剣聖、おちょくられる
『お主は嫌いじゃフィオニキス』
我は躊躇いなく声の聞こえた宙に向かい確認することなく長剣状のヒュペリオンを振るう。
『あひゃ』と馬鹿にしたような声が聞こえただけでヒュペリオンは空振った。斬った感触もない。
そして我はヒュペリオンを構えながら声の主である闇の大精霊フィオニキスを視界に収めた。
宙に浮かぶのは闇の大精霊フィオニキス。
上から下まで真っ黒なローブを着込み、顔すらも薄黒いベールで隠している。そのベールから見えるのも白い仮面という徹底的に姿を隠した謎の大精霊じゃ。
胡散臭すぎて我は好きじゃないんじゃよな。
『いやいや、僕が何をしたのさ? ソラウちゃーん』
『その人を馬鹿にしたような呼び方はやめんか!』
腹が立つから氷の槍をいくつも作り上げてフィオニキスへと放つ。じゃがフィオニキスは避けるような動作を一切せずに飛んできた氷の槍を自分の影を巨大な顎門に変化させ噛み砕かせよった。
僅かに飛んできた氷の飛沫がローブについたらしくそれをフィオニキスの奴はあからさまにわかるような仕草で払い、鼻で笑いよった。
『ふっ、相変わらず短気なソラウちゃん』
『き・さ・ま!』
どこまでも我を馬鹿にしたような口を聞きよって!
こやつは潰す。精霊は死なんが精霊界送りにしてくれるわ!
我がそう決意し、体の魔力を漲らせているとそんな我の前にレオンが剣を構えたまま歩み出た。
「闇の大精霊様、ゴーシュの奴はどこにやりました?」
『ごーしゅ? ああ、闇の宝珠と一体化した子かな? あれなら僕が回収したよ』
ほら、とフィオニキスが手を見せると指に挟まれた紅い宝石、闇の宝珠が見えた。
あの黒ドラゴンもどき、災害級のやばい気配がしとったがやはりフィオニキスの手が入っておったか。
「出してください。殺すんで」
い、いきなり物騒なことを言い始めたのう。結構凄い殺気じゃから思わず我ぶるったぞ。
『え、やだけど? 僕のおもちゃだし』
仮面を付けた顔を傾げながらフィオニキスが拒否をする。じゃろうな。こやつは人界に現れては碌でもない厄災を振り撒く大精霊の中でも異質な奴じゃしな。
そんな奴が自分の物を、おもちゃを渡すわけがない。
「なら指ごと斬る」
レオンの姿が一瞬にして凄まじい速度で跳躍し、フィオニキスの前へと迫っていた。
普通の奴なら一瞬で姿を消して現れたように見えたじゃろう。じゃが、
『おお、速い! しかもそれよく見たら聖剣じゃん』
腐っても大精霊であるフィオニキスには普通に見えておったじゃろうな。我にも見えたし。
『でも無理だよーん』
瞬時にフィオニキスの指ごと闇の宝珠を切り裂こうと振われたレオンの聖剣じゃったがフィオニキスの指と闇の宝珠を切り裂く事は出来なかった。
凄まじい勢いで振られた聖剣であったが甲高い音と共に阻まれ、フィオニキスが腕を振るうことで容易く弾かれた。
レオンの聖剣ではフィオニキスの指を切断するはおろか傷一つ付けられなかったようじゃからな。
「ぐっ!」
『やるやる。人間にしてはやるよ君! いや、聖剣が凄いのかな?』
着地したレオンに追撃をかけるわけでもなくフィオニキスは宙に浮かんだまま拍手を送っておる。
本当に人を馬鹿にするのが得意な奴じゃな!
『じゃ、お返しをしとこう!』
拍手を終えたフィオニキスは闇の宝珠を持っていない方の手の指を揃え手刀を作るとそれをゆっくりと振り上げ、ドス黒い魔力を纏わせる。うむ、やばいやつじゃ。
『だーくすらっしゅ!』
闇の魔力を纏わした手刀をレオンへ向かい突撃しながら繰り出した。
「うお⁉︎」
レオンは驚きながらも聖剣で手刀を受け止めるがフィオニキスの手刀は僅かに聖剣へとめり込み、剣全体に小さくない亀裂がいくつもできた。
やっぱりフィオニキスはおかしいのう。
仮にも聖剣に手刀をめり込ますとか普通はできんじゃろ。
まあ、聖剣自体がまだ完全に動いとらんようじゃからしかたあるまい。
『うわ、もろ』
じゃが、めり込ましたフィオニキス本人も聖剣の脆さが意外だったらしく驚いとる。
そんな手刀を解いたフィオニキスはいち早く後ろへと飛び、距離を取ると呆れたような雰囲気でレオンを見ているようじゃった。
『いや、聖剣使い弱すぎでしょ? 聖剣の力を半分も出せてないし。下手したら僕聖剣壊しちゃってたよ。まあ、聖剣自体は時間経過で修復されるからいいんだけどさ』
『いや、良くはないじゃろ』
聖剣は確かに壊れても修復されるが時間がとんでもなく掛かるからのう。
『まあ、いいや。今日おちょくるのはこれくらいにしとこう。そんな聖剣じゃ僕止めれないだろうし、ソラウちゃんが怒ると怖い』
レオンの持つヒビだらけの聖剣を一瞥し、嘲笑のような雰囲気を出したフィオニキスは興味を失ったのか自分の影の中に沈んでいき姿を消したのじゃった。




