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34. 最愛の人(エピローグ)


 青く澄み渡る空の下、緑眩しい木々の枝の上で小鳥たちがさえずっている。まるで今日という佳き日のために祝福の歌を奏でているようだ。


 これから門出の式が行われようとしている大聖堂では、控え室で純白のドレスに身を包んだ花嫁が兄に付き添われていた。


「ルー、とても綺麗だよ」

「ありがとう、お兄ちゃん」

「今度は自分の力で幸せな家庭を築くんだよ」

「うん。クリスと一緒なら、きっと大丈夫。私、ちゃんと幸せになるよ」

「……ああ。じゃあ、そろそろ行こうか」


 ユージーンに手を取られ、ルシンダが控え室を出る。


 本来なら、式のエスコート役は父親のはずだが、無理を言ってユージーンがその役目を務めさせてもらうことになったのだった。


 大きく温かな兄の手。

 前世でも今世でも、この手にどれほど助けられ、愛情をかけてもらったことだろう。


 これまでの兄との思い出が次々とよみがえり、ルシンダの目頭が熱くなる。


(……だめ、今日はずっと笑顔でいるって決めたもの)


 この世界でルシンダはたくさんのかけがえのない宝物を得た。


 ルシンダを大切にしてくれる家族、気の置けない友人、そして、人生の伴侶となる唯一の人。


 今日はその人たちに一番幸せな笑顔を見てもらいたいのだ。


 上を向いて涙をこらえていると、ユージーンが静かに立ち止まった。


「ルー、着いたよ」


 目の前には、聖堂の大きな扉。

 花嫁の訪れを待っていたその扉が今、ゆっくりと開かれ、ルシンダの目にバージンロードの鮮やかな赤が映った。


 聖堂の中には、フィールズ公爵夫妻とジュリアン、国王夫妻、アーロンと第二王子、ミア、ライル、エリアス、サミュエル、レイとフローラ親子、それからキャシーやマリンなどの魔術学園時代の友人たちに、ジンジャーやチェスターら魔術師団の仲間たちの姿も見える。


「……さあ、行こう」


 ユージーンと並び、一歩一歩踏みしめるようにバージンロードを進んでいく。


 祭壇へと真っ直ぐに伸びた先には、ルシンダにとって一番特別で、最も愛しい人が待っていた。


「……クリス、ルーをよろしく頼むよ」

「はい、もちろん」


 繋ぐ手が、ユージーンからクリスへと交代する。

 兄のように安心できて、幸せを感じられる、大好きな手。


 光あふれる大聖堂に、神官の厳かな声が響く。


「汝、クリス・ランカスターは、ルシンダ・フィールズを生涯愛することを誓いますか?」

「はい、誓います」


「汝、ルシンダ・フィールズは、クリス・ランカスターを生涯愛することを誓いますか?」

「……はい、誓います」


「では、誓いの口づけを」


 神官の言葉にルシンダとクリスが向かい合い、ルシンダの顔を覆うベールをクリスがそっと上げる。


 ルシンダの頬はほのかに上気し、こちらを見上げる瞳は今にも泣きそうなくらいに潤んでいる。


 この世で一番美しい花嫁だと、クリスは思った。


 ルシンダの白くて華奢な肩に優しく手を触れ、小さく艶やかな唇に、そっと口づけする。


 数秒の口づけを交わすと、神官が胸に手を当て宣言した。

 

「──それでは、今この場をもって、二人は夫婦となりました。神の祝福があらんことを!」



◇◇◇



「おめでとう!」

「末永くお幸せに!」


ルシンダとクリスが大聖堂の外へ出ると、一足先に待っていた参列客たちから、色とりどりのフラワーシャワーを浴びせられた。


「クリス様! お姫様抱っこしてください!」


 ほぼ間違いなくミアが叫んだリクエストに、クリスが即座に応えてルシンダを抱き上げる。


 驚いてクリスの首に手を回すルシンダに、クリスが穏やかな声で囁いた。


「ルシンダ。この世界にやって来てくれてありがとう。今世の君を必ず幸せにする。ずっと僕と一緒にいたいと思ってもらえるくらいに」

「今だって、そう思っていますよ」


 ルシンダがくすっと笑って答えると、クリスは幸せそうな笑顔を浮かべた。


「ルシンダ。今もこれからも、心から愛している」

「私も、クリスが私の人生で最愛の人です」


 クリスがルシンダに口づけする。

 誓いのキスよりも、もっと深く。


 友人たちが歓声をあげる。


 花嫁と花婿二人の幸せを約束するかのように、暖かな日の光が降り注いでいた。


これにて本編完結となります…!

各部で間が空いたりしてしまいましたが、皆様からの評価や感想が励みになり、ここまで書き切ることができました。

心から感謝申し上げます。

本当にありがとうございました!

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