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12. 犯人の行方


 国王エドワードにかけられた呪いを解くためには、まずは乳母の居場所を知る必要があった。


 王妃とアーロンに記録を調べてもらうよう頼むと、すぐ翌日に結果が知らされた。


「父の命で、乳母──マーシャ・ブラウンは故郷に帰らされたようです。国の監視も内密で付けられていました。初めの数年は何度も逃亡を繰り返し、その後は大人しくなったみたいです。そして昨年、故郷の山で滑落して死亡したとのことでした。……ただ、遺体は見つかっていませんでしたが」


 アーロンが調査結果を伝えてくれる。

 その場に集められたルシンダとクリス、ユージーンは顔を見合わせた。


「生きている間は見張りがついて王都へは来られないから、死亡を偽装したように思えるな」


 ユージーンの意見にクリスもうなずく。


「本来の標的であるユージーンが無事だったから、また狙いに来るはずだ。つまり、王都からさほど遠くない場所にいる可能性が高い」

「私もそう思います」


 ルシンダも同意すると、クリスが精霊の名を呼んだ。


「シルフィード」

「はい、ご主人様!」


 クリスの目の前に、またもや小さな精霊が現れる。

 名前からして風の精霊らしく、薄衣をまとい、蝶のような翅を羽ばたかせてふわふわと浮いている。


「ご用はなんですか? 嵐でこの部屋を吹き飛ばしますか?」


 愛らしい見た目とは違い、なかなか過激な性格のようだ。


「……いや、今日は別の用件だ」

「別の?」

「ああ、今、王都周辺に悪魔がいるはずだ。その匂いを探って居場所を知らせてほしい」


 クリスが指示を出すと、シルフィードは心底嫌そうに眉を寄せた。


「……悪魔ですか? ご主人様の命令なら従いますけど、あの変に甘ったるい匂い、大嫌いなんですよね」

「すまない。あとで君が一番好きな菓子をやろう」

「えっ、本当ですか! じゃあ、ホイップクリームたっぷりの苺ケーキをお願いしますね!」

「分かった」

「じゃあ、ちょっと探ってきまーす!」


 苺ケーキが大好きらしいシルフィードは、にこにこと笑顔を浮かべながら悪魔を探しに出かけていった。


 クリスがルシンダたちに向き直る。


「乳母より悪魔を探すほうが早い。おそらく乳母は悪魔と一緒にいるはずだ。もしそうでなくても、悪魔なら契約者である乳母の居場所が分かるはずだから聞き出せばいい」

「たしかに、その通りですね……」


 アーロンが納得したようにうなずく。


「明日には居場所の見当がつくでしょうから、また報告に伺います」

「分かりました。よろしくお願いします」



◇◇◇



 そして翌日。

 クリスが言った通り、悪魔の潜伏場所が判明した。


「レヴァイン大渓谷……。多くの魔獣が棲まうという、あの渓谷ですか?」


 クリスから報告を受けたアーロンが顔をしかめる。


「はい。詳しい場所について精霊に尋ねたのですが、魔獣のにおいが臭くて分からないとのことでした」

「そうですか。それは困りましたね……」

「ただ、大体の位置は把握できましたので、あとはこちらで探そうと思います」

「こちらで探すとは?」

「僕とルシンダ、それから騎士団のライルにも同行してもらって乳母の捜索にあたるつもりです」


 国王の一大事なのだから、本来なら人海戦術を使って捜索するべきなのかもしれない。

 けれど、もし何も事情を知らない別の人間が乳母を見つけ、国王とユージーンの関係を知ったらと思うと、迂闊に大人数を投入するのはためらわれた。


 だから、すでに事情を把握しているルシンダとクリス、そしてもう一人、ライルのみ仲間に入ってもらうことにしたのだった。


(本当はライルではなく、お兄ちゃんに同行してもらうつもりだったんだけどね)


 ルシンダはユージーンとのやり取りを思い返す。


 昨日、精霊のおかげで悪魔の居場所が分かり、きっとユージーンも捜索に加わりたいだろうと思って尋ねてみた。

 しかし、ユージーンは少しだけ考えた後、「僕は行かない」と言ったのだ。


『陛下の容態を安定させるために、僕の魔力が必要だろうから』

『あっ……』


 ルシンダは気がついた。

 ユージーンは優れた水魔術の使い手で治癒の術に長けている。水魔術による治癒は、特に血縁者に対して効果が高い。


 つまり、国王に治癒の術をかけるのは、ユージーンが適任なのだ。


『僕が行けないとなると、ルーとクリスの二人きりか……。それはいろんな意味で心配だな』

『えっ、し、心配なんていらないと思うけど……』

『うん、やっぱり心配だ。よし、僕の代わりにライルに同行をお願いしよう。彼なら真面目だし、とりあえず大丈夫だろう』


 頭の中で諸々を検討したらしいユージーンが代わりにライルを推薦する。


『ライル? ライルなら任務として同行してくれると思うけど……でも、いいの? ライルにもお兄ちゃんの秘密が知られちゃうかもしれない』

『──いいよ。ライルなら信頼できるから』

『そっか、分かった。それじゃあ、ライルと騎士団にもお願いしてみるね』

『ああ、頼んだよ』


 ルシンダは意外だった。ユージーンが自分の命を狙った犯人の捜索よりも、国王の治癒を優先したことが。


 でも、それでいいと思った。


(ミアは、原作の設定では国王とユージーンは互いに疎ましい存在だったって言ってたけど……)


 本当は国王はユージーンのことを想っていた。

 それを知ったユージーンも、実の父のために尽くしたいと思ったのだろう。


(だから、これでいいんだ)


 回想しながら改めてうなずくルシンダ。

 そして、その横でアーロンが神妙な面持ちで口を開いた。


「……クリス卿、お願いがあります」


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