第64話 エピローグ
「えー。それでは今日はプチトマトの作付けを行います」
來楓は校庭に集まった園芸部の部員の前で、今日の園芸部の部活動で行う作業の説明をした。
來楓が一通り作業手順を説明すると、園芸部の部員たちは楽しくお喋りをしながら校庭の土を掘り起こし、肥料を漉き込み、プチトマトの種を植えて水をかけた。
先日の大地震の後、來楓を取り巻く状況は色々と変化した。
まず旧校舎だが、取り壊しが中止された。
老朽化が心配されていた旧校舎だったが、先の大地震で倒壊することなく、むしろ昔ながらの地震に抗わない建築構造が注目され、旧校舎の歴史的価値と相まって保存が決定された。
今では一階の教室が幼稚園、二階の教室がデイサービスセンター、そして三階の教室は会議室利用などコミュニティースペースに生まれ変わり、屋上にはカフェテラスまで併設された。
そして旧校舎の保存が決定したことで校庭の使い道も検討されることとなり、すかさず來楓は校庭を畑にすることを学校側に直談判して提案した結果、正式に校庭の利用方法が決まるまで園芸部が使用することが許可された。
そして園芸部の廃部は取り消しとなり、存続が決定した。
園芸部が存続し、学校の校庭を畑にすると告知されると興味を覚えた生徒が何人も園芸部に入部してくれた。
こうして來楓は、これまでと違った賑わいを見せる旧校舎を嬉しそうに見渡した。
「またこうして学校が賑わって良かったですね、久造さん」
來楓は旧校舎に語り掛けた。
そう語り掛けると、來楓は時折、視界の端に、ぷかぷかと煙管の煙がふかされるのが見えた。
さらには新校舎の陰から白いフワッフワの猫のような生き物が顔を出したようにも見えたが、それらは振り向くといつも見えなくなってしまっていた。
その事を少し寂しく思いながらも、來楓は二人の存在を確かに感じ、それだけで十分幸せだと自分に言い聞かせた。
「部長、この植物はなんですか?」
一年生の部員が見慣れない植物を指さして來楓に尋ねた。
「いっぱいありまね。ジャガイモですか? それともサツマイモかな?」
「ああ、これはね。そうね。ジャガイモでもあるし、サツマイモでもあるし、それにもう一つ、辛いイモでもあるかもしれないわよ。どんな作物が採れるか楽しみにしててね」
そう言って來楓は意味あり気な笑みを部員に見せた。
その後、來楓はプールにやってきた。
旧校舎のプールは新校舎に最新のプール施設が建設されたことで使用されなくなっていた。
そこで來楓は旧校舎のプールを鯉を飼育する庭園池にすることを提案した。
その結果、プールの管理と鯉の飼育を園芸部が責任をもって行うということを条件に使用が認められていたのだ。
來楓がプールサイドに立つと、エサを貰えることを覚えた鯉たちが次々と集まってきた。
そんな鯉たちに來楓はエサ袋からエサを撒いて与えた。
來楓は鯉に名前をつけていた。
「ゴゼ、ブゾ、リン、ケルピー、それにハーピーとエルフ。よしよしみんなちゃんといるね」
來楓は鯉たちが全員揃っていることを確認した。
「皆に会いたいな……」
來楓はポツリと呟いた。
「あれって絶対に夢じゃなかったよね……」
たまに來楓はあの出来事がやっぱり夢だったんじゃないかと心配になることがあった。
來楓が物思いにふけってエサやりの手が止まると、鯉たちが水面を叩いてエサを催促した。
ハッとした來楓は慌ててエサをあげようと袋に手を入れたが、そのはずみでついエサ袋をプールに落としてしまった。
「あッ! しまったッ! エサ袋がッ!」
來楓は慌ててエサ袋を拾おうとしたが、時すでに遅しで、エサ袋はプールに沈んでしまった。
焦った來楓は網など、エサ袋をすくいあげるものを探したが、そうしていると───。
俄かに水面に泡がわきはじめた。
そしてその泡は次第に勢いを増し、ついには女神が水面に姿をあらわした。
來楓は口をあんぐりと開けて固まってしまった。
「今、あなたが落としたエサ袋は、この金のエサ袋ですか? それともこちらの銀のエサ袋ですか?」
來楓は腰を抜かしそうになったが、かろうじて「い、いえ。どちらでもありません。もっと普通のエサ袋です」と答えた。
すると女神はにっこり微笑んだ。
「あなたはとても正直者ですね。その清らかな心に対し、この金のエサ袋と銀のエサ袋を与えましょう」
「「「───なんて、そんなことをしている場合じゃないんだゼ・ゾ・ワヨッ!」」」
女神の背後から三匹のゴブリンが姿をあらわした。
「なんだというのだ。邪魔をするな。せっかく良い場面だったのに」
女神は口を尖らせて、自分を押しのけようとするゴブリンたちを睨んだ。
「おい、來楓、大変なんだゼッ!」「そうだゾ、大変なんだゾッ!」
「え? え? ゴゼ? それにブゾ?」
來楓は狼狽した。
「來楓、すぐに異世界に戻ってきてワヨッ! お願いワヨッ!」
リンは來楓の手を引いた。
「な、なに? 一体、何があったの?」
「スロー弁当屋店が大ピンチなんだゼッ!」「そうだゾ、來楓の義姉、それに姪っ子たちが大変なんだゾ」「そのせいで学校も……ワヨ」
「「「だからお願いだゼ・ゾ・ワヨッ! 來楓、異世界に戻ってきてくれだゼ・ゾ・ワヨッ!」」」
來楓は目を丸くした。
「では我の背に乗るがいい。異世界まで一飛びで連れていこう」
そう言うと女神は精霊水馬の姿に変化した。
來楓はしばらく呆然としていたが、その表情に、みるみる生気が宿り始めた。
「うんッ! わかったッ! 行くよッ! 異世界に───学校に───仲間のもとにッ!」
お世話になっております。柳アトムです。
( ᵕᴗᵕ )
以上で「学校ごと異世界転移したので校庭を耕してスローライフを送ります」は完結です。
ここまで私の小説を読んでいただきまして本当にありがとうございました。
( ᵕᴗᵕ )
諸兄姉の異世界転移・スローライフ物語を拝読して私も書いてみたいと思い立ち、筆を走らせてみましたがいかがだったでしょうか?
もし宜しければご意見ご感想などいただけますと幸いです。
おかげさまで本作も、最新話を投稿をするとページビューがビューッと伸び(←
「ああ。読んで下さってる方がいる~(幸」と大いなる励みをいただいておりました。
皆さま、本当にありがとうございました。
さてさて、本作はラストで來楓が異世界に戻りましたので、続きを書くことができる扉は開けておきました(ニヤリ
まだ、ぼんやり「こういったお話で~」という構想段階ですが、続きをモリモリ書き進めることはできそうです(ふっふっふっ
いつになるかは全くの未定ですが、もし公開した暁には、またお付き合いいただけますと幸いです。
最後に、今一度、この度は私の小説を最後まで読んでいただきまして本当にありがとうございました。
重ねて深く、深~くお礼申し上げます。
本当に本当にありがとうございました。
( ᵕᴗᵕ )




