第33話 守るべきもの
「おー、來楓ちゃん。お帰り。早かったのう~」
「ニュッニュゥ~!」
学校に戻った來楓を久造とニュウが出迎えてくれた。
「久造さん! ニュウ! ただいまッ!
わあ、すごい。畑の収穫はもう終わったんですね」
來楓は校庭の畑が綺麗な更地状態になっている様子に驚いた。
「うむ。全員で力を合わせて収穫したからのう。半日ほどで終わって畑には肥料を撒き、土を耕して次の作付けの準備もできておるんじゃぞ」
「ニュッニュゥ~!」
そう言って久造とニュウは胸を張った。
そうしたやり取りと学校の様子にエルフ隊の隊長は目を細めた。
「素晴らしく豊かで美しい場所だ。この場にいる全員が一丸となって力を合わせ、お互いの幸福の為に働いている。かつての我々の里もそうだった。とても懐かしく思う」
学校の様子を羨ましく思う隊長を見て、來楓は今のエルフの里には自分たちでは気が付かない、何か大きな問題があるということを察した。
そしてその問題に隊長をはじめ、付き従ったエルフたち全員が心労を重ねていることを改めて感じた。
來楓はそんな彼らに早くその疲労を癒す為、学校で落ち着いてくつろいでもらおうと部屋を案内した。
「エルフの皆さんは三階の教室を使ってください。どの教室でも自分の家のように自由に使っていただいて結構ですよ」
來楓にそう促されてエルフたちは感謝しつつ三階の教室に向かった。
「どうしたんじゃ、來楓ちゃん。なぜエルフたちが学校に来たのじゃ? それに今のエルフたちは、まるで故郷を失ったかのように寂しげな様子じゃったぞ」
「すみません、久造さん。学校を必要として頼る人を拒むことができなかったんです。
エルフの皆さんが里を出た理由は私も聞いていません。でも私たちの想像以上に辛く、いかんともしがたい事情があるみたいなんです。どうか今は、その理由を詮索せず、皆さんを学校に滞在させていただけませんか?」
來楓は久造にそう頭を下げた。
「いやいや、いいんじゃ來楓ちゃん。ワシはむしろ学校が賑やかになって嬉しく思っておるくらいじゃ。來楓ちゃんがそう判断したならワシは反対したりせんから安心しておくれ。
ワシも理由は詮索せんし、エルフたちも我々の仲間としてここで過ごしてもらおう」
そう言われて來楓は久造に感謝した。
「來楓殿。この場所は本当に素晴らしい。だからこそ油断せず、どうか備えをして欲しい」
隊長はそう忠告してきた。
「備えですか?」
「そうだ。備えだ。異世界には野獣もいれば盗賊団もいる。いつかそうした邪な輩と遭遇することもあるだとう」
「それなら安心してよいぞ。ワシの結界はそんじょそこらの野獣や盗賊に破られたりはせんからのう」
そう言って久造は胸を張った。
「───ん? 久造さん、結界ってなんですか?」
「あ、あわわわわわわ! そ、そうじゃった! け、結界というのは~……こ、この柵のことじゃよ! ワシが丹精込めて作った柵じゃから頑丈で安心ということが言いたかったんじゃ!」
久造がそうやって慌てて言い繕うと、幸い來楓は「ああ、なるほど。そういうことでしたか」と納得した。
エルフ隊の隊長は胸に手を当てて頭を垂れると「確かに貴方様の守りはとても固く、お言葉の通り野獣や盗賊ごときが敵うはずもございません」と恭しく言葉を述べた。
來楓はなぜかエルフ隊の隊長はもちろん、エルフ全員が久造、それにニュウにも敬意を持って接する姿を不思議に思っていた。
初めてニングのいるエルフの里を訪れた際も、地下牢に閉じ込められはしたが、そこに連行される際もエルフの態度は親切で、決して危害を加えられたりしなかった。
そしてそれは久造が自分たちの前に立ち、エルフたちから庇ってくれたからだった。
「しかし、貴方様の守りをもってしても全てが防げるわけではありません。どうか私の言葉をお聞き入れくださいますようお願い致します。
幸い、こちらにはトウガラマイモが潤沢のようです。このイモは外敵に対して有効です。どうかいつでも使えるように準備をなさってください」
「トウガラマイモってジャガマイモから一つだけ採れる赤いイモのことですよね?」
來楓がそう尋ねると隊長はしっかりと頷いた。
「そうだ。特に我々エルフはその赤いイモが苦手だ。我々は辛さに弱いのだ」
「……それはエルフの皆さんが攻めてきたらトウガラマイモで対抗しろということですか? エルフの皆さんが攻めてくる可能性があるということですか……?」
來楓はエルフたちが以前、ゴブリンの住処を襲い、ゴブリンたちを追い出したことを思い出していた。
隊長は來楓がそのことを思い出し、危惧していることを見抜いていたが、質問には明確に答えなかった。
「トウガラマイモの辛さはエルフだけではなく野獣に対しても有効だ。だから準備をしておいて欲しいということだ……」
奥歯にモノが挟まったような言い方だと來楓は思った。
そして隊長が明確な返答を避けたことで、かえって來楓は自分の危惧が、思い過ごしや杞憂ではないのだと不安を募らせた。
來楓はもっと隊長に色々聞きたかったが、隊長はそうした來楓を避けるように一礼すると、仲間を追って三階の教室へと向かっていった。
「隊長は何かを心配しているようじゃのう……」
久造も隊長の様子に違和感を覚え、心配した。
「はい……。かつてエルフの皆さんはニング先生に命令されたとはいえゴブリンたちの住処を奪ったことがあります。まさかとは思いますが……」
來楓は険しい表情になった。
「私たちは備える必要があるのかもしれません……」
皆さま、お世話になっております。柳アトムです。
( ᵕᴗᵕ )
今回のお話で第二章は完結です。
次話よりいよいよ第三章に突入します~!
୧(˃◡˂)୨
ここまで私の小説を読んでいただきまして本当にありがとうございました。
( ᵕᴗᵕ )
引き続き、皆さまにお楽しみいただけるよう精進いたします。
( ᵕᴗᵕ )
ご期待にそえるよう頑張ります~!
୧(˃◡˂)୨




