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第六十一話 三ヶ月

はい、続きをどうぞ。


 『眷属融合』によって、巨大な塔が出来上がった。街の全てを巻き込んだので、塔の周りは何も無かった。地面だけで家も木も王城さえも無くなっていた。その塔の頂上には兵器のような機械が載っていた。


「よし、これで準備は出来たか?」

「はい、これでいい筈です」

「えっと、これが前に言っていた人間を殲滅させる為の兵器?」

「そうだ。対魔王の兵器を覚えているな? その三つの性質を合わせた兵器にして、頂上に置いた」


 アリスは三つの兵器を回収しており、それをヨハンに渡して改造してもらったのだ。三つの性質を合わせて、今までにない広範囲へ広がるように作り直されていた。


「回収した兵器は一つしか使っていなかったから、あと二つの兵器の効果を知らないんだよな?」

「はい。どんな物でしたか?」


 今まで使ってきたのは、『天来無塵カタフロスト』で雷を落とす兵器だけで、あと二つは使っていなかった。使わなかったというより、使う機会が無かっただけなのだ。その兵器は――――


「魔法を阻害する雨を降らす雲を生み出す兵器、魔力を溜めることが出来る兵器で、今までは使う機会が無かったな。だが、ヨハンに頼んで改造して貰ったの」

「はい、この三つの兵器を改造して、その効果を全て合わせました。そして、出来たのが――――」




 溜められた魔力量により、雷が落ちる範囲を広げ、威力も格段に上がるようになった。更に、魔法を阻害する雨も降る。それだけ言えば、バトラとマキナもアリスがやろうとしている人間の殲滅方法に気付く。


「もしかして、世界中を包むだけの雲を生み出し、魔法を阻害する雨と殺傷の高い雷を落とすと?」

「ええっ、そうしたら人間どころか動物、魔物、魔人も殲滅しちゃうんじゃないの?」

「無差別だから、動物や魔物も死んでしまうな。魔人は魔力に対する耐性が高いから、生き残るだろう」


 アリスが考えている、今後の世界は魔人だけがいる世界だ。嫌いなのは人間だけで魔人までは殲滅しようとは考えてはいなかった。動物や魔物はかわいそうだが、一気に人間を殲滅したいならこの方法が一番良いとの考えだ。


「でも、強い人間は生き残るよね? 魔人が生き残るなら、勇者とか……」

「そうなれば、自分達で消せばいい――――おそらく、発動する前にここを攻めてくる可能性が高い。あの兵器は魔力を溜めなければならないから、発動まで時間が掛かる」

「あ、そうだよね。いつ発動出来るの?」

「――――三ヶ月。それまでに勇者が全員で攻めてくる可能性がある。だから、ここで潰しておけば、後は楽になるだろう」


 三ヶ月、ここに留まって兵器を守らなければならなくなる。兵器は高いところに設置しないと駄目なので、塔を使ったが目立ち過ぎている。外からの攻撃はヨハンがもう一つの兵器を作ったので、それで凌げるが、塔の中から攻めてくるなら、自分達でやらなければならない。


「あ、言っておくぞ。俺は魔力を溜めなければならないから、ここから離れることは出来ないぞ」

「ええっ!? 三人だけで、勇者達を抑えろと!?」


 アリスは兵器の真下にある王座に座って、三ヶ月も魔力を注入していなければならない。離れてしまえば、三ヶ月では貯まらなくなってしまうので、外と下の対応は三人に任せるしかないのだ。


「眷属と幽腐鬼を全部使って、外を警戒させるが、中に入ってきたらお前達がやるしかない」

「出来るかな……?」

「この私も手伝いますので、三ヶ月は耐えましょう」


 アリスの予想では、リディア王国が潰されたのを知って、多数の街や国が兵を出すには一ヶ月は掛かると考えている。外に眷属と幽腐鬼を放出して、ある程度の時間を稼げればいいが――――


「やはり、厳しいか?」

「いえ、大丈夫です。もしもの時は、私の切り札を切りますので」

「ほう、まだ何か隠していたのか。なら、任せたぞ」

「はい」

「はぁ、わかったよ」

「頑張る―!」


 アリスは三人を信じて任せることにした。兵器の真下にある王座に向かい、座る。それだけで魔力が吸い取られていくのを感じていた。吸い取られる魔力量はそんなに多くはないので、回復する速度は追いつけることが出来ている。




「三ヶ月か――――」














 サーズ王国に着いたリント達。1週間以上は掛かったが、無事に着く事が出来た。事態の事なので、すぐ王様に会えるように手配して貰った。サーズ王国の王様はすぐ面会をしてくれるように取り図ってくれた。


「面会をさせて頂きありがとうございます!」


 王の間にて、王座に座るのはもう60歳を超えた老人だったが、貫禄は衰えていないように感じられていた。元聖騎士であるリュグが前に出て、挨拶をしていた。リントはまだ礼儀の動作は上手く出来ていないので、リュグが話すことにしていた。


「よいよい。聖アリューゼ皇国、ルーディア帝国から通信があった。どちらも魔王による襲撃があったと」

「えっ、聖アリューゼ皇国も!?」

「知らなかったのか? もしかして、今回はこの件で来たのではないのか?」

「それにも関する事があるかもしれません。今回はリディア王国で巨大な塔が現れました」

「リディア王国? まさか、そこも魔王による襲撃で?」

「おそらくは。近付くのは危険だと判断したので、詳細はわかりません」

「ふむ、お主らも魔王の仕業だと思うか?」

「その可能性は高いと考えています」


 いくつかの街や国を襲うことが出来る戦力を持つのは、魔王しか考えられない。勇者も殺されたことにより、その可能性が高まった。


「塔が現れたことは、そこが拠点としていると考えているか?」

「わかりませんが、目立つ物を作り出して中身は空っぽということはないでしょう。魔王がいなくても、何か痕跡を残しているかもしれません」

「そうか。なら、こちらも兵士と勇者を出そう。聖アリューゼ皇国とルーディア帝国も大量の兵士を出せないが、勇者を送ると言っていた」

「俺達も加わりたいのだが、いいか?」


 今まで黙っていたリントが提案していた。


「リント!? まだ召喚されたばかりで力もまだまだ魔王には届かないから、反対だぞ!」

「いや、俺が魔王の前に立とうとは言っていないってば。皆の助けになりたいじゃないか」

「それはそうだが……」


 魔王と戦うのはベテランの勇者に任せればいいし、もしかしたら邪魔をする魔物や魔人がいるかもしれないから、勇者の人数は多い方が良いに決まっている。しかし、まだ召喚されたばかりのリントを戦場に向かわせてもいいか迷うのだった。そしたら、別の声が聞こえてきた。




『……そこの男、面白いスキルを持っているな?』

「えぇと、誰ですか?」


 周りを見回すが、それっぽい人は見えなかった。


『何処を見ておる? 上だ』

「上? ――――うおっ!?」

『驚くことはない。お主を食べようとは思っておらぬ』


 上を見ると、空が見えておりガラス越しには一体の竜が飛んでいるのが見えていた。その竜は身体が黒くて、光が反射するほどの美しさも備えていた。




『ワシはガロだ。お主、ワシに乗らんか?』




 千年前の戦争で暴れた黒い竜、そのガロがリントに誘いを掛けていた――――








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