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29 自由奔放な始祖のペット

こんにちは! ひよこのこです。

今までランキングの見方がよくわかっていなかったのですが、この度なんと!

《日間ランキング》と《週間ランキング》どちらもランクインすることができました!!!


お読みくださってる方々には感謝の念が堪えません、

本当に本当にありがとうございます!!

まだまだ表現に拙い部分もあるかと思いますが、これからも精進していきたいと思いますのでよろしくお願い致します。



 興奮が昂り、もうアイリス(この子)をここで食べてしまおうかと考えていた頃。

 突然部屋の扉がノックされる。


 感じる気配から誰かと思ったがその規則性のあるノック音に、すぐに思い至る人物が脳裏に過った。


 横になりながらも抱きしめる腕を緩めて上体を起こし、部屋に入ってきたレーテに視線を向けると、なにやらただならない様子で口を開き始める。



「リア様、少々お耳に入れたいことがございます」


「……どうしたの?」



 レーテの並みならぬ様子に眉を顰めながらも、とりあえずは報告を聞いてみることにするリア。


「はい。現在イストルム全域で、大きな噂になりつつあるものを耳にしました。曰く、街の外に突如として現れた巨岩が都市の主道を塞ぎ、交易に被害が出ているというものです」



「巨岩? それはどういったものなの?」



 話を聞いていると、現状は特に大したことではないように思えたリア。


 だが、そうだった場合はわざわざレーテが自分に報告することはないだろうと考え、恐らく伝えたいことの根幹となってる部分を掘り下げようと聞き返すことに。


 するとレーテは頷きながらも一瞬、躊躇いのような気配を漂わせるが、そんな素振りはなかったかのように口にだし始める。



「はい、巨岩はどうやら未確認の黒い鉱石で覆われてるとのことで。既に都市内の名だたる発掘家や鉱物研究者、土系統魔法に特化した魔法士までも集め、その物体の詳細を得ようとしたみたいですが何も得ることはできなかったようです」


 一度話しを切り、リアの反応を待つかのようにその視線を真っすぐに向けてくるレーテ。

 リア自身、話しを聞いていると思い当たるのはたった1つしか浮かばなかった。



(巨岩って黒竜(ティー)のことだよね? どうしてあの子がこんなところまで来てるの?)



 話しに出てきた巨岩というのは十中八九、リアのペットである黒竜のティーのことだろう。


 だが、リアが釈然としないのはどうして山1つ分離れた場所にいる筈のペットがこの都市、それも主道のど真ん中にいるのかということだった。



「どうして……、何か気になる物でも追って来たの? それとも私に会いに来た?」


「やはり、そうなのですね。――その点についてはわかりかねます。 ですが主道の門前にいつの間にか現れ、それ以降は一切の動きが見られないとのことなので、恐らくまだその存在が竜だとは気づかれていないようです」



 思わず漏れ出た言葉に同意するようにレーテはコクリと頷き、再び視線を交差させた目には『どうしますか?』という感情がありありと見てとれる。



 リアはこの世界に転生してからティーを呼び、それなりの頻度で黒竜(あの子)にはお世話になっている。

 というのも、基本的に闇ギルドの依頼はこの都市でのものが半分を締めているが、もう半分は隣町や辺境に行くということが多々あったのだ。


 そんな時、最初の遠征依頼の移動方法として、それなりの距離もあったことからティーにお願いしたりもした。


 基本的には移動は深夜な為、黒い鱗に覆われたティーは隠密性としても優れており何より速く目的地にかなりの速度で辿り着ける。


 ティー自身は動くことが好きではない模様で、基本的に岩に擬態して寝ているみたいだがリアと会うことに関しては毎回じゃれ(ダンプタックルし)てくる事から喜んでくれているのは間違いない。


 それ以降、それなりに一緒に空の散歩をしてるわけだけど――



「あの子はあまり動きたがらないから、可能性があるとしたらそのくらいなんだけど……」


「既にティー様がいらっしゃる正門は封鎖されており、入出国するものは迂回して3つの門から入国されいるそうです。ですが、いつまでもというわけにはいかず、既に領主が巨岩(ティー様)の破壊を試みる動きを見せているそうです」


「……そう」



 なるほど、既に対策に走っているようだ。


 リアはアイリスから名残惜しくも手を放し、それなりに落ち着きを取り戻した状態でベッドから降りソファへと腰かける。



(昨日、報告がなかったということは今日移動して来た筈。随分早い対処だけど……いや、当然か)



