第56話 ボン太郎お姉さん
「俺を「ボン太郎」なんて命名するから一人称が「俺」になってしまったじゃないか」
ボン太郎は心底やれやれといったふうに溜息をついた。
「す、すみません、ボン太郎。
あ、いえ、ボン太郎さん……?
あ、いや、ボン花子さん……?」
來楓はすっかり大人のお姉さんになったボン太郎にドギマギし、まずボン太郎をなんと呼んだらよいものかと戸惑った。
「ややこしいから今まで通り「ボン太郎」でいい。但しッ! 俺は來楓より年上だからな。俺は樹齢三十八年の由緒ある盆栽なのだ。だから「ボン太郎お姉さん」と呼べ。まかり間違っても「ボン太郎おばさん」などとは呼ぶなよ……?」
そういってボン太郎お姉さんはギロリと來楓をにらみつけた。
來楓はボン太郎のことを必ず「お姉さん」と呼ぼうと心に誓った。
「それで、俺に聞きたいこととはなんだ?」
「そ、その件ですが、私が元の世界に帰る方法が『帰りたい世界の作物四品でお弁当を作り、帰りたい世界の植物に捧げよ』なんです。
もし元の世界の作物四品でお弁当を作ってボン太郎お姉さんにお渡ししたら、私を元の世界に帰してくれますか?」
ボン太郎お姉さんは「なるほど……」と腕を組んで唸るとしばらく悩んでいたが、やがて何かを閃いたようでパッと顔を輝かせると勢いよく膝を打った。
「そのお弁当は実にうまそうだな! ぜひ俺に食べさせてくれ!」
來楓は元の世界に帰してくれる方法を閃いてくれたのかと思って期待したので肩透かしを喰らった。
「そ、それはかまいませんが、元の世界に帰してもらえるんでしょうか?」
「それはわからん」
ボン太郎お姉さんは気っ風の良い調子で短く答えた。
「だが、帰る方法の言葉の意味をその通りに受け取るなら、物は試しだ。俺がそのお弁当を食べてみようじゃないか。早くそのお弁当を用意してくれ」
そう言うとボン太郎お姉さんは口元のよだれをぬぐった。
來楓は食い意地の張ったボン太郎お姉さんが、単にお弁当を食べたいだけではないかと心配になったが、とにかくお弁当を完成させないと話しにならないので、なんとかお弁当を完成させようと思った。




