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アルス・ゲーティア~無能と呼ばれた少年は、72の悪魔を使役して無双する~  作者: 北川ニキタ
第一部

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24/89

―24― 妹襲来

 妹のネネが唐突に部屋の中に入ってきたのだ。

 おい、鍵はどうした? いつもなら鍵をかけているはずなのに、妹が勝手に入ってきたということは、今日に限ってかけるのを忘れていたんだろうな。


「誰?」


 呆然とした様子で妹が立ちすくんでいた。


「泥棒……?」


 まぁ、そうなるよね! 今の僕は、クローセルを降霊させた影響で見た目が女になっている。

 だから、知らない人がいたら泥棒って思いますよね!


 うわあああ、どうすればいい!?

 降霊術のせいでこうなったなんて、まさか言えるわけがない!

 それ言っちゃったら、悪魔召喚のこともバレちゃうかもしれないし!

 けど、どうすればいい? なんて言い訳をすればいい!?


『お、おい! クローセル! この状況どうすれば脱せられると思う!』


 自分で考えるのを諦めクローセルに助けを求めた。


『えっ、きゅ、急にわたくしに言われても!? えっと、えーっと、あ、思いつきました』

『なに? 早く言って!』


 めっちゃネネが不審な目でこっちを見ているし。

 これ以上、考える時間を伸ばすわけにいかない。


『そ、そのですね……ノーマン様の彼女って言ったらどうでしょうか? きゃっ、言っちゃった』


 なぜか恥ずかしがりながらクローセルはそんなことを言った。

 けど、悪くない案だ!


「わ、わたし、実はノーマンさんの彼女でして……」


 どうだろう。ごまかせるか?


「えっ!? お兄ちゃんの彼女さんなんですか!」


 ネネは目を輝かせて、こっちにやってきた。

 ご、ごまかせたみたいだ。


「あの、お名前はなんて言うんですかっ? どこでお兄ちゃんと出会ったんですかっ? お兄ちゃんのどんなとこが好きなんですかっ? お兄ちゃんとデートとか行くんですかっ?」


 なんかネネがすごいぐいぐい来るんだけど。


「あ、あのっ、1つずつ質問をしてくれないと……」

「あっ、ごめんなさい。わたし、ちょっと興奮しちゃって」


 兄の彼女と遭遇するって、そんな興奮するようなことなのか……。


「それにしてもお兄ちゃんどこに行ったんですかね? こんなにかわいい彼女さんを置いていくなんて……」

「あはは……、用事あるからでかけてくるって行ったきりで」

「そうなんですか。それにしても、彼女がいるならいるって教えてくれればいいのに」


 拗ねたような口調でネネがそう言う。


『妹さんと仲がよろしいんですね』


 と、クローセルが語りかけてくる。


『別に妹とそんな仲が良い覚えはないんだけどな』

『あら、そうなんですか?』


 実際、ネネは顔をあわせるたびに、なにかしら文句をつけてくるし。とはいえ、最近ちょっと優しくなった気がしないことはない。


「あ、自己紹介がまだでしたね。私、ネネ・エスランドと言います。年はお兄ちゃんの1個下です」


 ネネのやつ、僕の部屋で座り始めたし。

 本格的に居座るつもりだ。


「えっと私の名前は……」


『どうしよう、名前っ』

『クローセルでいいんじゃないですか?』


「ク、クローセルって言います」

「クローセルさんっていうんですね。それで、お兄ちゃんとはどんな出会いだったんですか?」

「え、えっと……」


『どうしよう、なんて答えよう』

『運命的な出会いをしたんです』


「運命的な出会いをしたんです」

「はわー、ロマンティックですねー。お兄ちゃんのどんなとこが好きなんですか?」


『や、優しいところです!』


「優しいところです……」

「お兄ちゃんにもそんな一面があるんですねー」


 これ結局のところ、自分で自分を褒めているってことだよな。

 うわぁ、恥ずかしいことしているな自分。


「それで、デートとかよく行くんですか?」


『まだ、デートはしたことがないですね』


 と、クローセルが頭の中で言うので、


「まだ、デートはしたことがないですね」


 と、僕はオウム返しのように答えていた。


「えぇっ! そうなんですかっ! お兄ちゃん、ひどい!」

「いや、えっと、まだ付き合い始めたばかりで……」


 僕のイメージが下がってしまったので、とっさに修正しようとそう口にした。


「そうなんですか!? じゃあ、今が一番熱い時期じゃないですか!」


 なぜかネネがすごく前のめりになる。


『きゃー! 今が一番熱い時期ですってぇ』

『なんでクローセルも嬉しそうなんだよ』


 このままだといつまで経ってもネネの話が終わらない気がした。

 なんとかして抜け出さないと。


「えっと、わたし、急に用事を思い出しまして……」

「えっ、そんな! お兄ちゃん帰ってくるの待たなくていいんですか?」

「え、えっと、そのノーマンと会う予定が……」

「あっ、ごめんなさい! わたし邪魔だよね。もう出ていくから。またお話聞かせてくださいクローセルさん」


 ネネはなにか察したようで、そそくさと家から出ていった。

 まぁ、察するような事情はなにもないのだが。


『ホントいい妹さんですね!』


 なぜかクローセルは上機嫌だった。


「まぁ、悪いやつではないと思うが」


 そんなことより早く元に戻る方法を考えなくては。


「そもそもなぜ、こんなことになったんだ?」

『そうですね……ノーマン様がわたくしを降霊させたのが原因というのはわかりますが。アイムさんを降霊させたときはこんなこと起きなかったのですよね』


 そういえば左手にあったシジルはどうなっているんだろう、と気になったので見てみる。

 左手の甲にはちゃんとアイムのシジルがあった。

 右手の甲に見たことないシジルがあった。


「これ、クローセルのシジルか?」

『は、はい! 確かにこの円の中に天使の羽がある模様はわたくしのシジルです』


 クローセルのときにもアイムのとき同様にシジルが浮かび上がったか。

 であれば、なにが原因だ?

 僕は考えて、ふと、いくつかのことを思い出す。


 アイムは前にこう言っていた。

『俺様のすべてを取り込もうとするなよ。自我まで乗っ取ってしまうからな。俺様の霊の10分の1、いや100分の1で十分だ』と。


 ネネも似たようことを言っていた。

『降霊術は加減が難しいのよね。霊のすべてを取り込むと肉体を乗っ取られる可能性がでてくるし、かといって少しだけ取り込んでも効果は薄いし』と。


 うん、つまりクローセルのすべてを取り込んだせいでこうなったのだ。

 降霊術、奥が深いな。

 もし、僕が血を吐きながら暴走する魔力と戦っていたとき、あのまま気を失っていたら、僕の体はクローセルに乗っ取られていたのだろう。


 体の見た目がこうして変わってしまった原因まではちょっとわからないけど。

 まぁ、悪魔を降霊させたのだ。

 通常の降霊術では起こり得ないことが起きても不思議ではない。


 ともかく加減を間違えてしまっただけだとわかってしまえば、魔導書に書かれていた通りに降霊させた霊を祓えば、元に戻れる可能性は高いな。


 そんなわけで、僕は魔導書の手順通り、憑依した霊を祓う儀式を行なった。

 とはいえ、そう簡単にはいかず何度も失敗したが、数時間後にやっと元の姿に戻れたのである。


 水の魔術を覚える道のりはまだまだ遠そうだ。



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