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魔王は隠居をやめる  作者: 春アントール
世界が揺らぐ
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白い魔族と赤鬼と……最後の日

「……おはよう」


「……うん、おはようさん」


今日は早起き……それもそのはず、肌でわかる……今日が、人生最後の日だ。


「……とうとう、来たなぁ」


「そうだな……何する?」


「うーん……とりあえず、ご飯食べよ?」


「わかった、飯の支度は俺がするよ」


「最後ぐらいウチも手伝うで」


「……ふふっ、そうか、なら、お願い」


「あいよ、おまかせあれ」


「ぷふっ、なんだそれ……」


そんな感じで、いつも通りの朝ごはん。


「……とりあえず、アリスの墓、行こか」


「だな、今からそっちに行くわけだしな」


墓を磨き、綺麗にして満足そうに2人頷く。


柔らかい風が俺たちを撫でるように吹く。


「ネーヴェー!疲れた……おんぶして」


「……はぁ、ほら、乗れ」


「ん、ありがと」


まぁ、家の裏の墓からリビングまでだから大した距離じゃない……


「なぁ、鬼神も歳で死ぬのか?」


「ただただ寿命が鬼族よりも伸びるだけやからな、不老不死にはならんよ」


「……そっか」


「ははっ、なんや?悲しいんか?」


「まぁ、な?」


「そっか、ウチもや……」


なんて他愛のない会話をしていると……目の端に見覚えのある……顔を見た気がした。


河川敷に、緑の大地、流れる川。


「「っ!?」」


俺とツバキはすぐさま顔を見合せた。


「……今のって……!?」


「……間違いないよな?」


「「フューチ……!?」」


「……ふむ、2人とも、てっきり私の事など忘れているものかと思っていたが……存外に嬉しいものだ」


懐かしい声……いや、なんかの魔法か?

死人と会うことなんてできるわけが無い。


「……私は本物だとも」


「……ウチが一番好きなフューチの作るのお菓子は?」


「アップルパイ、ネーヴェはバタークッキーだったな

ツバキから掠めとってはよく喧嘩していた

……その度に私のクッキーが減っていたな」


「……剣を封印した場所は?」


「サーラー跡地、どこかのバカが大暴れして氷結大地と化したがな?」


「……本物だ」


「……本物や」


「神様がな、善行を積んだ褒美に会うことを許してくれたのだ」


「……フューチ……あの日……お前が死んだ日から、俺たちは人を信頼しきれていなかった」


「その割には私の望んだ世界になってるが?」


「お前の意思を尊重したまでだ……」


「そうか、心遣い感謝するよ、友」


「「どうした?」」


「我が友2人に伝える……私は、あの日、人の手により、毒を飲み死んだ……

そして、死んだ私の墓の前で、涙を流し、怒りに燃え、そしてその焔を押しとどめた友よ

……ありがとう、本当に……不謹慎だということは重々承知だが、お前たちが墓前で涙を流した時……私はな?かなり嬉しかった……アリスも、毎日墓に来てもらってるらしいな?

私と随分な対応の差を感じるぞ?」


頬を子供のように膨らませる勇者。


「……しかしまぁ、お前たちも夫婦か……生きていれば祝いに向かったのだがな……」


「……それで?何か用があるんじゃないのか?

じゃないとこんな大事な日に降りてくることは無いだろう?」


「用か?ないぞ?

1日の、それも日が赤くなるまで、その時間までしか許されていないんだ

いつの日にこの権利を行使するか、迷いに迷っていたらもう時間が無くてな……たはは……」


顔を赤くしながら力なく笑う。


「そうか……そうか、お前らしいよ」


「ウチも、そう思うわ……ホンマに、アンタらしいわ」


「……もう、時間だな

あの世で、アップルパイとバタークッキーを用意して待っておく……また、後ほどな」


そして、赤い夕日に照らされ……フューチの体が消えた。


「……ホンマに、フューチやったな」


「最後の日にふさわしいサプライズだ」


ツバキを背負い直し、家へ帰る。


ソファーに腰かけ……残りの時間いっぱい話をする。


「ウチの名前のツバキ、寒いところに咲く花らしくてな……お母さんが言ってたんよ

『赤の椿の花の花言葉は控えめな素晴らしさ、謙虚な美徳』って」


「……確かに、お前は謙虚な美徳はないが控えめな素晴らしさはある」


別に特別胸がでかいとか、そんなことは無い、全体的に控えめだ……嘘だ、めちゃくちゃ強くて可愛い。


「花の名の通り行かんかったけどな……唯一、首を落とす、その一点は椿と合致したんよ

椿の花は首から落ちて行くからや」


「そうか」


「……ウチの固有魔法、そう言う所から来たんかもな」


「あぁ、きっとそうに違いないさ」


「……なぁ、ネーヴェ」


「……なんだ」


「時間が無いなぁ」


「そうだな……もう、眠たい」


「ウチもや……寝る?」


「寝たいがまだ起きていたい」


「ウチもや……そっち、行くで」


体をこっちにやるかと思えば頭を膝に落としてくる。


「膝枕……ウチはしたことないけど、ネーヴェにはたまにして貰っとったな」


「その度角が痛いのなんの……今はないけどな」


「そうやな」



「……なぁ、ツバキ……まだ、起きてるか?」


「………起きとるよ」



「……なぁ……ツバ……キ、まだ、起きてる……か?」


「…………起きとるよ」



「……なぁ、起きてるか?」


「………うん」


「なぁ?」


「……………なんや?」


眠たげな目を向けるツバキ。


「幸せだな、俺達」


「……せやな」


もう、起きてるかなんて確認しなくていい……


2人1緒に、夢の中。


2人重なり、眠りにつく。


永い永い眠りに。


紅白、愛し愛され続ける。

……一応、2人の人生はここで幕を下ろします。

「勇者フューチ毒死ってまじかよ!?」

「ってかフューチって誰やっけ?」


そんな人もいるかもしれませんね

何はともあれ……おやすみなさい。


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