第59話 尊厳を守る戦い
ここは異世界の草原。
わずかに人が行き交い、けもの道のような通り道がうっすら残っている場所。
その路傍で───。
「おねがい、リン。そこを通して。私をこの先にいかせてちょうだい」
來楓は顔の前で両手を合わせ、拝むようにリンに懇願したが、リンは両手を大きく広げて來楓をとうせんぼうした。
「だめワヨ。この先には絶対に行かせないワヨ」
「カボチャがそこに生えてるかどうか見るだけだから。それ以外は何も見ないから。お願い。リン。そこを通して」
來楓とリンは押し問答をしていた。
「いいじゃないかだゼ、リン」「そうだゾ、リン。ちょっとだけみせてやれだゾ」
ゴゼとブゾがそう言うとリンは烈火の如く怒り散らした。
「だめに決まってるワヨッ! 誰が自分のウコピを見られたいと思うのワヨッ! あんたたちだって自分のウコピを他人に見られたくないでしょワヨッ!」
ゴゼとブゾは困った様子で後ろ頭を掻いた。
「それはまあ、そうだゼ。でもな~……だゼ」「そうだゾ。それにあれからだいぶ時間がたってるし、もうウコピはなくなってるんじゃないかだゾ」
「そういうことじゃないのワヨッ! 自分がウコピした場所を知られたくないのワヨッ! あなたたち絶対こう思うでしょワヨッ! 「へぇ~だゼ・ゾ。リンってここでウコピしたんだ~ゼ・ゾ」 キャァァァァアァァァァッワヨッ! ありえないワヨッ!」
リンはパニック気味にわめき散らした。
「じゃ、じゃあ、リンがこの先を見に行って、カボチャが生えてるかどうかを確認してくるのはどう?」
來楓は何とかリンに了承してもらおうと必死に代案を紡ぎ出した。
「もしそれでカボチャがあったらどうするのワヨ?」
「一つでいいから採ってきて欲しい」
「それもダメにきまってるじゃないのワヨッ! そんな……そんな私の中から出てきたカボチャを採って渡すわけないワヨッ!」
またもやリンは烈火の如く怒り散らした。
「別にそのカボチャがリンの中から出てきたんじゃないんだゼ」「そうだゾ。そのカボチャはきっと種から生えたものなんだゾ」
冷静にゴゼとブゾは分析したがリンには通じなかった。
「そういうことじゃないワヨッ! わからないのワヨッ!? この繊細な乙女の恥じらいがワヨッ!」
その恥じらいは來楓もわかならいでもなかった。
その為、リンを無理やりにでも押し退けることができずにいた。
「だいたいなんであんたたちはそっちの味方をしてるわけワヨッ!? こっちにきなさいワヨッ! 一緒に阻止するのを手伝いなさいワヨッ! アタイのことが好きなんでしょワヨッ!? だったら協力しなさいワヨッ!」
そう言われてしぶしぶといった様子でゴゼとブゾはリンの左右に並んだ。
「すまないんだゼ。リンの言う事には逆らえないんだゼ」「そうだゾ。リンの言う事には逆らえないんだゾ」
「「オイラたちにとってリンはマドンナ───ヲタサーの姫なんだゼ・ゾ」」
ゴゼとブゾがリンに協力する様子を來楓は仕方がないと思った。
そしてこのままでは埒があかないので、夜になってリンが寝静まったらこっそりやってこようと來楓は考え始めたがその時───。
「「───でもな、だゼ・ゾ」」
突如、ゴゼとブゾが左右からリンの腕を掴むと自分たちの姫を拘束した。
「「今は緊急事態なんだゼ・ゾ。背に腹は変えられないんだゼ・ゾ」」
まさかの出来事にリンは目を見開いた。
これまで自分の言う事を何でも聞いていた二人が、突如、自分に反旗を翻したのだ。
「な、何をするのワヨッ! 放しなさいワヨッ! アンタたち、こんなことしてタダで済むと思っているのワヨッ!?」
リンは激しく身をよじって抵抗した。
「すまないんだゼ、リン」「そうだゾ、リン。本当に申し訳ないんだゾ」
「「ここは來楓のために我慢してくれだゼ・ゾ」」
そういってゴゼとブゾはリンに謝罪すると、來楓に「今のうちにいくんだゼ・ゾ」と顎で合図をした。
「あ、あなたたち……。ありがとう。必ず……必ずリンがウコピをした場所を見て来るねッ!」
來楓はちょっと言い方が違ったかな? 必ずカボチャがあるかどうか確認してくるからねッ!の方が適切だったかな?と思いつつ、大暴れするリンを横目に先へ進んだ。
背の高い草原の草を懸命に掻き分けると、ちょうどしゃがんでお花を摘むのにぴったりな場所に行きついた。
周囲を背の高い草で囲まれていたが、一部分だけ背の低い草が集まっている場所があったのだ。
まさにうってつけの場所だった。
來楓はここに違いないと瞬時に悟った。
そして───。




