妹、咀嚼する
頭を抱えたからといってファルゼの言う通り帰るという選択肢は私にはない。
だってここでなら私は思う存分だらけられるわけだし? まあ、たまにというかかなりの確率でトラブルが舞い込んでくるけど些細な問題だ。
放っておいたらイーリンスとか精霊さん達が解決してくれるに違いないし!
「この生活を潰す気がないからファルゼの方を潰すね!」
「断る!」
ファルゼが断言するとどこからか取り出した見覚えのある瓶の中身を豪快に飲み干した。
するとファルゼの身体中にあった傷が時間が巻き戻るように綺麗になっていく。
エルフの秘薬か。私も使うけど使われる側になるとあれはズルだよね。
『いるぜもそうだけどさー』
『あれどこからだしてるの?』
『ふくのなかになぞのくうかんでもあるの?』
それは秘密だ!
いや、そんなことよりファルゼだね。でも傷が治ったところでファルゼの状況は変わらない。
変わらずに私のダンジョンマスターの力で魔力は周囲には全くなく、唯一の魔力を生み出す精霊樹から放出される魔力はヘルムダートのみに注がれている。
ヘルムダートから放たれる魔法を吸収できると言っても魔法を完全に消し去るくらい吸収できないし、力で魔法を弾くほどの身体強化もされていない。
だから詰んでるんだけどなぁ。
「ここまで頭悪かったっけ?」
『我の知る限りではお主の事になると割と馬鹿じゃったと思うが?』
そうだったかな?
村ではかなりべったりとくっついてきてたし、私も寝てる事が多かったからそこまでちゃんと見てなかったよ。
「お姉ちゃんを気絶させてでも連れて帰る! 食べ尽くす! もぐもぐ!」
ファルゼが構えを取り、右手を開き前へと突き出す。そして突き出された右手の掌に口のようなものが突然現れた。
なんだあれ?
『あれは凄いのう。意識してか無意識かはわからんが自分の能力を理解したのか?』
ファルゼの掌に現れた口のような物を見たソラウが感心したような声を上げる。
私にはよくわからないけどあの口はなんか嫌な感じがする。
「いただきます!」
ファルゼが叫び、口が現れた右手を地面へと押し付ける。
そして何かが咀嚼するような音が周りに鳴り響く。
バクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバク
「……何あれ?」
ファルゼが右手を押し付けた地面が咀嚼音と共に消えていく光景を見て呟いた。
『おそらくじゃが、地面を食べて魔力に変換しておるんじゃろうな』
「え、それってやばくない?」
魔力を全くなしの空間に変えた意味がなくなるじゃん。
『それは大丈夫じゃろな』
「なんか無責任な発言に聞こえるけど?」
私はソラウを軽く睨んだ後、魔力を漲らせて再び姿を現したファルゼを迎撃すべく仕方なしに手を振るったのだった。




