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魔王は隠居をやめる  作者: 春アントール
世界が揺らぐ
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余命

「……はぁ、もう、駆け足所か、猛ダッシュで父親したせいでもう色々やること残ってないな」


無くした角を触りながらそういう。


「ま、そやな」


俺の動きを真似してるのか、ツバキもまた『無い角』を触っている。


「フブキは帰ってこないしなぁ」


「気にすんなって言ったんはあんたやろ、寂しがらんと、ウチもおるんやしさ?」


「……ま、それもそうだな、そういや、封魔の指輪はどこいったんだ?」


「んー?あぁ、あの黒い指輪なら川に向かって思いっきり投げつけてたで」


「……マジかよ……あれ結構作るの苦労したんだぞ!?」


「主にランバートがな」


「よ、よく知ってるな……」


「まぁ、そやな」


「……なぁ、ツバキ」


「ん?どした?」


「……俺の余命、あとどれぐらいかな?」


「……なんでや?」


「角折って無茶したせいか……体に力が上手く入らない」


「……やっぱり、魔力機関の消失は魔族『も』キツイもんなんか」


「……ツバキもなのか?」


「……見栄張ってただけやで、案外ウチもネーヴェも、命なんて儚いもんや」


「簡単に、今まで散らしてきたからな」


「そやな」


そう言うと、どちらともなく、ばたりとソファーに倒れ込む。


横を向けば赤い髪に赤い目……


手を伸ばせば、その細い指……


足を進めれば、ツバキその物に……


口を開けばその名を呼べるが……


「「死が近づいてきた」」


また、どちらともなくそう呟く。


立ち上がり、手を伸ばし、抱き合い、名を囁く。


「ツバキ……楽しかったか?」


「ウチの目、見てみ」


死の間際だということはお互いに十分理解している。


その目は……まだまだ生きている。


「楽しそうでなによりだ」


「……幸せやな」


「あぁ、幸せだ」


「このまま死んでしまいそうや」


「俺もだ」


「でも、まだ1日ぐらいは持つかな?」


「お互いで補完し合おうか?」


「2人でいつもやってきたんや、最後も一緒が1番や」


「そうだな……今まで、ずっと我儘に付き合ってくれてありがとうな」


「お互い様や、それに、今更や」


「……あぁ、あと1日……最後ぐらいゆっくり2人で、休日を……過ごしたいな」


「そやな、ゆっくり休ん……で、な?」


「……だな」

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