第29話 精霊水馬は学校のプールの夢を見るか?
次に來楓は学校のプールにやってきた。
「精霊水馬さーん。おられますかー?」
來楓がそう呼びかけるとプールの中央付近から俄かにブクブクと水泡が沸き上がり、ついで水泡を中心に水流の渦ができると、渦の中から精霊水馬があらわれた。
精霊水馬は優雅に水面を歩むと、來楓のもとにやってきた。
「どう? 学校のプールは気に入ってくれた?」
來楓がそう問うと精霊水馬は嬉しそうに首を上下にブンブンと振った。
「うむ。とても気に入ったぞ。広さといい、瑠璃紺碧とした美しい水といい、とても気に入った。何よりこの形が最高だ。このように真っ直ぐはっきりとしている泉はこれまで見たことがない。実に素晴らしいぞ」
尚も首を振って喜びをあらわす精霊水馬の姿に來楓も嬉しくなったが、内心で「これは泉じゃなくてプールなんだけどね」と若干の後ろめたさを感じていた。
「どうだ? 我が背に乗らんか? そしてこの素晴らしきプールという泉を駆けようではないか」
精霊水馬にそう誘われたが、來楓は「いえ、乗りません。結構です」ときっぱりとお断りをした。
「ところで精霊水馬に一つ相談があるんだけど、精霊水馬は水を扱うのに長けているわよね?」
そう問われると精霊水馬は「もちろんだ」と誇らしげに首肯した。
「校庭にたくさんの畑ができて肥料の散布も順調なんだけど、今度はこれだけの畑に水やりをするのが重労働で、何か良い方法がない?」
來楓がそう相談すると精霊水馬はすぐに妙案を思いついたようだった。
「畑に水を撒けばよいのだな? それならこうしてやろう」
そう言って精霊水馬は水流の豊かな滝のようなたてがみを振るうと、一筋の水の流れが見事な放物線を描いて畑に降り注いだ。
來楓はその光景に目を奪われた。
「うわー! すごい! さすが精霊水馬! こんなこともできるのね!」
精霊水馬の振り撒く水の放物線には虹のアーチもかかり、とても幻想的で綺麗だった。
「我を見直したようだな。まだまだこんなものじゃないぞ。どうだ我が背に乗らんか? 其方が背に乗ってくれればさらに───「いえ、乗りません。結構です」
またもや精霊水馬が背に乗ることを提案してきたが、來楓は被せ気味に申し出を断った。
精霊水馬は残念そうにしたが「ならばこういったこともできることを見せてやろう」と今度は後ろ足で水を激しく蹴り飛ばした。
飛ばされた水の塊は一直線に飛来し、上空を飛んでいたハーピーに直撃した。
「わー!だッピ! これはなんだッピー!?」
たまらずハーピーは地上に墜落したが、ハーピーは丸い水の玉に包まれて身動きがとれなくなっていた。
「す、すごい。精霊水馬はこんなこともできるのね」
「うむ。背に乗ってくれるのを待つばかりでは獲物にありつけないのでな。たまにこうして実力行使で獲物を泉に落とすのだ」
そういう精霊水馬の瞳はいつもの澄んだ水色から禍々しい凶兆をはらんだ真紅色に変化していた。
その姿は普段の優しそうな精霊水馬とは対照的で、來楓は少し怖さを感じた。
「ま、まさか私にも水玉を喰らわせたりはしないよね……?」
不安になった來楓は一歩退いた。
「安心するがよい。其方は我にこうして素晴らしい泉を与えてくれた。そんな大恩ある御仁に、そのようなことは決してしない」
そういわれて來楓はある程度は安心した。
───だが……。
「だから我が背に乗らんか? 其方が我の背に乗れば───「いえ、乗りません。結構です」
相変わらず來楓は精霊水馬の誘いは被せ気味にきっぱりとお断りを続けた。
精霊水馬が盛んに背に乗るよう來楓を誘いますが、來楓はこのまま精霊水馬の申し出を断り続けることができるでしょうか?(ニヤリ
乞うご期待いただけますと幸いです(ニヤニヤリ
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