第55話 ボン太郎のさらなる秘密
來楓は数日をスロー弁当屋で過ごした。
兄が異世界に転生し、どうやって妻と出逢い、結婚して子供を授かったのかなどの話しを聞いたり、お弁当屋の手伝いをしたりして兄嫁、そして姪っ子たちとの親睦を深めた。
「お義姉さん、それにガン、イン、ボール。ありがとう。もし元の世界に帰れなかったらまた来るから宜しくね」
來楓はちょっとした自虐ユーモアを交え、別れの言葉とした。
結局、元の世界に帰る為の方法として、新たな情報は得られなかったが、來楓は王都に行って、兄本人、そして兄が異世界で何を成し、どういった人生を歩んだかを知れて大満足だった。
「しかし、あと二品。これはどうしたものかのう」
「ニュッニュゥ~」
久造とニュウは尚も頭を悩ませた。
來楓もその点は気がかりだったが、以前ほど元の世界にどうしても帰りたいという気持ちが今はなく、もしもこのまま元の世界に帰れないままだったとしても受け入れられそうだと自分の変化を感じていた。
そしてその思いはようやく学校に帰ってきてますます強くなった。
「学校に戻ってくると「帰ってきた」という安心感があります。今はここが私の家なんだと実感しました」
「早かったんだゼ」「もう帰ってきたのかだゾ」「元の世界に帰る方法はわかったのワヨ?」
來楓たちが学校に戻るとゴブリンたちをはじめ、精霊水馬、ハーピー、そして学校に残ったエルフたちが出迎えてくれた。
「元の世界に帰る為の詳しい方法はわからなかったけど、ヒントは得られたわ」
來楓がそう報告すると、仲間たちは我が事のように喜んでくれた。
「それでボン太郎に会いたいんだけど、どこにいるかな?」
來楓が尋ねると「「「いつもの通り、保健室にいるゼ・ゾ・ワヨ」」」とのことだった。
來楓は早速、保健室に向かおうとしたが、ゴブリンたちが引き留めた。
「行く前に言っておくゼ」「來楓が留守の間にボン太郎は大きくなったゾ」「見たらびっくりするかもだから注意してねワヨ」
來楓はそう言われたが、あまり重大なことだとは考えなかった。
來楓たちが学校を出発する前、ボン太郎は食欲旺盛だった。その状態から学校を留守にしていた半月あまり。少しは大きくなるだろうということは容易に想像できたからだった。
その為、來楓は忠告をあまり気にせず、保健室の扉を開けて中に入った。
「ただいま、ボン太郎。あのね、ボン太郎。元の世界に帰る方法を聞いて来たんだけど、そのことであなたに聞きたいことがあるの───」
そこまで喋って來楓は息を呑んだ。
保健室にボン太郎がいると思った來楓は、ボン太郎ではないスラリとした長身の大人がいることに驚いたのだ。
「……え? あ、あの……どちらさまですか?」
來楓は驚いて一歩後ずさったが、相手の腰まで伸びたサラサラのロングヘアが鮮やかな若草色であること、そして相手の瞳が澄んだエメラルドグリーンであることからこの相手がボン太郎であることを瞬時に悟った。
「お、大きくなったってゴゼ、ブゾ、リンが言っていたけど、お、大きくなり過ぎじゃない……?」
來楓は驚いた。
ボン太郎は自分よりはるかに背が大きくなり、すっかり大人になっていた。
そして何より來楓が驚いたのは、ボン太郎が「太郎」ではなかったことだった。
ボン太郎は「花子」だった。
ボン太郎のさらなる秘密でした(笑
「第46話 戦いの終焉②」でゴゼ、ブゾ、リンが精霊水馬が牡馬ではなく、牝馬であることを來楓に教えましたが、もう一点、きっと來楓が勘違いしているだろうから忠告しようとしていたシーンがあったのですが、それはボン太郎が太郎じゃなくて花子だぞということだったんです(笑
いやー、やはり來楓は勘違いをしていましたね♪
次話でお姉さんになったボン太郎と來楓の会話をお楽しみくださいませ(笑