 4つの正門の内1つを完全に使えなくしては商業都市であるこの街は、貿易と交通に甚大な被害が出るのは死活問題だろう。

 早急に対策に取に掛かるのは当然であり、想像に難くない。



 ただどっちにしろこの街の人間、いや世界中の存在でも黒竜(ティー)を破壊するのは難しいと言わざるを得ない。



「あの子を傷つけるとなると一定以上の魔力持ちが【最上位魔法】を使わないと難しいわ。壊そうとするならその更に上の【極致魔法】じゃないと」


 そう言って話すリアの言葉に、レーテが怪訝そうな表情を浮かべる。


「【極致魔法】とは……いえ、―――それ以前に【最上位魔法】を持ってしても、傷つけるのがやっとだと言うのですか?」



 珍しくも驚きの表情を露わにするレーテ。

 すると後方から布の擦れる音が微かに聞こえ、何かが動いたような気配を感じる。



「そ、それは……! どういった、魔法なんですの?」



 振り返ると寝たフリをしていた眠り姫(アイリス)が目を見開き、瞳には驚きを隠せずにいたがその深いところには未知の魔法を知りたいという強い知識欲のようなものが見え隠れしている。


 そんな愛おしいアイリスの様子に頬が緩み、今まで話してなかったのが申し訳なくなると同時に、今度人気のない場所で魅せてあげようと心に決めるリア。




 彼女達は間違いなくこの世界の強者、これまで見てきた者達と比べてもそれは明らかだ。


 目の前のレーテの珍しくも絶句した様子や、アイリスの探求心を露わにした様子から、それらの魔法はこの世界では知られていない――もしくは行使できるものが極端に少ないのではないか思える。



(【最上位魔法】は知ってる様子、【極致魔法】は……見たことがない?それとも知らないのかな? 最近めっきり使わなくなっちゃったけど、これを機にどのくらいまで知ってるのか聞いておくのもアリね)



 足を組み手を口元に運んだ状態で思案するリア。

 すぐ隣にベッドから抜け出してきたアイリスが座るのを感じ、口元から手を離して二人へ順に視線を向ける。



「ねぇレーテ、貴方が知る中で一番高位の魔法は何かしら?」



 そう問いかけるリアにレーテは僅かに顔を強張らせ躊躇いがちに口を開いた。



「【最上位魔法】です。古い書物にはリア様が仰った【最上位魔法】がいくつも存在する事や、更にはその上の階位があると記されてるのを目にしたことがありますが。実際にそれらを見たことや聞いたことは一度としてございません」



「なるほど、その【最上位魔法】の更に上の魔法、それが【極致魔法】よ」



 説明などいらないだろう、今話したところでそういった存在があるのを知るだけで、その効力や規模はわからない筈。

 下位の上に中位、中位の上に上位があるように、彼女らが知っている階位から更に上があるというだけである。


(まぁ、行使する為の魔力(MP)最低限の実力(必要LV)、それに特定の条件はあるんだけど。それはまた今度ね)


 リアの言葉にアイリスは息を飲み、零れるように震えた声がその小さな口から漏れ出した。



「最上位の……上、そ、そんなの……神話の、領域ではありませんの?」



 まるで信じられない話を聞くように、目を見開きその赤い瞳を揺らすアイリス。

 レーテはそんな状態のアイリスに同意するように、反応すら見せずに黙り込む。



(百聞は一見に如かずと言うし、今度見せてあげよう、うん! それよりも今は)



 まだ聞きたりないとその目が物語っているアイリスに、また今度ね、という意味も含めて苦笑を浮かべ頷くと扉の横に直立しているレーテに目を向けた。



「そういうことだから、ティーを破壊するのは不可能に近い。そうなると領主がどういう行動にでるかは明白なわけで、ちょうどよかったかもしれないね」


「よかった? それはどういう……」



 いち早く驚愕から意識を戻す、というより切り替えたレーテが眉を顰める。

 アイリスは……最上位魔法や極致魔法について考えているのか。

 魔法の知識がレーテより深い分、もしかしたら鮮明にその規模を想像しているのかもしれない。


 そんな二人にリアは既に決定事項として、帰って二人がいる時に話そうと思ってたことを口に出したのだった。



「聖王国って場所、そこに大聖女がいるという情報を手に入れたわ」


 リアの言葉にいち早く反応したレーテが怪訝な表情をつくり思い出したように口を開いた。


「っ、アレは聖女であって、リア様が探しておられる大聖女ではないと――」



 彼女が何について話しているのか、同じ場面を想像したリアはレーテの言葉を否定する様に頭を振り、事実だけを伝えることにする。


「私もその可能性は考えてるわ。でも、どうやら少し前に大聖女と呼ばれる存在が現れたらしいの」


 そんな事実に口を噤み、黙り込むレーテを見て「だから、」と続けるリア。



「私は聖王国に行って大聖女を見てくるわ。グレイの話じゃ、聖王国は絶対人類種至上主義らしいし、神聖で溢れている場所なんて行きたくないでしょう? だからあなた達は此処に残って自由に待っててくれても――「私を! 私を……っ」」


