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【アニメ化決定】ヒロイン?聖女?いいえ、オールワークスメイドです(誇)!  作者: あてきち
第一章

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第45話 無双メイドとうまうま魔王

 屋敷全体を覆いつくすほどの強大にして膨大、そして濃密な銀の魔力に、魔王は気圧されてしまう。すぐにでもこの場を逃げ出したかったが、小柄な犬の体は震えるばかりで言うことを聞いてくれない。メロディの視線に射抜かれた魔王は、心の中で絶叫することしかできなかった。

 だが、その圧倒的威圧感は数秒後にはシュンと消えた。


 理性を取り戻したメロディが、溢れ出した魔力の奔流を抑え込んだのである。屋敷全体を包み込んでいた魔力は、現在、メロディの体表面を覆う程度にまで収束されていた。


「……いつまでも怒っていても仕方がありません。今一番やらなければならないことはそんなことじゃないんですから。我が身はひとつにあらず『分身(アルテレーゴ)』」

「はいはーい。分身の私、登場! さて、何をしよう……て、言うまでもないよね」


 魔法によって呼び出された分身メロディが、ルシアナの部屋を呆れた様子で見回す。


「とりあえずお部屋の掃除をお願い。お嬢様はいつ帰って来てもおかしくないので超速で」

「了解。時間もないし魔法込みでやれば多分間に合うと思うよ」


 部屋の片づけについて二人のメロディは軽い打ち合わせを始めた。魔王はこれを好機と見た。


(せ、聖女が二人に分裂するとはなんと恐ろしい! だが威圧感も消え、こちらへの注意が逸れている今が絶好の機会。悔しいが一時撤退だ!)


 残っていた全魔力を子犬の身体強化に充てると、魔法は即座に踵を返しベランダに向かって跳び出した。その速度はまさに弾丸。普通の人間の目には黒い影が一瞬視界を横切ったようにしか見えないだろう。人間の反射速度で対応できる速さではないのだが……。


「それで本体の私、あれはどうするの?」

「もちろん、逃がすわけないじゃないですか。伸びろ、仮初(かりそ)めの手『延長御手(アルンガレラマーレ)』」

「キャインッ!?」


 物理法則を完全に無視するように、魔王はあっさりと捕まった。力属性魔法で作られた、実体を持たない見えざる腕が、魔王の首を摘まんでいた。


(え? え? 今、何が起きたのだ!? いつ捕まったのだ!?)


 魔王は混乱した。それというのもメロディが魔王を捕まえる際、捕獲時に発生するはずだった全ての反動を魔法で完璧に相殺してしまったからだ。

 子犬に怪我を負わせないためのメロディなりの配慮だったのだが、魔王からすれば、逃げ出したと思った瞬間に気が付けば捕獲されているという、ある種の恐怖体験以外の何物でもなかった。


(に、逃げられないいいいいいいいいいい!)


 慌てて抵抗する魔王……宙に浮かんだ状態で必死に足をバタつかせる子犬のなんと愛らしいことか。騒ぎの元凶であるにもかかわらず、二人のメロディがちょっとほっこりしたのは秘密である。

 魔王を引き寄せ、本体メロディは今度こそ自分の腕で子犬の首元を摘まみ上げた。


「ホントに、これだけのことをしておいて逃げようだなんて、悪い子です」

「ホントホント。旦那様達が帰ってきたらいっぱい叱ってもらおうね」

「その通りです。でも、今のままでは皆様の前に出すこともできません。綺麗にしないと」


 二人のメロディが怯えた様子の子犬を見つめた。全身ホコリまみれのうえ、煤でも被ったのか、何かよく分からない黒い汚れが子犬の周囲を漂っている……メロディの目にはそう映っていた。


「それじゃあ、部屋の掃除は私がやっておくから、本体の私はその犬のこと頼むね」

「ええ、任せてください。そっちもお願いしますね」


 そうして、ルシアナの部屋の後片付けを分身に任せて、本体のメロディは風呂場へ向かった。


「キャイン、キャイン、キャイイイイイイン!!」

「こら、大人しくしてください! 汚れが落ちないじゃないですか!」


 風呂場に着いたメロディは、桶にお湯を張るとその中に子犬を入れて洗い始めた。石鹸を泡立てて、子犬こと魔王は全身泡まみれである。

 風呂になど入ったことがないせいか、子犬はやたらと嫌がり逃げようとする。そのたびにメロディが子犬を押さえつけて何度も全身をスポンジで擦るのだった。


「ほーら、どんどん綺麗になっていきますよ。よかったですね」

「キャイン、キャイン!(やめてくれええええ! 私の魔力を削ぎ落とさないでくれえええ!)


 今もメロディの体表面は銀の魔力に覆われている。先程は軽く摘ままれていた程度だったのでそれほどでもなかったのだが、今は力いっぱい擦り付けるように体を洗われているため、メロディに体を洗われるたびに魔王の残り少ない魔力がどんどん浄化されていった。

 洗われれば洗われるほど、魔王から抵抗する力が奪われていく。


(このままでは本気でまずい! なんとしても逃げなければ!)


