―74― 登校
朝、家を出て学校へと向かった。
悪魔たちが学校までついていこうとしたが、それはなんとか説得してお断りした。
悪魔を連れて学校に行くと、面倒ごとが起きそうだから。
「ノーマンのやつ学校辞めたんじゃなかったのかよ」
「魔術が使えないから辞めたもんだと思っていた」
ただ登校するだけで、陰口を言われる。
とはいえ、毎度のことなのであまり気にはならない。
「ノーマン、久しぶりだな。もう来ないものかと思っていた」
担任のルドン先生が僕のことを見て、そう口にした。
ルドン先生はいつもどおり機嫌悪そうな表情をしている。
「ちょっと野暮用がありまして……」
僕は誤魔化したい一心で、苦笑いをする。
「まぁ、いい。お前はこの教室を2回も留年しているからな。少しぐらい休んでいても授業内容はわかるだろう」
『留年』という単語が出た瞬間、他の生徒たちがクスクスと笑う。
僕は今通っている教室は基礎コースという一番下のクラスなのだが、普通なら一年通えば上のクラスに入れるところを僕は3年目になってもこの教室に在籍している。
「そ、そうかもしれないですね」
と、僕は曖昧に頷いていく。
確かに、すでに同じ授業内容を2回も聞いているため、授業を休んでも内容についていくことはできる。
「それじゃあ、今日は神聖魔術について講義する」
と、ルドン先生は板書の方を向くと、そう言って授業を始めた。
そうか、今日は神聖魔術に関する授業か。
神聖魔術というのは、天使の力を借りて行なう魔術だ。
天使の力を借りてなにをするかといえば、治癒をしたり結界をはったりなんかが主だ。
にしても、神聖魔術か。
これは僕には全く向いていない魔術だな。
いろんな悪魔たちから魔術を習っていくうちにわかったことなのだが、人というのは、生まれ持った魂の性質がそれぞれ大きく違うらしい。
そして、魔力というのは魂から供給されるため、魂の性質が異なるということは魔力の性質も異なるということだ。
ゆえに、その人の魔力の差異によって得意な魔術が決まっていく。
固有魔術を魂に組み込む際も、得意な魔術をベースに術式を構築するのが基本だ。
そんでもって、僕の魂は極端なぐらいに悪魔との親和性が高い。
高すぎる親和性ゆえに、他の精霊や天使からは嫌われてしまうわけだ。
だから、天使の力を操ることで放つ神聖魔術なんて、僕には最も向いていない魔術になるんだろう。
天使と悪魔は対極に存在するからね。
「さて、理論に関しては以上になる。次は理論を基に実践を行なうように」
ルドン先生がそう言うと、生徒たちが各々魔法陣を用いた術式の構築を始める。
僕はといえば、どうせできないのがわかっているので、なにもやる気は起きない。
このまま時間が過ぎるのを待つことにしよう。
……このままできないままってのもなんか悔しいな。
他の生徒たちが神聖魔術の実践をしているのを見ている最中、そんなことを思う。
どうにかして僕でも神聖魔術を使う方法はないだろうか。
帰ってからクローセルにでも相談してみるか。クローセルは悪魔とはいえ、堕天使だし、なにかわかるかもしれない。
放課後、帰り支度をしていたときだ。
「おい、ノーマン。ちょっと面をかせや」
話しかけてきたのはリーガルだった。
以前、僕と決闘をして打ち負かした生徒だ。
「えっと、ここじゃダメなの?」
リーガルが僕のことをわざわざ呼び出すなんて、ロクでもない用事に違いない。
だから、ここでは駄目なのか聞いてみる。
「うるせぇ! 口答えせずにこっち来いや!」
リーガルが僕に対して怒鳴った。
すると、教室に他の生徒たちが僕たちのことをチラチラと様子を伺い始める。喧嘩でもしているか、と思われているのだろう。
このまま目立つの嫌だな。
仕方がない。
「わかったよ」
そう言って、僕はリーガルについていくことにした。
「それで、僕になんのようなの?」
リーガルに連れてこられたのは、人影が他にはいない校舎裏だった。
「この俺ともう一度戦え」
リーガルはすごんだ表情でそう口にした。
「今、ここで?」
「あぁ、そうだよ」
「理由を聞いても」
「以前、てめぇに負けたのがなにか間違いだってことを証明するためだ」
なるほど。
以前、僕に負けたのをずっと気にしていたのか。
「やらないとは言わせねぇぞ」
「もちろんいいよ」
「ちっ、随分と簡単に了承するじゃねぇかよ」
「えっと、それじゃ、なんて言えばよかったのかな」
「うるせぇ、さっさと始めるぞ」
以前やったリーガルとの決闘は、実質僕の負けだ。
「それじゃ、やろうか」
あれから僕がどれだけ成長したか確かめるいい機会じゃないか。
せっかくの機会、存分に使わせてもらおう。
下より評価いただけると幸いです。




