第60話 散らされた乙女の尊厳
「本当にすまないんだゼ、リン」「そうだゾ、リン。本当に申し訳ないんだゾ」
ゴゼとブゾはうずくまって泣きじゃくるリンの背中をさすり、懸命に声をかけ続けた。
「もうお終いワヨッ。こんなに恥ずかしいことはないワヨッ。ウコピをした場所を見られるなんて、乙女としてありえないワヨッ。もうお嫁にいけないワヨッ」
絶望したリンはさらにワンワンと声をあげて泣きじゃくった。
「それなら心配するなだゼ、リン」「そうだゾ、安心するんだゾ、リン」
「「オイラたちがリンをお嫁さんにもらってやるからだゼ・ゾ」」
ゴゼとブゾはドヤ顔でリンに白い歯を見せてキラリと光らせたが、それを見たリンはさらに顔を涙で歪め、より大きな声で泣き始めた。
「あんたたちがアタイのお婿さんだなんて、もっともっと最悪ワヨーッ!!」
その言葉はゴゼとブゾにとって衝撃だった。
「ええッ、だゼ。うそだろだゼ、リン」「そうだゾ、リン。絶対ちがうだろ、だゾ」
「「オイラたちは相思相愛じゃなかったのかよだゼ・ゾ」」
「うぬぼれるんじゃないワヨッ! そんなわけないワヨッ! 乙女の心を射止めるのは容易じゃないのワヨッ! 何がお嫁さんにもらってやるからワヨッ! あんたたちはもっともっと努力しなさいッワヨ!」
リンは感情を爆発させたが、数年後───。ゴゼとブゾはゴブリンの中では超イケメンの立派な好青年に成長し、同じく部族一の美人乙女に成長したリンと三人で、一妻多夫のゴブリンの家族構成にあって、他人が羨むような幸せな家庭を築き、多くの子供たちに恵まれることとなる。
───それはさておき、そんな三人のもとに來楓が戻ってきた。
「やっと戻ったゼ」「どうだったんだゾ?」
ゴゼとブゾは心配そうに來楓に駆け寄った。
來楓は後ろに回した手を前に出した。
そこには大きくて立派なカボチャが携えられていた。
* * *
「本当に玉のように可愛いカボチャじゃのう」
「ニュゥニュゥ~」
久造とニュウは立派なカボチャを見て喜んだ。
その日の晩はプチトマトとカボチャの収穫を祝い、またもや宴が催された。
プチトマトとカボチャ料理が勢ぞろいしたが、リンはカボチャ料理に関しては決して口をつけなかった。
「これで元の世界の作物四品が揃ったのう」
「ニュゥニュゥ~」
「はい。明日はトウモロコシの作付けを行います。トウモロコシが収穫できればお弁当を完成させられます」
來楓は明日が待ち切れないといった様子だった。
「來楓ちゃん、本当におめでとうじゃぞ」
「ニュゥニュゥ~」
久造は來楓の手をとるとしっかりと握り締めた。
「ありがとうございます、久造さん。それにニュウもね」
來楓はお礼を述べつつ、久造がいつになく改まっている様子に違和感を覚えた。
「……あの、久造さん。それにニュウも……。何かあったんですか?」
來楓は二人の様子を見て急に不安になった。
久造とニュウは顔を見合わせて頷き合うと來楓に向き直った。
「すまんが來楓ちゃん。そろそろワシらはお別れのようじゃ」
「ニュゥ……」
ついにその時がやってきました。
次話で久造とニュウの正体が明らかになります。




