はお客様であったのだと。シャーマン見習いで、ベルギア氏族の魂であるベルギア刀を受け取ってなお、グレイスはお客様であった。

 まあ、よくやってくれている。そんな感じであったのだ。それが、物凄く悔しかった。だから、そう。だから……グレイスは自分の中の自分を常識人足らしめるリミッターを1つ、外した。具体的には動き方だ。


「ゴブアアアアアアア!」

「アアアアアアアアア!」


 光の指し示したルート上にあったゴブリンの集落で。

 どちらがゴブリンか分からない雄叫びをあげながらグレイスはゴブリンと剣をぶつけ合う。ゴブリンの武装はそれなりに立派で、ゴブリンソードマンとか……まあ、そういう風に呼ばれる相手なのかもしれない。しかし、しかしだ。散々蛮族流の鍛え方をしてきたグレイスが、戦士とは言えずともそこらの雑魚に負ける程度の筋力であるはずがない。

 そして何よりもベルギア刀はこれ以上ないくらいに叩き潰し押し切ることに適した曲刀だ。そこらの剣では簡単に鉄屑にしてしまうベルギア刀を適切な筋力で振り回すとどうなるかといえば、その答えは必然。


「ゴ……!?」


 砕けた剣を驚愕した目で見ていたゴブリンソードマンは、グレイスがすでに態勢を変えていたことにも気づかなかっただろう。当然、自分の首を狙い全力で振るわれるベルギア刀の軌跡にも。

 斬、と。あまりにも明快で爽快な音を響かせゴブリンソードマンは死んで。グレイスはそのままベルギア刀を持っていない手を後方で弓を引き絞っていたゴブリンアーチャーへと向ける。


「蛮神グラウグラスの鋭き剣風よ!」


 まるで手刀でも放つかのようなその動きと共に風の刃が放たれ、ゴブリンアーチャーは弓ごと裂かれ倒れる。


「お、おのれ……! 人間め!」

「その騎士の如き装備……貴方はゴブリンナイト、ということでよろしくて?」


 立派な全身鎧で身を固めたゴブリンにグレイスはそう呼びかける。そう、ゴブリン。ゴブリンは蛮族の間では「見つけ次第ぶち殺してもいい相手」として教えられる。

 何故ならばゴブリンは種族全体の生まれながらの特性として卑怯で、狡猾で、戦士としての誇りを何一つ持たず、得ることもなく、戦士の誇りをどうやって利用し穢すかを考えるからだ。様々な部族で300年以上に渡り世代を超えて探究を続け、ゴブリンは生まれながらにそうした生き物であると結論付けた。

 今のところその結論に反するゴブリンは1度として出現したことはなく、例外なく蛮族たちを激怒させた。だから、蛮族は総じてゴブリンは……別に探して殲滅するほどではないが、見つけたら殺すと決めている。そしてグレイスも今、そのルールに沿って動いていた。


「そうだ。俺は誇り高きゴブリンナイトだ! 正々堂々と決闘を所望する!」

「私はベルギアのシャーマン見習い、グレイスですわ」


 だから、ゴブリンナイトとグレイスは剣とベルギア刀を構えて。


「蛮神グラウグラスの厳粛なる決闘場よ」


 ゴウ、と。ゴブリンナイトとグレイスの周囲に炎の壁が広がった。


「ゴブ!」

「ゴブブ!?_」

「ゴブア……ギャアアアアア!」


 炎の壁の向こうから複数のゴブリンの驚愕の声が響き、炎の壁に触れようとしたらしいゴブリンが一瞬で焼き尽くされる音が響く。そう、これはベルギアのシャーマンが使う「決闘専用」の魔法だ。蛮族の誇りを体現した魔法であるとも言えるが……自分を囲むこの魔法は、他の種族は使わないだろう。


「フフフ……さあ、これで正々堂々ですわね。外に居る伏兵には何も出来ませんわ」

「な、ななな……なんだこれは!?」

「何って。蛮神グラウグラスの決闘場ですわ。だから……」


 グレイスの指が炎の壁に覆われていない空を指して。そこには上空から鳥型モンスターに乗ったゴブリンアーチャーがグレイスを狙おうとしていて。


「ゴブアアアアア!?」


 炎の壁から一斉に伸びた炎が一瞬にしてそれを焼き尽くす。


「誰も邪魔できませんわ。私と貴方。どちらかが死ぬまで二人っきりでしてよ?」

「お、お前……!」


 ゴブリンナイトは驚愕する。いや、恐怖する。こんな魔法、自分だって逃げられないのに。普通であればこんなもの使わないし覚えない。なのにこんな、こんな魔法を人間が。


「ベルギア氏族ではね、教わるんですのよ。ゴブリンの喋る言葉、態度は全て相手を騙すための詐術。だから、動き以外は信用してはいけないと」

「う、うおおおおおおおおお!」

「だから、見えてますのよ。貴方が仕込んでいる、そのナイフも」


 ゴブリンナイトの振るう剣は、勿論当たればそれなり以上の傷を負う。しかし同時に投げたナイフは恐らく毒。だから、グレイスはベルギア刀でナイフを防いで。


「死ねぇええ!」


 そうすれば当然、ゴブリンナイトの剣を防ぐ術はない。ない、から。グレイスは前に出た。

 自分の命を狙う剣を、真正面に出て僅かな動きで回避して。


「嘘だろ」

「現実ですのよ」


 ただベルギア刀と今までの修練を信じて、更に踏み込む。

 前にしか道はない。その教えの通りに動いたグレイスが得たのは、ゴブリンナイトの首を斬り飛ばすことによる、勝利だった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] お嬢、、、たくましくなられた…笑
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