第53話 異世界転生者との別れ
來楓はボン太郎が思い当たり、『帰りたい世界の作物四品でお弁当を作り、帰りたい世界の植物に捧げよ』という方法の内、『帰りたい世界の植物に捧げよ』という部分で、これはもしやボン太郎に捧げるということなのかと思い当たった。
何故ならボン太郎は今、人の姿をしていて『帰りたい世界の作物四品でお弁当』を食べることが可能だったからだ。
「捧げよ」とは「食べさせろ」ということなのではないかと思い至ったのだ。
「確かにそういったことが可能かもしれんのう」
「ニュッニュゥ~」
久造もニュウもそういうことかもしれないと思ってくれた。
來楓は是非ともボン太郎にそうしてみたいと思ったが、しかしそれにはあと二品の食物が必要だった。
しかし肝心要のその食物がなかった。
「あと二品の食物をどうやって手に入れたらいいんでしょう……」
來楓は途方に暮れた。
久造とニュウも腕を組んで唸ったが、皆目見当もつかなかった。
ここに至って來楓はニングが品種改良にその活路を見出したことを理解した。
確かにこの状況になると、そうした方法を取りたくなる気持ちが痛いほど理解できた。
しかしその方法はニングが二百年かけて成功しなかった道で、來楓は自分が同じ道に走っても、成功することは不可能だろうと痛感した。
「大丈夫。絶対成功するよ。僕は來楓を信じている。だから來楓、早く元の世界に帰ってきておくれ」
來楓はその時、楓斗が薄っすら光に包まれ始めたことに気付いた。
いよいよその時が来たようだった。
「お兄ちゃんッ!」
來楓は楓斗に駆け寄った。
モーション、それにガン、イン、ボールも楓斗に駆け寄ると、自分の夫───そして自分の父親の最後に寄り添った。
「來楓、安心しておくれ。僕は死ぬんじゃないよ。異世界での役割を終えて元の世界に帰るんだ。たぶん目が覚めたら元の須藤 楓斗に戻って病院のベッドの上だろうね。
でもモーション、ガン、イン、ボール。君たちとは別れだね。今までありがとう。異世界で妻に出会え、三人の娘に恵まれて僕は幸せだったよ。現実世界に疲れた人が、異世界に恋焦がれ、癒される気持ちが本当に良くわかった。異世界さいこう。異世界ばんざいだよ」
その言葉を最後に楓斗はついに景色に溶け込むように姿を失った。
楓斗が居た場所にはフード付きのローブのみが残された。
楓斗の妻、そして三人の娘、そして楓斗の妹はそのフードにすがり、枯れるまで涙を流し続けた。




