筋肉、撤退を開始する
「た、大将⁉︎」
「撤収なんて嘘でしょ⁉︎」
部下がすげぇ動揺してやがる。
なんで魔獣に襲われた時より動揺してんだよ。
「隊長、本気ですか?」
「本気も本気。今のままじゃアレには勝てねえ」
アルパ? いや、アルマだったか? とりあえず奴が厳しい顔で再確認をしてきやがる。
あの黒騎士は俺じゃ勝てねぇ。いや、今の俺じゃ勝てねえというのが正しいか。
「さっさと軍をまとめて撤収するぞ。殿は俺が持つ」
「了解しました!」
素早く返事をしたアルパが踵を返して他の奴らに指示を出し始めた。
ふむ、筋肉がないがやはり頭が回るのがいいな。強いて言うなら女みたいな体で女みたいな顔をしてるのが勿体ないな。
「チッ、やっぱり易々とはいかせてくれねえようだな」
そんな考えをしながらオレは小さく舌打ちをしつつも再び大竜刀の柄へと手を伸ばす。
土煙が舞う奥からは先程よりも圧が増した殺気が放たれてるからな。
いつでも抜ける姿勢で待ち構える。
「アルパ急げよ! 準備が出来次第全力で撤収だ」
「分かってます! あとア・ル・マです!」
まあ、撤収についてはあいつに任せておけば問題ない。
事務処理とかも上手いからな。
オレの役目はあいつを、黒騎士を食い止めることにあるからな。
せめて傷くらいはついてて欲しいもんだが……
「主ノ森デ暴レルノハ許サン」
土煙を吹き飛ばすようにして現れた黒騎士が低い声で告げる。
その漆黒の鎧には傷など一つも見当たらず、精々土などが多少ついているくらいだろう。
こいつがサロメディスの報告にあった奴を半殺しにした奴だろう。
つうか喋れたのか……サロメディスの報告では叫び声しか上げないとしか聞いてないが……
化け物すぎるな。
オレも魔王軍では化け物扱いを受けてはいるがこいつは別格だ。
「死スベシ」
先程の仕返しというわけかどうかは知らないがさっき俺が黒騎士を吹き飛ばした時にした動きと全く同じ動きでオレの懐へと滑り込んでくると手にしている鈍器を横薙ぎに振るう。
「ハッ舐めんな」
自分ができる攻撃なのだから明らかに地力が上である相手ができると考えるのは普通だろうが!
振るわれた鈍器を筋肉増強で強化された拳で上から叩きつけ地面へとめり込ませる。
武器を封じるのに成功したオレは心の中で喝采を挙げつつも即座に体を回転させ、強化された脚による蹴りと回転している最中に引き抜いた大竜刀を黒騎士へと叩き込んだ。
蹴りと斬撃の二連撃! それを黒騎士へと叩きつける!
それを食らった黒騎士は先程は吹き飛んだのに今度は僅かに後ろに下がっただけだ。
やっぱ異常なくらい硬え。
「あー勝てんなぁ」
並の魔獣なら今の攻撃で即死だ。
だが、黒騎士は食らいはしたが死んでない。
「オオオオオオ!」
黒騎士が吼えながらこちらに向かい駆けてきやがる。
獣としての本能がガンガンと逃げろと警告してくる。
逃げたい所なんだが、今逃げたら撤退中の部下とか絶対死ぬだろ?
そりゃ寝覚めが悪いしな。
次々に襲いくる鈍器を躱し、いなし、隙ができたら殴るか斬りつける。
幸いな事に黒騎士には戦士とかそういった類の技量がねえ。
持っている力とスピードで武器を繰り出すという事しかしてこない。
オレは口元を歪めて笑う。
この調子でもう少し時間稼ぎをすりゃあいい。
逃げるだけなら何とかなるからな。
そんなオレの考えを嘲笑うかのように頭上から光の雨が降り注いできた。




