第七十話 暗きの世界
本日三話目というのは、少し遅かったですね。
では、続きをどうぞー。
邪神アバターの中、闇の世界が広がっている。何かも飲み込み塗り潰すような黒がただ広がっている。その中で一筋だけの光が灯っていた。
その光は吸収されたはずの、アリスの魂だった。その魂を包むような魔法陣が光り続けていた。
――――ここは、何処だ?
――――何があった?
――――暗い、あの世か?
意識がはっきりしている。身体がない、魂のままなのに闇に吸収されることもなく、漂っていた。あの世かと思っていたが、意識がこんなにハッキリしていることからその可能性はないと思っていた。一度は死んだ身なのだから、死んだら意識は覚醒することもなかったのだろう。つまり、自分はまだ生きていると考えられる。
――――っ! 思い出した……ヨハンに騙されたのか?
最後の記憶は椅子に座っている時のこと。何かが吸い取られているような感じを味わっていたが、魔力を吸われているからだと思っていたが、もしかしたら命をも吸い取られたかもしれない。
そう考えると、だんだんと怒りが沸いてくる。
――――元の世界に戻ったら、消してやる……!! …………どうすればいいんだ?
出たら、ヨハンを許さないと決めたのはいいが、どうすればここから元の世界に戻れるかわからなかった。回りを見ても何も無い真っ暗な世界しかない。
それでも、諦めずに人魂が漂うように、前へ進んでいく。視界を遮る魔法陣の模様が気に掛かるが、これが無くなったら駄目様な感じがした。
アリスの考えは当たっていた。もし、この魔法陣が消えてしまったら、魂は闇に吸収されて消えてしまったのだろう。この魔法陣は、アリスの王者能力『完全無欠』から作られており、周りの闇から魂を守っていた。身体は残念ながら、闇の残滓と魔力を抜かれていた為、『完全無欠』で守れるのは魂だけとなってしまったのだ。魂には記憶と意識が刻まれており、生きている時と同様に動けている。
先の無い道を延々と歩き続けるような感覚だったが、アリスは諦めなかった。諦めなかったことにご褒美を与えられたのか、真っ暗な世界で淡く光る物を見つけたのだ。
――――何かがある? くっ、早く動けたらいいんだが……
早く動きたくても、ふよふよと浮くしか出来ないので、スピードを上げることは出来なかった。急ぎたい心を落ち着かせて、少しずつ距離を詰めて行く。数十分、数時間掛かったのかわからないまま、近づいていき――――ようやく淡く光る物が何かはっきりわかるようになった。
――――どういうことだ。ヨハン? ……魂がない?
そこにいたのは、怒りをぶつけたいと思っていた人物だった。しかし、そのヨハンは倒れていて、透けていた。元から霊体のヨハンだから、透けているのはいいが、魂の気配を感じなかった。
――――どうして、ヨハンは身体が残って、魂が消えているんだ?
わからないことだが、何もしないことに進まないので触れてみる事にする。人魂のようになっているアリスはヨハンの身体に触れてみると――――
(聞こえますか?)
――――っ、声が?
(この言葉は残留思念によって、残されていますのでこちらが話すしか出来ません)
――――…………
(これを聞いている人が私の知っている者だったら良いですが……。これは遺言だと思って貰って良いと思います。私は魔神ゼロ様が起こした戦争にて、何者かに身体を奪われ、死んでいます)
ヨハンは千年前の聖戦にて、邪神アバターから身体を奪われていた。そして、邪神アバターはヨハンの身体に身を隠して、ヨハンとして動いていた。その邪神アバターの目的も残留思念に残されて、聞いたアリスは――――
――――はん、太陽神ミトラスを消して、世界を奪うねぇ……
ただそれだけ? とアリスは思っていた。それだけで、自分の目的を邪魔されたことのだと。アリスは神が相手であっても、邪魔をする者を許すつもりはなかった。残留思念も最後の方になっており、こんな言葉を残されていた。
(私の身体は霊体なので、闇の世界に消えることはありません。誰かわかりませんが、好きなのだけ使っても構いません。出来れば、邪神アバターを――――)
そこで、音声が途切れた。
――――倒してほしいってことか。ふん、言われなくても、邪魔をした者は消す!!
