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精霊、フラグを立てる

 

 目の前のは可憐な少女の形をした像だが化け物だ。

 聖剣を振り、飛んでくる拳を斬りながら俺はそんな事を考える。

 飛んでくる拳は硬い。さっき近くの騎士が盾で受けたら鋼鉄製の盾はあっさりと砕けるわ、鎧は凹むわと凄まじい有様だった。


 さらに飛んでくる魔法には魔法使いが放つ魔法で迎撃ができる。

 だがそれはなんとか迎撃できるだけで完璧じゃない。まず数がおかしい。こちらが一発放つ間に向こうは四発は撃ってきてる。

 そして質。俺が見ている限り向こうの魔法を一発止めるのにこちらは二発ぶつけないといけない。

 もう不利な条件しかない。

 加えて飛んでくる拳を完全に防げるのは聖女アリスと俺だけだ。

 俺は聖剣で魔法も拳も斬ればいいだけなんだがアリスの方はそうはいかない。

 魔法で作り出した壁を他の騎士も守るように展開しているために魔力の消費もデカいのだろう。歯を食いしばってるし。

 一応、皇帝ヴィンラントには隠し球のようなものがあるがあれは一回しか使えない。まさに最後の切り札だから使い所は考えないといけないわけだが。

 まぁ、ヴィンラントは聖剣の魔力元だ。あいつの魔力は底無しだからな。本人に魔法や剣の才能は皆無だから宝の持ち腐れだがな。


『あのぴかぴかゆうせん!』

『こぶしあつめよう』

『まほうはあのかべね』

『こぶしでたたきつぶす』


 どうやら飛ばす拳を斬る俺の方が脅威と考え始めたのかこちらに向かってくる拳の密度が高まった。

 飛んでくる量は明らかに剣一本でどうにかなる量じゃない。

 斬り捨てても斬り捨てても空から無数に飛んでくる。

 一瞬で数本を斬り捨てても数発は身体に当たる。なんたる理不尽だ。


『いけるいける』

『かずはちからー』

『これならかてるです』


 俺の体に攻撃が当たり始めたのが見えたのか精霊達は上機嫌だ。


「ヴィンラント、第二解放使うぞ!」


 このままなら確実にジリ貧だ。

 ヴィンラントの魔力がいくら底無しだとしても無限じゃない。いや、その前に聖女アリスのほうが魔力切れになる。

 ならこちらから先に切り札を切るしかない。


「え、それやられるとボクすごく疲れるんだけど⁉︎」

「死にたいなら構わないが?」

「命大事に! さっさとぶっ飛ばして!」


 うん、この皇帝の自分主義は嫌いじゃない。

 魔力供給源からの許可も得たので聖剣を握る右手ではなく左手で聖剣が納められていた鞘を掴み引き抜く。


「第二解放」


 静かに告げると手にした鞘へと魔力を流し込む。すると鞘は徐々に姿を変えていき、長剣である聖剣よりは短めの刃を持った剣へと姿を変える。

 左右の剣が空を切るたびに腕が吹き飛ぶ。それも先ほどよりも確実に数が多い。

 第二解放は鞘を小型の聖剣と化す。更に言えば攻撃力も上がる。

 当然、聖剣が二本になったことにより手数は増え、破壊力も増すわけなんだが魔力の消費も二倍になる。

 俺一人で発動させたら一瞬で魔力がなくなるところだ。

 ついでにいうと余波も凄い事になる。

 直撃しなくても剣を振るった際に発する余波だけで腕は消し飛び、聖女アリスの張った結界の一部は易々と吹き飛んだ。


「ひぃぃぃぃ⁉︎ 死ぬ! これはとばっちりで死ぬよぉぉ!」

『アリス! 落ちついて! 早く壁を張り直して!じゃないと本当に余波で死ぬわ!』


 手加減できる相手じゃないから頑張ってくれ。なるべく直撃しないようには気をかけるから。


「レオンが斬ってるのってオリハルコンだよね? ボクあんな色の鉱物見た事ないんだけど」


 知らん。どっちにしろあれが頭なんかに当たれば死ぬから関係ない。あとなんでお前は死にそうな状況にあるのに冷静なんだよ皇帝。


『あーにほんになった』

『ぶきをふやすなんてずるい』

『これだからひゅーむは』

『ちえとかずはおおいからなー』


 対して精霊達からもブーイングが出ている。言ってる様子は可愛らしいがやってる事は即死攻撃だから堪らない。


『われらもぶきをもてばいいのでは?』

『『『それだ!』』』


 まるで天啓を受けたかのような声を上げた精霊達。

 そしてどこから取り出したのかわからないが虹色に輝く武器を手に取ると無数の武器の切っ先がこちらを向き、次の瞬間に振るわれる。


「あ、これ無理だろ」


 今までは拳だったから動きが直線的だった。しかし、武器を手にされた事によって動きが変則的なものへと変わった。


 一撃で斬り落とすというのはヴィンラントの膨大な魔力と聖剣の力、そして俺個人の技量の全てが最大限に発揮されてこそできる事だ。

 そのどれかが欠ければオリハルコンなんて伝説上の鉱物を斬る事などできない。


 直線的な攻撃だったからこそいくら数が増えても斬れた。

 しかし、至るとこから飛んでくる距離感も間合いも違う攻撃を捌くのは無理だ。


 かなりの時間が経っているが徐々に聖剣でも斬れず、弾くことが多くなってくる。


『これはいけるのでは?』

『かちがみえた』

『まだあせってはいけない』


 振るわれる武器が苛烈さを増す。

 それに伴い、体への傷が増えていき、流れる血の量も増し、身体が鉛のように重くなる。

 ついに聖剣を手から弾き飛ばされ、膝をついた時、死を覚悟した。


「死ぬ前に全力でヴィンラントを殴ればよかったなぁ!」


 こんな死ぬ危険がある護衛なんてやりたくもなかったんだからな!


『『『とったぁぁぁぁ!』』』


 そんなことを思いながら精霊達の気合いの入った声と共に迫る凶器を睨み付けていた。


 ああ、なんかこれは街で流行ってる話に聞くフラグとかいうやつじゃないだろうか?

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