第46話 戦いの終焉②
「ワテに元の世界に帰る方法を教えてくれた人は王都におります。王都の市場でお弁当屋を営んでいる店主ですわ。大人気のお弁当屋ですから、王都の市場に行ったらすぐにわかります。そんで店主に自分は異世界から来た者ですと言えば合わせてもらえます」
ニングにそう教えられた來楓は、ニングとの戦いで傷んだ学校を修繕した後、早速王都に向かうことにした。
「ゴゼ、ブゾ、リン。それじゃあ学校をお願いね」
「「「まかせるんだゼ・ゾ・ワヨ。しっかり守って畑も手入れしておくんだゼ・ゾ・ワヨ」」」
來楓は安心して留守を託した。
「この度の件は、我らエルフが本当に迷惑をかけた。心より謝罪申し上げる」
エルフ隊の隊長───もといブリュンヒルデを先頭にエルフたちが來楓のもとにやって来ると、深々と頭を下げて謝意をあらわした。
「隊長が悪いんじゃありません。どうかエルフの皆さんも頭をあげてください」
來楓は恐縮して慌ててそう言ったが、それでもエルフたちはなかなか頭をあげなかった。
「いや。ニングを里長に選任し、そして命令に従った責任が我らにもある。この罪は必ず償わせてもらう」
「罪といえば……ニング先生はどうなってしまうんでしょうか?」
來楓は縄で縛られ、檻に閉じ込められたニングを心配した。
ニングはこの状態で、今からエルフの里に連行されるとのことだった。
「まさか里に戻ったら処刑されたりなんて……」
來楓は最悪の事態を想像して顔を青くした。
「安心しろ。我々エルフに身体的苦痛や命を奪うような処罰の方法はない」
それを聞いて來楓はホッと胸を撫で下ろした。
「我々エルフは罪を犯した場合、その罪を必ず償わせる。長い年月を生きる我らエルフだからこその償いだ。ニングは多くの罪を犯した。おそらくエルフとしての長い一生を償いを行うだけに費やすことになるだろう。それは死ぬことより辛いことかもしれない。だが必ず償わせる。それがエルフの掟だ」
長い年月を生きるエルフの一生を償いに費やすことに途方もなさを來楓は感じたが、少なくともニングが命を奪われることがないとわかって安堵した。
「ニングは私が責任を持ってエルフの里に連れ帰る。そして里長の任を解く。私は実はエルフの里の副里長でもあってな。里長の解任の動議を出せるのは副里長の権利なのだ。今度こそその権利を行使する」
來楓はその言葉を聞いて安心した。
これでエルフたちが森を愛し、周囲の種族と協調し、清らかで心優しい種族に戻ってくれることを願った。
「あ、あと、最後に───ッ!」
來楓はニングを連れて出立しようとするブリュンヒルデを呼び止めた。
「た、隊長って、その~……女性の方だったんですね。すみません。私はてっきり男性かと思っていて……。あの、失礼なことをしてしまっていたらすみませんでした」
そう言われたブリュンヒルデは表情を変えることなく小首をかしげた。
言われている言葉の意味がわからなくて「?」という感じだったが、一呼吸置いて意味を理解すると、みるみる顔に陰が落ち、そしてついにはまるで墨を流したように顔が漆黒の闇に溶け込んでいった。
「「「何が失礼って、今の言葉が一番失礼なんだゼ・ゾ・ワヨ」」」
ゴブリンたちが心底あきれ果てて大きな溜息をついた。
「よ、よいのだ……。確かに私はニングが言うように、命じられるまま、厳しいエルフ隊の鍛錬に勤しんでした。隊長に任じられてからは職責を全うすることに邁進し、それ以外に気を配る余裕などなかったからな……」
ブリュンヒルデが來楓を気遣ってフォローすると、檻の中でニングが可笑しくて仕方ないといった様子で腹を抱えて大爆笑をした。
その様子を見たブリュンヒルデからメラメラと怒気のオーラが燃え上がり始めた。
髪の毛が生き物のようにザワザワと蠢き始め、闇に溶け込んでぽっかり空いた洞穴のような暗がりからは、二つの真っ赤な眼光が怒りの炎を灯し、ニングを睨みつけた。
「だ、だれのせいでこのようなことになったのか、わかっているんだろうな……?」
食いしばった歯の隙間から押し出されるような怒りの言葉にニングは一瞬で凍り付き、手を口に当てて笑いを呑み込んだ。
「隊長、本当に気にする必要はないんだゼ」「そうだゾ。來楓はリンが女の子だということも見抜けなかったんだゾ。來楓の目は本当に節穴なんだゾ」「そうワヨ。本当に失礼しちゃうワヨ」
ゴブリンたちは懸命に隊長をフォローした。
「あとついでだからもうひとつ來楓に言っておくゼ」「この調子じゃたぶん勘違いしてるだろうからだゾ」「そうねワヨ。絶対に勘違いしているに違いないワヨ」
「え? な、なに? まだ何かあるの?」
「ああ、あるゼ」「來楓は精霊水馬を牡馬だと思ってるゾ」「それは違うワヨ」
「「「精霊水馬は牝馬だゼ・ゾ・ワヨ」」」
その指摘は來楓にとって衝撃的だった。
でも確かに精霊水馬は泉の女神でもあるのだ。
牡馬ではなく牝馬であっても不思議ではない。いやむしろ牝馬でこそあるべきかもしれない。
來楓は本気で自分の目が節穴であるかもしれないと落ち込んだ。
その落ち込みようを見て、ゴゼ・ブゾ・リンはもう一点、來楓が勘違いしてそうなので指摘しようと思っていたが、今はやめておこうと思った。
來楓はもう一点「同じような勘違い」をしてるんです。
その勘違いがなんであるか?
お楽しみにしていただけますと幸いです。
ご期待にそえるよう頑張ります。
( ᵕᴗᵕ )