アリスはこれからどうすればいいかは一つしか思いつかなかった。今の自分は魂だけで、ここにヨハンの霊体がある。乗り移るだけでは神である邪神アバターに勝てるとは言えない。
――――はっ、力が足りないなら、他から補えばいい!!
今までの経験から、強くなるために何をすればいいかわかっていた。――――奪えばいい。今まで人間、魔物、魔人から何かも奪ってきて、強くなってきたのだ。それをまたやればいいだけだ。
――――ここにある全てを奪う!!
ヨハンの身体だけではなく、ここの世界の闇全てを奪う勢いで吸い込むイメージを作り出す。今のアリスは闇の残滓で作られたスキル、暗黒眼――――王者能力『狂凶王』をも持ってはいない。だが、今までやってきたことは覚えている。
その強くなりたい思いがスキルが無くとも実現させる。アリスの魂へ渦巻くように、ヨハンの身体とこの世界を吸い込んでいく。膨大な何かを吸収し、魂の輝きが強まっていく。
邪神アバターと戦う魔王の三人と大天使だったが、その戦いは……
「ごふっ、ま、まだだ……」
「もう君だけだよ? 立っているのは」
立っているのは邪心アバターとフォネスだけ。他は意識を落としてはいないが、動けず倒れている。余波を受けた勇者達とガロも全身満身で動ける人はいなかった。
「『幻焔王』!!」
「その程度では、神である私には通じないよ。せめて、神之能力ではないとね」
「そんな――――!」
最後の力を振り絞って、攻撃を仕掛けたが、全く通じてはいなかった。スキルの格が違いすぎて、攻撃が全く通ってはいなかった。大天使であっても、神之能力を持ってはいなかった。唯一、持っている者はゼロとミディだけだが……
「神之能力を持っている者は閉じ込めている。まぁ、人間と魔王の身では神之能力を持っていても、神である私に勝てるとは思えんがな! あはははっ!!」
「ゼロ様……」
力が通じない敵に膝が折れそうだったが、倒れてしまったら全てが終わると思って、立ち続けた。
その様子を映像で見ていたゼロ達だったが、そのゼロ達は能力を使わずに出られる方法はないかと色々試していた。
「……この結界は完璧に出来ている」
「くっ、千年も掛けていたと言っていたな」
「武器も全く通じておらんわ」
色々試したが、能力を使おうと思っても使えなかった。
「ヤバイ、あいつらが死ぬぞ!」
「っ、アレは!? 『暗黒消滅』!!」
「……千年前に使っていたのより強い――――」
自分達が行かなければ、フォネス達が死ぬ。ゼロは覚悟を決め、一つ考えていた事をやることに決めた。
「く、『理想神』を暴走させる!!」
「暴走だと!? それだと――――」
「そうだ。能力は意識して使えは出来ないようにしてあるみたいだが、暴走させれば、どうなるか!!」
「よせ!! ここから出れるようになっても、お前がどうなるかわからないのだぞ!?」
「俺がここで駄目になっても、お前がいれば――――」
フォネス達を助けに行けると言う前に、レイに抱きつかれて止められた。
「……待って、様子がおかしい」
「む? ―――-は、何だそりゃ?」
映像には、トドメを刺そうとする邪神アバターの姿が映っていた。それだけではなく、蛇になっている下半身の一部が白く光っていたのだ。
「な、何が!? ぐ、ぐおおおおおっ!?」
突然に邪神アバターが苦しみ始めて、発動しようとしていた技が解除される。白く光っている場所はだんだんと強く光っていき――――
ガラスのように割れ、何かが出てきた。
それは全身の全てが白く、翼というより刃に近いのが背中から生えていた。髪も白く、背中まで届く程に長くて神聖な気配までも感じられた。その人物とは――――
「邪魔をするな、邪神アバター」
神に生まれ変わったアリスであった。
神になったアリス。次回は神対邪神となります。
お楽しみにー!




