―34― 強襲
「――火炎球」
僕は詠唱する。
それと、同時に左手を中心に魔法陣が浮かび上がり、火の塊を発射させた。
そして、巨大爪狼の一匹に命中させる。
けれど、威力が低いのか、巨大爪狼は倒れる気配もない。
ならば――
「――5連続、火炎弾発射」
5つの火の塊を当てて、やっと巨大爪狼は倒れる。
けれど、これじゃあ効率が悪いな。
多数の巨大爪狼は森の中にまだ潜んでいる。
「ふんッ!」
フォカロルのほうを見てみると、無詠唱で突風を起こして、巨大爪狼を次々と倒していく。
流石、悪魔といったところか。
僕とは威力が大違いだ。
巨大爪狼たちもフォカロルの強さに恐れをなしたのか、徐々に後退していく。
この調子なら、なんとかなりそうだな。
「いたいっ!!」
後方から悲鳴。
見ると、後ろに回り込んだ巨大爪狼が少女の腕を引きちぎるような勢いで噛み付いていた。
巨大爪狼はその少女を人質でもとったかのように、噛み付いたまま離れない。
「――水の刃発射」
咄嗟にかまえて詠唱する。
水の刃は巨大爪狼の頭部を直撃。
巨大爪狼は少女の腕を離す。
「死んでくださいッッ!!」
気がついたフォカロルが声高にそう叫んで、風でつくった槍を巨大爪狼に直撃する。
すると、弾けるように巨大爪狼の肉体が砕け散った。
それを見た他の巨大爪狼たちは完全に怖気づいたようで、一目散に逃げていく。
どうやら、巨大爪狼の脅威は去ったらしい。
「あ、あのっ! む、娘を助けてくださいっ!」
その人は、さきほど巨大爪狼によって腕を噛まれた少女を抱えていた。
少女はぐったりとした様子で気を失っている。
「ま、まずいな。このままだと、最悪死ぬかもしれない」
巨大爪狼の爪や牙には、傷つけたものを病に冒す力がある。
このまま放っておれば、仮に死は避けられても、腕は使い物にならなくなり切断しないといけなくなる可能性が高い。
すぐ対策しないと、まずいが。
「あなた、魔術師でしょッ! 早く、この子を治してくださいッ!」
いつもは表情が硬いフォカロルが必死の形相で訴えてきた。
「僕にはできない」
「な、なんでですかッ!」
「僕には火と水の魔術しか使えない。治癒魔術は最低、火、水、風、土、すべての魔術を覚えて使えるようになる」
治癒魔術は火、水、風、土すべての魔術を覚えて初めてスタート地点に立てる。
さらには錬金術に占星術、ミクロコスモスとマクロコスモスの対応関係などなど、たくさんのことを覚えてなくてはならない。
それだけ人体の構造は複雑だ。
もしくは天使の力を借りる方法もあるが、そんなの僕にできるわけがない。
「う、そ……」
フォカロルが焦燥しきった顔つきで僕を見る。
僕はなんて無力なんだろう。
もし、ここにいるのが妹のネネならなんとかなったかもしれない。
くそっ!
僕は自分の拳で膝を叩いた。
いや、待てよ。
1つ、僕にできることがある。
「おい、フォカロル。治癒が得意な悪魔を教えろ!」
そうだ。
僕には治癒魔術はできないけど、悪魔召喚ならできる。
【大事なお願い】
評価お願いします。




