聖女、侮る
『む』
「どうしたのリリィ」
災害の森を進む中、私の肩に止まり、森に入ってから挙動不審な様子のリリィが私にしか聞こえない声で唸った。
周りでは襲いかかってくる魔獣達に神殿騎士が対応していた。
神殿騎士達が相手をしているのはトカゲやら蛇といった見たことのない魔獣ばかりで手間取っていた。
『あっちから聖剣の気配がしたわ』
「聖剣、そうなると帝国かしら?」
そんな中であっても私とリリィは特に慌てた様子もなく会話を続ける。巡礼中に魔獣が襲ってくるなんてことはよくある事だし、神殿騎士は聖女や神官を守ることが仕事な訳だからね。
もちろん、感謝してるし、ある程度落ち着いたら傷や怪我の回復も行ってる。
帝国に聖剣があるというのは有名な話だしね。聖剣の有無は別にしても帝国は強いわけだけど。
「どうされました聖女様」
リリィの声が聞こえない側仕えの神官が私の独り言のように聞こえたらしい呟きに気が付き声をかけてきたみたい。
「おそらくは帝国の方々もいらっしゃってるみたいです」
「なんですと……」
次の瞬間、まるで返事をするかのように地面が揺れた。次いで木に止まっていた鳥たちが慌てたように空へと舞い上がり、その逃げた鳥を空を飛ぶ魔獣がパクパクと食べる光景が目に入った。
「さ、先程の揺れは……」
「おそらくは聖剣でしょう」
『そうね』
リリィも肯定してるから確定っと。
あちらが聖剣という切り札を切ったわけだからこちらも急がないと不味いわけね。
「リリィ、こっちも切り札使うわ」
いい加減騎士達のダメージもかなり溜まってきてる。
ここらで騎士達の疲労も取って一気に行きたいしね。
わたしは手にしていた杖を掲げて魔力を込めていく。
『うーん、それでもいいけどこの気配……もしかしたら……』
「リリィ?」
やはりリリィはこの森に入ってからどうも挙動不審だ。
森に入るまではウキウキとしていた様子だったのだけど中心、世界樹に近づくにつれて落ち着かなくなってる。
まるでなにかに怯えるみたいに。
「リリィ、聖気壁使うよ」
『え、あ、はいはい』
私の声がようやく届いたのかリリィが返事を返してきた。それと同時にリリィの魔力が私の中へと流れ込んでくる。
噂で聞いた話では聖剣も馬鹿みたいに魔力を食うらしい。そんな訳で聖剣使いが本気を出す場合は魔力がある人物が側にいないといけない。
それは私の聖気壁も同じな訳だけど一部聖剣使いとは違う。
私の場合は魔力をリリィから供給してもらうことにより聖気壁を発動可能にしている。
「聖気壁発動!」
私がため込んだ魔力を外へと解放すると虹色に輝いた魔力が教会組一行を囲むように魔力の壁を作り上げる。
虹色の魔力は魔獣と戦っていた神殿騎士達も包み込み、そして相対していた魔獣を軽々と吹き飛ばしていく。
それを見た今まで戦っていた神殿騎士達は安心からか疲労が限界値に到達したのかその場に膝をつく人たちばかりだ。
これがわたしの神聖魔法の一つ、聖気壁。攻撃主体になりがちな聖剣とは真逆の防御主体の魔法。
本来ならばそこまで威力の出ない聖気壁なんだけど光の精霊リリィの魔力供給と教会に昔から伝わるありがたーい杖の魔法増幅効果によってわたしの聖気壁は誰も侵すことのできない神域と化す。
だから魔獣が飛びかかってきても平気平気。
「ガァァァァァァァ!」
「ふふーん、わたしの壁は硬いのよ? 破れないでしょ」
威勢よく吠えようともわたしの聖気壁は破られない。
なにせ今まで破られたことがない聖気壁。
わたしの魔力の一割くらいでも生半可な攻撃では……
「ダメです聖女様!聖気壁に注ぐ魔力をケチっては! ここの魔獣は!」
「へ?」
神殿騎士達の緊迫した声にわたしが間抜けな声で返答した瞬間、ガラスが割れるような音が響いた。
「このあたりの魔獣はレベルが違う! 全力で障壁を張って逃げるべきです!」
「言うの遅いよぉ⁉︎」
大して力を入れていなかったとはいえ、あっさりと聖気壁をぶち割ってきた魔獣達に悲鳴を上げながらわたし達は疲労した体に鞭打つようにして全速力で世界樹のそびえ立つ方へと駆け出し、さらにわたしは聖気壁を全力で張るのだった。
「ひぃぃぃ⁉︎ 全力で張ってるのに三発殴られたら割れるぅぅ!」
あ、侮ってすいませんでしたぁぁぁ!




