エルフ、見捨てられる
現れた少女は白かった。
いや、服も肌も髪も全部が病的なまでに白いのよ。瞳だけがほんのりと赤みがかかってるけど全体的に見れば白い。
そんな少女がなぜか怒ったような表情で私を見ていた。
『わたしの起こし方に文句があると言うのですか?』
発せられたソプラノの声にも明らかに怒気が混じってる。
そんなことよりも私には気になることがあった。彼女は「わたしの起こし方」と言った。
つまり、私をベッドから転がり落としていた元凶!
「あなたが私の安眠を妨害してたのね!」
ビシッと指をさして私は白い少女、確かイーリンスに文句を言うべく口を開こうとした。けど、口を開く前に目の前の少女から溢れる魔力に怯んでしまった。
『安眠、ですって……』
恐ろしい声を聞いたような気がした。
ついでにイーリンスから溢れる魔力で周りの空間が震えているような気さえしてくる。
周りを飛ぶ精霊さん達も慌てたようにイーリンスから距離を取るようにしているし、ソラウに至っては、
『我、しーらない! あ、パトロールに行ってくるのじゃ!』
契約者である私を見捨てて逃げ出していた!
フィズも不穏な気配を感じ取ったのか昼寝から目を覚まし、気配を絶って逃げ出そうとしていたけど私は道連れとばかりにフィズの尻尾を掴み逃さないようにしていた。
フィズの側で同じように昼寝をしていたフェルコーネはというと、イーリンスの魔力に当てられて寝ているのに泡を吹いて気絶するという器用なことをしてるし。本当に聖獣か疑いたくなるような光景ね。
『あれだけダラダラと過ごして起きたらわたしのログハウスの周りで騒がしくしてるくせにぃぃぃ!』
「あー」
『きゅぅぅえ……』
最強の生物であるはずの竜のフィズまでイーリンスの体から放たれる魔力に耐えきれないかのように白目を剥いて意識を失ってる。
こわっ!
ソラウは大精霊じゃないけど匹敵する力を持つとか言ってたけど私に向けられる魔力はそれ以上だよ。
「あのー、君は誰なのかな?」
体から吹き出るように放たれる魔力のせいでイーリンスの白く長い髪は逆立っているし、顔はかなり怖い。
多分子供に見せたらトラウマになるような顔よね。
でも、初めて見るし、よくわからないし……
『あ、そう言えば自己紹介どころかまともに会うのは初めてだったわね』
今までの怒気がまるで嘘のように搔き消え、イーリンスはバツの悪そうな表情を浮かべる。
「イーリンスっていうのはソラウが言ってたから知ってるよ?」
『それは知ってるとは言えないわ。あなた名前を聞いただけで友達になれるの?』
それは無理な話かな。
なにせ私は村にいたエルフの大半の名前を覚えてないし。いや、名前どころか顔すら覚えてるか怪しいか。
そんな事を考えているとイーリンスはまあいいわと告げると私へとしっかりと向き直った。
『お初にお目にかかります。我が名はイーリンス。植物の高位精霊でありいずれは大精霊になる精霊です』
まさかの大精霊候補のような精霊だった。