 今度こそ、本当に残された全ての魔力が子犬の全身から溢れ出す。長丁場になれば勝機はない。だが、一瞬でもメロディの魔力を上回ることができれば、まだ撤退の可能性は残っているはず。

 そう思い、引き出せるだけ引き出した全ての魔力が――。


「きゃあっ! 洗っていたら中から凄い汚れが! 洗いがいがありますね。えい!」

(ぎゃああああああああああああああああああああああああ!?)


 ――ちょっと本気を出したメロディのひと擦りによって、綺麗さっぱり洗い流されてしまった。


(も、もう……無理)


 精神的にも体力的にも、もちろん魔力的にも魔王は抵抗する力を失った。全身が脱力し、子犬はメロディの赴くままに洗浄されていった。


「よし、完了です。最初は汚いと思っていたけど、意外と毛色は綺麗じゃないですか」


 石鹸を洗い落として子犬を持ち上げたメロディ。ホコリまみれで灰色に見えていた子犬の本来の毛色は白銀。メロディの洗浄技術もあいまって、光り輝くように美しい……のだが。


「毛色はともかく、毛並みはあまりよくないです……あれ? この子、こんなに軽かったっけ?」


 体を洗う前と後で体重が違う気がした。それによく見れば、この子犬、あばら骨が浮き上がるほどに痩せ細っている……体を洗う前もこんなにやつれていただろうか。メロディは首を傾げた。

 魔王はメロディに抵抗するためにひねり出せるだけ魔力をひねり出した。それは、子犬の生命維持のために使用していた魔力も含めて全てだった。


 そしてその全ては、メロディによって完膚なきまでに消し飛ばされて……今の子犬は――。

 きゅるるるるるるるる~。

 腹ペコだった。それはもうペコペコだった。

 メロディに持ち上げられながら、抵抗どころか姿勢を正すことさえできはいほどに。


「だ、大丈夫!? え? だってさっきまで別にそんな状態じゃ、て、今はそれどころじゃない!」


 急いで子犬を乾かすと、メロディは子犬とともに使用人食堂へ走った。テーブルに子犬を寝かせると、調理場へ向かった。


「えーと、何をあげればいいのかな? かなり痩せ細っているし、ずっと何も食べていなかったなら、固形物よりスープの方が……あ、このスープ、玉ねぎが入ってるんだった。ダメだ」


 メイドからのお知らせ。犬に玉ねぎを与えると中毒を引き起こして呼吸困難、最悪の場合死に至ることがあります。よい子の皆は絶対に与えないようにしてね。チョコレートもダメだぞ♪


「なら……開け、時の狭間の保管庫『完全冷蔵庫(コンプレットフリゴリフェーロ)


 メロディの手元に黒い穴が開き、彼女はそこからボトルに入ったヤギのミルクを取り出した。

 メイドからのお知らせ。犬に人間用の牛乳を与えないでください。牛乳に含まれる乳糖を分解できないため、下痢を起こす可能性があります。おすすめは成分が犬の母乳に近いヤギミルクです♪

 というわけで、メロディはヤギミルクを皿に注ぐと子犬の前に差し出した。ぐったりしていた子犬の鼻先がピクピクと動くと、最後の力を振り絞るように子犬は立ち上がった。


 震える体でどうにか皿をひと舐めすると、そこからは延々と皿を舐め続けた。生きるために必死で舌を動かす子犬の姿はあまりにも懸命で、そして健気で……ルシアナの部屋を滅茶苦茶にした怒りが収まってしまうほどだった。


 メロディは子犬がミルクを飲んでいるうちに魔法の穴からソーセージを取り出すと、調理台でそれを細かく刻み始めた。離乳食の代わりに出してあげるようだ。

 メイドからのお知らせ。人間用のソーセージは犬には塩分が多いので与えないでください。メロディが用意したものは彼女のお手製減塩ソーセージなので安心です♪


「よし、こんなものかな」


 子犬はちょうどミルクを飲み終えたところだった。ミンチに近い状態にまで刻みこまれたソーセージを子犬の前に差し出すと、子犬は夢中になって食べ始める。

 椅子に座ったメロディは、テーブルの上でソーセージを貪る子犬をじっと見つめた。


(うちに押し入ってきたのは空腹だったからなのね。だったら素直に調理場にでも来ればよかったのに……というか、どうやって二階まで昇ってきたのかしら?)


 メロディは首を傾げるが、答えが浮かぶことはなかった。

 その頃、ソーセージの肉を食べている子犬と魔王は……。


『うまうま、うまうま、うまうま、うまうま……!』

(こ、これが……『美味しい』という感覚! 何なのだ、これは!?)


 負の感情の結晶である魔王は、食事をしたことがなかった。それはつまり、食べる喜びを今まで知らなかったということ。


 魔力を使い果たした魔王に子犬の生存本能に抵抗する力は残っておらず、しばしの幸福感に身を委ねることしかできなかったのだが……それは、思ったほど嫌な感覚ではなかった。


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