第31話 不穏な空気
「ほえ~。たった一週間でこの収穫量ですか。ほんまにこれはすごいでんな~」
來楓の持ってきた作物の山を見てニングは本当に驚いた様子だった。
「先生、本当にありがとうございました。どの野菜もとても美味しくて私たちの食料事情がぐんと良くなりました」
來楓は満面の笑みでニングにお礼を述べた。
ニングはそんな晴れ晴れとした來楓を見て、ほっと胸を撫でおろした。
來楓が元の世界に帰ることを諦めきれず、郷愁感に駆られる日々を過ごしているのではないかと心配していたのだ。
「他にも種はぎょーさんありまっさかい、今度はこれとか試してみておくれやす」
そう言ってニングは前回とはまた違った作物の種を來楓に手渡した。
それらはいずれもニングが品種改良をして創った野菜とのことだった。
本来作りたかった野菜ではないので失敗作ではあるが、味は美味しく、栄養も満点とのことだった。
「ありがとうございます。それでは収穫できたらまた報告に来ますね」
來楓はそうお礼を言うと、翌日には学校に戻った。
ニングは里の入り口まで來楓を見送り、來楓の姿が見えなくなるまで手を振った。
そして來楓の姿が見えなくなると───……。
「さて、隊長。学校の様子はどないやった? 場所や建物の構造、戦力になりそうなゴブリンの数など、ちゃんと調べてきてくれはりましたやろな?」
そう問われた隊長は一つ溜息をついてから「調べてある。委細を把握している」としぶしぶといった様子で答えた。
「おおきに。ようやってくれたで」
ニングは目を細め、何か企みのある笑みを浮かべた。
「ニングよ、本当にやるのか?」
隊長はそんなニングを見て心配そうに問い質した。
「ええ、やりまっせ。そんなん決まってますやん」
「しかし相手はお前の教え子なのだろう? そんな子に対してこんなことをする必要があるのか?」
「そこは胸の痛いところでんな~。ワテも残念に思ってます。だから手荒なマネはしまへん。ちょっと脅かすだけでんがな」
「……ニング。正直に言って今回のことは私は気乗りがしない。
お前は私の幼馴染だ。お前のことは幼い時分から知っている。だが、前世の記憶とやらを取り戻してからのお前は、まさに別人だ。私は悲しい。幼少期を一緒に過ごしたニングに戻って欲しい」
ニングはそう言われると高笑いをした。
「ナニを言うてんねん、隊長。ワテはニングや。今も昔も、記憶が蘇る前も後もあんたさんの知ってるニングでんがな。心配せんでええ。責任はワテが全部とりますさかい」
「しかし───!」
尚も隊長は何かを言おうとしたがニングに強く肩を叩かれ、無言の制止を受けた。
「ええからはよ來楓さんと一緒にいきなはれ。あの子が酷い目に遭わないようにしたいなら、あんたさんがしっかり仕事をしたらええんや。そしたら誰も怪我することなく、目的が達成されるんやさかいな」
そう言うとニングはそれ以上は聞く耳を持たないといった様子で隊長を残して里に戻っていった。
残された隊長は固く拳を握り、その場に立ち尽くした。
そして自分に背を向けて去っていくニングの後ろ姿を見つめ続けた。
その表情は悲しみという苦悶に歪んでいた。
お世話になっております。柳アトムです。
( ᵕᴗᵕ )
今回のお話はどうでしたでしょうか?
(,,•﹏•,,)ドキドキ
不穏な空気を感じ取っていただけたのであれば幸甚と存じます。
そして間もなく第二章も完結です!
୧(˃◡˂)୨
ここまで読み進めていただきまして本当にありがとうございます。
貴重なお時間を割いていただきましたこと、心より感謝申し上げます。
( ᵕᴗᵕ )
この後も、引き続き、皆さまのご期待にそえるよう頑張ります!
(๑•̀ㅂ•́)و✧




