大精霊、落とされる
『おいしー』
ニコニコと笑いながらアイリスはアメとザインガルドの腕を頬張っておる。
この姿を見て誰が大精霊最強だと言って信じてくれるんじゃろうな。
人間界なら幼女ととられるような小柄な体じゃし、綺麗じゃからのう。下手したら奴隷商人とかが攫いそうじゃ。そしてアイリスの奴もホイホイと捕まりそうじゃな。食べ物とかに釣られて。
というかあのザインガルドが手にしてたアメ。あれは確か超高密度に圧縮された魔力のアメなんじゃがなぁ。
魔力が少ないものが食べたら体が破裂して死ぬような代物でおやつにはなり得ないんじゃがさすがは最強の大精霊というところか。
『嬢ちゃん、幸せそうにしとるとこすまんのだが、さっさとソラウに裁きを与えてくれんかのう』
『メッヘルビルドいらぬことを言うでないわ!』
『俺の腕がぁぁぁぁぁ!』
アイリスは強いが頭が子供じゃからな。一人だったら言葉巧みに騙させる。それで我は無罪放免になる予定じゃったのに!
そしてザインガルドがうるさい。大精霊じゃし、ここは精霊界なんじゃから腕くらいすぐに再生するじゃろうが!
見てる間に治っとるし!
『裁きー? ああ、パパがなんか言ってねー』
メッヘルビルドの言葉に首を傾げていたアイリスじゃったが何かを思い出したのか手を叩いた。
ちなみにアイリスの言うパパというのは精霊王の事じゃ。
『じゃあ、さっさとやってくれよ』
『からかうのも』
『飽きたしー』
腕の調子を確かめるようにしているザインガルドとなんか飽きた様子のウーラールーラの奴らが雑な事を言ってきおる。
面白半分で顔を見せてきよったくせに!
『じゃあ、ギルティで』
『軽い! そんなお茶を頼むみたいな感じで有罪判決を出すでないわ!』
『アイリスが法則だよ!』
『ただの権力の振りかざしじゃろうが!』
これだから頭が子供なのは嫌なんじゃ!
しかも力があるからたちが悪いわ。
『じゃ! 楽しそうだからパパに言いつける!』
『余計に面倒臭くなるからやめよ!』
満面の笑顔で恐ろしいことを言いよるわ…… このロリ。
なにせ精霊王はアイリスの奴を溺愛しておるからのう。基本的に何事にも我関せずの姿勢である精霊王じゃがアイリスの事だけは別のようで、大概の願いは叶えるらしいし。
人間なら普通はそんな育て方をされたら傲慢な者になるんじゃろうが精霊であるアイリスは違う。
言うならばイルゼの周りをいつも飛び回っている精霊がただ力を持った存在というべきじゃろうか?
純粋、天真爛漫、そう言った言葉が似合う大精霊じゃ。
じゃからそこ、楽しそうだからと言った理由だけでとんでもないことをやらかす大精霊でもあるわけなんじゃが……
三百年くらい前に空飛ぶ大陸に面白そうという理由から訪問という名の突撃を仕掛けて海の藻屑にしたからのぅ。
あの時はそれなりに巨大な空飛ぶ大陸が海に落下したせいで馬鹿みたいな大きさの津波が発生して人間界にかなり迷惑をかけていたのう。
『じゃ、ソラウギルティね! 一ヶ月の魔力封じと精霊界の一番下に放り込むからね! その状態でここまで上がって来てね。一ヶ月以上かかるなら延長だから』
ニコニコと笑顔で罰を告げてくるアイリス。
そんなアイリスとは対照的にアイリス以外の大精霊らは全員顔を蒼くしておった。もちろんその中には我も含まれておる。
『ま、待たぬか! 魔力なしで最下層から最上層まで上がってくるとか死ぬじゃろ!』
精霊界は高低差が凄い。
じゃが、空を飛べる精霊にはあまり関係がない。あくまで空を飛べる精霊ならじゃが。
今の魔力を封じられた状態の我は空を飛ぶことすらできん。
つまりは純粋な身体能力だけで断崖絶壁といえるような場所を登っていかないといけないわけだ。
死ぬ! 精霊だから疲労とか餓死で死ぬ事はないがメンタルが死ぬわ!
『じゃ、頑張ってね!』
アイリスが本当に楽しそうに、愉しそうに笑う。その笑顔を見た瞬間、我の足元に音もなく大きな穴が空いた。
当然、縛られて身動きが取れない我が逃げれるわけもなく、
『ふざけるでないわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』
我は叫び声を上げながら落下していった。
そうして精霊界の最下層に縛られたまま叩き落とされた我が人間界に戻るのにかなりの時間を費やすことになったのだった。




