皇帝、掴まれる
「いやぁ、この森はすごいね」
「陛下お下がりください!」
鬱蒼と生茂る緑を見てボクは感嘆の声を上げる。
そんなボクを慌てて周囲の騎士団の者が後ろに下げようとしてくる。
彼らの純白に近い色をした鎧はすでに泥まみれで顔には疲労の色が滲んで見える。
それもそうだろう。災害の森に入って三日。
レオンの報告から知っていたエンシェントドラゴンが作った道を歩いていたわけだけどすっごく魔獣が襲ってくるんだよ!
それもレオンがよりすぐった実力派の騎士達をあっさりとぶっ飛ばすくらいの力を持ったのが!
「木に擬態してるのとか凄かったね!」
「おいバカ陛下、頭を下げろ」
「ふぎゃ」
ボクがテンション高めに喋っていると頭を無理やり抑えられる。そのせいで四つん這いにはなり、服が泥だらけで下着が丸見えになったりしてるわけだけど他のみんなはそんなことを気にする余裕なんてないみたいだ。
そしてボクの髪を数本巻き込みながら何かが頭上を通過し、凄まじい悲鳴が森に響いた。
四つん這いになった状態のまま後ろへと振り返るとそこには紫色の血を吹き出しながら倒れている巨大な樹、魔獣トレントの姿が見えた。
「さすがレオンだね」
「チョロチョロ動くな、死ぬ、ぞっと!」
ボクが手を叩きながら褒めている間にもレオンは喋りながらも純白の剣を振り回す。
ボクを護る近衛兵の守りを突破して来た魔獣をまるでケーキを切り分けるようにスパスパと切り裂いていく。
「数が多すぎる。以前来た時より遥かに多いぞ」
「聖剣の力を使っても無理かい?」
災害の森の魔獣は帝国最強に位置するレオンでも倒すのが難しいものが多い。
そんな森でレオンが今は容易く魔獣を屠っている要因の一つが彼が手にする聖剣の力だ。
本当なら以前災害の森を調査する際にも聖剣を持っていってもらうはずだったんだけど元老院の老害共が断固として反対してきたから持っていけなかったんだよなぁ。
あいつらマジ老害。帰ったらクビにしてやろう。
「無理だな。魔力が足りない」
聖剣も別に手にしたら最強になるような武器じゃない。聖剣自体は言うなら壊れない剣だし、それを扱う技量がなければただの壊れない棍棒と変わりない。そんな武器である聖剣が最強の武器と言われる所以は聖剣の特性である所有者の魔力を吸い、様々な効果を発揮するという能力があるからだ。
しかもこの能力、使う人によって発揮される能力の数も内容も違うらしいし、さらに恐ろしいくらいに魔力を食うらしい。
それ故にレオン一人では長時間の聖剣能力の使用は不可能なんだけど。
「だったら問題ないね。ボクの魔力を使って薙ぎ払おう」
でもボクがいるならば問題ない。
カラカラと笑いながらボクは顔にかかった髪をかきあげる。
なにせ王族の血を引く者はえげつないくらいの魔力を持つ。王族代々に伝わる指輪を身につけて魔力を抑えておかないとまともな人なら自然に発する魔力に当てられただけで意識を失いかねない密度の魔力なのだから
「ならさっそくやるか」
まるで、ボクがそう言い出すのをわかっていたかのようにレオンは両手で持っていた聖剣を片手で持つと空いた手でボクの首筋を掴む。
「……あのさ、ボクが一応皇帝じゃん? さらに言うと女性なわけじゃない? もう少しこう、配慮とかないの? ついでに魔力は指輪から放って渡すから持つ必要なくない?」
まるで荷物を持つように扱われる皇帝ってどうなんだろ? いや、皇帝として以前に女性としてどうなんだろうか?
「お前が許可を出したからな。なら犠牲が出る前にさっさと片付けるに限る。それに体を密着させたほうが魔力の伝達効率が違うだろ?」
「いや、言ったけどさ⁉︎ もう少しロマンチックなのはないの⁉︎」
ボクは叫びながらも身体から首筋を掴むレオンの手を介して膨大な魔力がレオンへと流し込んでいく。
するとレオンの手にある聖剣が眩く輝き始めていた。
「ロマンチック? 今のお前は俺の魔力タンクだ。さっさとなぎ払って先に進むためのな」
「君は本当にボクに対しての敬意がないよね!」
「輝け! 聖剣!」
「人の話を聞けぇぇぇぇ!」
ボクが怒鳴り声を上げて暴れるにも関わらず、片手でボクを持ち上げていたレオンは全く気にした様子を見せずに光り輝く聖剣を振り抜いた。




