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44. 知らなかった意味

本日2話目です。

 翌日の昼休みの時間、ルシンダはミアに昨日の実験結果を報告した。


「じゃあ、本当に虫除けの効果があったのね!」

「うん。自分でも驚いたけど、この魔石があればもう虫に怯えずに済みそうだよ。ミアも色々手伝ってくれて、本当にありがとう!」

「いいのよ。そういえば、今日はなんだかサミュエルの雰囲気が違ったような気がしたんだけど、もしかして昨日何かあった?」


 ミアがにやけ顔を隠しもせずに聞いてくる。


「な、何かっていうか……いろいろ話をして友達になったの」


 サミュエルに告白されたことを言うのがなんとなく恥ずかしくて、ルシンダはだいぶ端折って説明した。でも、ミアはまるで何があったかお見通しのような態度だ。


「ふぅん、友達ねぇ。……本当にそれだけかしら、ルシンダちゃん?」

「うっ……。えっと、あの手紙を書いたのとお菓子の箱を隠したのは、やっぱりサミュエルだったみたい。でも、すごく反省してる様子で謝ってもらったから、もういいかなって」

「そう、誰の仕業か分かったし、あなたが許すならいいわ」

「うん、あとね、たぶんサミュエルはミアが言ってたように、お兄ちゃんの代わりに魔王に乗っ取られそうになってたんだと思う」


 昨日サミュエルは、頭の中で嫌な声が話しかけてくる気がしたと言っていた。それは恐らく、魔王の声だったのではないかと、ルシンダは思った。


「でも、昨日私に謝って、き、気持ちを伝えてくれたときのサミュエルには、魔王に乗っ取られるような心の闇は感じなかったの。だから、サミュエルはもう大丈夫だと思う」


 サミュエルはもう、頭の中の声は聞こえなくなったと言っていた。きっと、もう魔王が付けいる隙はないはずだ。


「そう、それならよかったわ。実はわたしも、魔王が誰かを乗っ取るなら、旧校舎に出入りする人間だろうと思って、録画の魔道具を仕掛けてチェックしてたの。でも、怪しい人物の出入りはなかったから、このままいけば魔王復活は完全に防げるかもしれないわね。そしたら、わたしも聖女になんてならなくて済むし、大団円だわ!」


 理想のエンディングが現実的になってきて喜ぶミアに、ルシンダが拗ねたように言う。


「ミアには聖女になって、私の旅に回復役としてついてきてほしかったのになぁ……」

「あなた、ちゃっかりそんなこと考えてたの?」

「だって、ミアと一緒なら楽しい旅になりそうだから」

「……もう、わたしまで攻略しようとしないでよね。でも、わたしもルシンダとだったら、楽しく旅ができそうだわ」


 そう言うミアの頬が少し赤くなっているのに気付いて、ルシンダは嬉しくなる。

 すると、もうじき授業が始まることを知らせる鐘が鳴った。


「あら、もう行かないと」


 教室に戻ろうと立ち上がったとき、ルシンダはふとあることを思い出して、ミアに尋ねてみた。


「そういえば、魔力を込めた魔石を人に贈るのって、何か意味があるの?」

「あ〜、その設定! トゥルーエンドを思い出すわね」

「トゥルーエンド? どういうこと?」

「恋パラで攻略対象とカップリングが成立するとトゥルーエンドになって、エンディングの卒業パーティーでヒーローから自分の魔力を込めた魔石のアクセサリーを贈られるのよ。この世界では、愛する人へのプロポーズの意味があるの」

「プ、プロポーズ……⁉︎」

「そうよ。女性から男性に贈るのもありだから、いつかわたしもやってみようかしら。でも、急にそんなこと聞いてどうしたの? まさか……」

「な、なんでもないよ。物語で読んで、どういう意味かなって気になっただけ。ほら、授業に遅れちゃうから早く行こう!」


 怪しんでいる様子のミアをなんとか誤魔化して、小走りで教室へと向かう。

 でも、ルシンダの頭の中は大混乱を起こしていた。


(プロポーズって、つまり……求婚ってことだよね? 私、お兄様にそんなことを頼んじゃったの⁉︎ 恥ずかしい……)


 こんなことなら、ミアに聞かずに知らないままでいたほうがよかった。

 クリスもさぞ驚いたことだろう。


(……でも、お兄様は意味を知っていたはずなのに、魔石に魔力を込めてくれた)


 そのうえ、「自分の魔力を込めた魔石を贈るのはルシンダだけだ」と言っていた。


(それって、どういう意味? まさか本当に求婚の意味で……って、ううん、お兄様がそんなこと思うはずないよね。兄妹なんだもん)


 ぶんぶんと頭を振って、おかしな考えを打ち消す。

 クリスが自分に求婚だなんてありえない。そんなことを考える自分はどうかしている。

 いよいよミアの乙女ゲーム的思考に毒されてきたのかもしれない。それか、サミュエルに告白されたことで、つい恋愛方面に結びつけて考えてしまうのだろうか。


 教室に戻って席に着いたあとも、ルシンダの頬はしばらく赤いままだった。



◇◇◇



 それから何日か経ったある日のこと。

 生徒会室で仕事をしているとレイがやって来て、もうすぐ旧校舎を取り壊すから、物置きがわりにして置いていた生徒会の荷物を運び出すのを手伝ってほしいと頼まれた。


「また旧校舎……」


 なぜか胸に不安がよぎるルシンダに、ミアがなだめるように言った。


「大丈夫、誰も闇堕ちしてないから、魔王が出てくることはないはずよ」

「そっか、そうだよね……」

「みんなで行ったほうが早く済むだろうから、全員で行こう」


 ユージーンがそう提案し、いくつか台車を持ってみんなで旧校舎へ行くことになった。


 旧校舎は相変わらず嫌な雰囲気が漂っていて、なんだか臭い匂いもする。

 早く用事を済ませたくて、ルシンダはせっせと荷物運びを手伝った。

 大きいものは男性陣が運んでくれるので、ルシンダとミアは小さい荷物を運び出す係だ。


「重いものは僕らが運ぶから、無理はするなよ」

「ありがとうございます。小さいものは、次に運ぶので終わりです」


 ルシンダがそう言ってまた荷物を取りに旧校舎の中へと戻って行く。

 入れ替わりに重そうな箱を持って出てきたレイが、空模様の変化に気がついた。


「急に曇ってきたな。急いで戻ったほうがよさそうだ」

「ルシンダが運んでくる荷物で最後です」


 ミアがそう言った直後、ポケットに入っていたスマホ魔道具から大きな悲鳴が聞こえてきた。


「いやっ!!」

「ルシンダ⁉︎ どうしたの⁉︎」


 ミアの問いかけに、魔道具の向こうのルシンダは切羽詰まった声で叫び返した。


「た、助けて……! だめ、来ないで……誰か!」


 その瞬間、すぐそばで、ドォン! と壁が崩れるような轟音が聞こえた。

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