エルフ、爆進する
「意外と快適」
『はやーい!』
『まけない!』
空飛ぶ絨毯がかなりの速さで空を舞う。その横には何かを刺激されたのか精霊さん達が魔力を噴射しながら負けじと速度を上げて飛んでいます。
空は晴天。空を飛ぶには全く支障がありません。いや、曇りであっても問題ないと思うけどね。
空飛ぶ絨毯は動かしたい方向を意識すればそちらに勝手に動いてくれるという優れ物でした。さらには絨毯に嵌め込まれている宝石のような物に込める魔力量を調節すれば飛ぶ速さも弄れるみたいです。
しかもアン、トロワ、フィズ、私が座っても余裕があるそれなりの大きさです。
余裕ってやっぱり大事ですよね。
「アン、やばいわ。この高さで落ちたら流石に死ぬかもしれないわ!」
「トロワ、普通に考えたら死にますから。あと落ちる時は絶対に今服を掴んでる手を離してくださいね。私も落ちますから」
そんな余裕など全くなさそうなエルフの二人はというと顔が真っ青です。
実際、フィズに落とされた体験談がある私の感想としてはこのくらいの高さなら死にはしないと思うんですがね?
精々、骨が折れる程度でしょうか。
「きゅ?」
そんな二人をフィズは不思議なものを見るかのように見ています。
まあ、フィズなら落ちても絶対に無傷ですものね。いや、それ以前に飛びそうですし。
それにしてもかなりの速度を出してるんだけど快適快適。
試しに乗った時は速くすると風が凄い勢いでぶつかってきて呼吸できなかったし。だから今は空飛ぶ絨毯を中心に私の風で保護してる。
これで風によるダメージは無しになりましたし、飛ぶために消費する魔力もそんなに多くないので空飛ぶ絨毯は本当に有能です。
「怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いぃぃぃ……」
むしろ、後ろでそんなにぶつぶつと言われている私の方が怖いです。
いつも笑っている印象が強いトロワでしたが高いところが苦手だったんですね。
「エルフなら高い木に登ったりしなかったんですか?」
「イルゼ様、まるで私がビビリみたいに言うのやめて!」
いや、実際にビビってるんじゃ……
そう思ったのが顔に出てたのかトロワが詰め寄るように、といっても怖いからかゆっくりとした速さで近づいてきます。
「私だって高い木くらい登れますよ! でもそれは落ちても大丈夫な高さの木です。こんな明らかに長寿の樹よりも段違いに高い所は流石に怖いんです!」
そ、そうですか。
トロワの顔が鬼気迫るような顔になってます。
めちゃくちゃ怖い。
「そんなに怖いなら下歩く?」
「イルゼ様は私に死ねと言ってる⁉︎ ここの魔獣に襲われたら即死だよ!」
あれも駄目、これも駄目。
このエルフ難しいなぁ。
「じゃ、どうしたいの?」
「で、できたらもう少しゆっくりと……」
『かんたんだよ!』
もう訳がわからなかったので直接、トロワに尋ねてみます。
そしてトロワが喋っている途中で精霊さんが割り込んできました。
『ようはとんでるのがいやなんでしょ?』
『だったらもっとすぴーどだしたらいいんだよ』
『あっというま?』
『じんしんじこー』
なるほど。確かにそうですね。
飛んでるのが怖いのなら、怖い時間を短くした方がいいですよね。
「ち、違……」
「じゃ、加速しましょう!」
空飛ぶ絨毯の扱い方はもう完璧です。
試してないですけど私の魔力をそれなりに込めればかなりの速さが出るはずです。
「アン、帝国はどっちです?」
「……あちらですが、どうする気です」
空飛ぶ絨毯の向きを調節して帝国の方へと向けているとアンは不安そうな表情を浮かべて私を見てきます。
「加速して一気に帝国にいきます」
「「やめ……」」
アンとトロワが何か言おうとしていましたが魔力を空飛ぶ絨毯へと込めると空飛ぶ絨毯は凄まじい速度で加速を開始。
あまりに一瞬で加速したからか私が作っていた風の壁もあっさりと突き破り、暴力的と言っていいほどの風圧が再び私達を襲ってきた。
「「「みゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」
アン、トロワと共に私も絶叫し、空飛ぶ絨毯は帝国に向かって爆進していくのでした。