 リアは自分が戻ってくるまで自由にしてて言いよ、と言おうと思った矢先。

 叫び声にも似たその切羽詰まるような声に話を遮られる。


 声を荒げたのは隣のアイリスではなく、眼の前に立つレーテ。

 彼女は深く腰を折り、一度として見たことのない感情の籠ったどこか焦るような、そして悲痛の声を滲ませた声で懇願しだす。



 「……聖王国に、同行させてください。 どうか、どうか……お願い致します」


 「っ」



 黙って頭を下げ続けるレーテを目にしたリアはそのいつもとは明らかに違う彼女の様子に目を見開く。



 何が彼女をそうさせるのか。

 今まで一度としてレーテが声を荒げることも、ここまで感情を露わにしたことがなかった。



(聖王国に何かあるの? この子がここまでお願いする、何かが)



 リアは確認するかのように横目にアイリスへと目を向ける。

 そこには既に魔法に関してのことは自身の中で決着がついたのか、今は豹変した態度をとるレーテへとジッとその目に何かを宿らせ見つめているだけだった。



(アイリスも何か知ってる感じね。正直、確認しに行くだけだから、本物だろうと偽物だろうと戻ってくるつもりではあるんだけど。とりあえずはレーテの主人はアイリスなわけだし、彼女に許可を取らない限りは決めれないよね)



「私は構わないわ。貴方がそこまでお願いするってことは何かしら理由があるんでしょう?」


「……はい」



 今にも空気に溶けてしまいそうなか細い声で答えるレーテ。


「それならアイリスと話してから決めなさい。一緒に来るのなら、私の持ちうる全ての力を使って護るわ。でも、神聖属性が溢れている場所に私たちが行く意味、わかるでしょう?」



 前世(ゲーム)では特定の種族に対して、常時弱体効果(デバフ)を付けてくるフィールドというのが数えきれないほどにあった。


 灼熱の大地や呼吸ができない水中、触れてる箇所にダメージを与える泥沼や居るだけで体力(HP)が減少する毒霧地帯、そして――神聖区域。


 神聖区域は名前の通り、魔族……特に光属性や日光に弱い物に強みが発揮され、その濃度(レベル)によって全ステータスに割合弱体効果(デバフ)がどんな耐性を付けても抜けてくるのだ。


 その濃度(レベル)がどれくらいによって危険度が変わる。

 だから私の一存で彼女達を危険に合わせるわけにもいかない。



(本当は来て欲しいんだけどね~。一人は寂しいし、起きたら二人とも居ないなんて……辛すぎるわ!)



 内心で来て欲しいと願いながらも、大事な彼女達を危ない目に合わせられないと板挟みにあうリアは、判断を委ねるしかなかった。


 そんなリアの言葉に頭を下げ続けるレーテは僅かな沈黙がありながらも、「……はい」と答えるのだった。


 思う所はあるのだろうが、返事をしたことを聞くとリアは組んだ足を解いてソファを立ちあがる。

 僅かな動揺も悲しみも見せないように毅然に堂々と立ち上がると、その場を離れる前にアイリスへと振り返る。



「アイリス、お願いね」



 自分がいるとアイリスは無条件で許可を出してしまいそうだと思い。

 二人だけで話をつけて、結論に至ったらその答えを聞こうとリアは静けさに満ちた部屋を出ていくのだった。




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※2025.6.7.改稿

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― 新着の感想 ―
[良い点] なんだ可愛いティーだったか......そして聖王国には"大聖女"にレーテに関する過去が!? 要素がいっぱいあって楽しみだなぁ!
[良い点] 作者さん、更新はお疲れ様です! 返信頂き、ありがとうございます! 特に対処しないけど予想範囲内こそ余裕だと思います。しかしよく考えたら、主人公一行のすれ違うを無くしたいのは私個人の趣味だけ…
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