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【アニメ化決定】ヒロイン?聖女?いいえ、オールワークスメイドです(誇)!  作者: あてきち
第8章

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第16話 どんかん兄妹

10/9 第8章全話一括公開!

 タイラントマーダーベア。元日本人の転生者であるアンネマリーの感性では、超巨大なグリズリーのように見えるクマ型の魔物だ。

 攻撃力と体力には定評があり、初登場時はサブクエストのボスモンスターとして登場するくらいには強力な魔物であることに間違いはなかった。


 しかし、その巨体ゆえにあまり俊敏な印象はなく、実際、ゲームでも素早さのステータスはあまり高くなかった。ゲームでは先行して攻撃できることが多かったので、油断していたと言って差し支えないだろう。


 庭の物陰から突如として現われたタイラントマーダーベアが、超重量級の体で高く跳躍し、シエスティーナの目の前に降り立った魔物が、彼女に巨大な爪を振り下ろすなど誰も想像していなかったのである。


「え?」


「グオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」


 シエスティーナを巨腕が襲う。地面を叩きつける衝撃が響き、土煙が舞う。軽い積み木でも手で払い壊すように、シエスティーナの影が吹き飛ばされる光景が、アンネマリーの瞳に映った。


「シエスティーナ様!?」


「グオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」


「マジかよ! 『限定転移ドローイング』! からの『錬金術アルケミー』!」


 クリストファーは銀の短剣を呼び出し、魔法で長剣を作り出すと剣を構えた。マクスウェルも制服の下に隠し持っていた銀の短剣を取り出し、構える。


「生憎、銀製武器しか持っていないのだけど」


「……まあ、多分それで合ってると思うぜ」


 襲われたシエスティーナの安否も気になるが、ヴァナルガンド大森林の強力な魔物を相手に、目を逸らすことが愚策であることは、クリストファーとマクスウェルにも十分理解できた。


「アンネマリー、お前は下がれ!」


「でも、シエスティーナ様が」


「魔法が使えないお前じゃ足手まといだ!」


「くっ!」


 クリストファーに一喝され、アンネマリーは反論のしようもなかった。一人でも戦力が必要な場で、自分が何の役にも立てないだなんて。アンネマリーは強く歯を食いしばる。

 魔法を封じられたせいで、必死に編み出した治療魔法さえ使えない。クリストファーの援護はおろか、おそらく瀕死であろうシエスティーナを助けることすらできないのだ。

 これまでの苦労がたった一匹の魔物のせいで全て失ってしまったかのような気持ちになった。


「氷の刃よ、我が敵を打ち抜け『氷槍ギ・ランチェ!』」


 土煙の中から鋭く尖った氷が飛び出し、タイラントマーダーベアの顎に直撃した。油断していたのだろう、タイラントマーダーベアは思わず仰け反った。

 その隙に、土煙から姿を見せたのはシエスティーナだった。


「シエスティーナ様、ご無事で!」


「君こそ怪我はないかい、アンネマリー嬢」


 軽やかなバックステップでアンネマリーの下まで後退するシエスティーナ。そして、地面に手をつき、再び魔法を放った。


「動きを止める! 凍てつく大地に繋ぎ止めよ『縛霜テ・ブリナーラ』!」


 シエスティーナの手からタイラントマーダーベアに向けて、地面に霜が降りた。そのまま情景を言えば、立ったと言った方が正しく見えるかもしれない。霜と呼ぶには強烈な冷気の奔流が、タイラントマーダーベアの下半身を凍り付かせた。


「グオオオオオオオオオッ!」


 動きを封じられたことに気が付いたタイラントマーダーベアが氷を破壊しようと動き出すが、クリストファーとマクスウェルはこの好機を見逃さなかった。


「させるかよ!」


 タイラントマーダーベアの背後を突き、クリストファーが銀剣で一閃。


「氷を溶かさないよう気を付けないとね。赤き熱の矢よ敵を穿て『火矢カロブレッダ』」


 続いて高温の熱を帯びた三本の魔法の矢がタイラントマーダーベアの上半身に向けて撃たれた。


「グオオオオオオオッ!」


 結果、浅いながらクリストファーの銀剣は魔物の厚い皮膚を裂き、魔法の矢もタイラントマーダーベアの表皮を突き破った。刺し傷を熱せられ、タイラントマーダーベアから苦悶の声が響く。


「効きはしたが、浅いな」


「細かく刻んでいくしかないね」


 シエスティーナの魔法で動きを封じている間に少しでもダメージを与えなければならない。二人の少女の安否を気にする余裕もなく、クリストファーとマクスウェルは戦いに集中した。


 一方、アンネマリーはシエスティーナに質問を投げ掛けていた。


「シエスティーナ様、よくぞご無事で……でも、どうして」


「それが、よく分からなくて。私もあの時、殺されると思ったのですが……あっ」


 クリストファー達の戦闘を見つめながら、シエスティーナは緊張を誤魔化すように自分の髪、正確にはウィッグを撫でた。すると、後ろで止めていたバレッタが髪から外れてしまった。

 それを拾おうとしたシエスティーナは目を見張る。バレッタがバラバラになって壊れていた。


「さっきの攻撃で壊れてしまったのか。せっかく買ったのに」


「……え? これって」


 悔しそうに表情を歪めるシエスティーナの隣で、アンネマリーは目を点にして驚いていた。


「……フラワーバレッタ」


 フラワーバレッタ。乙女ゲーム『銀の聖女と五つの誓い』において『不思議な雑貨屋』と呼ばれる売店で購入できる補助装備アイテムである。


 花柄のバレッタには、装備者を一度だけ致命傷から守ってくれる効果が付与されており、効果を発揮すると花が散るようにバラバラに壊れてしまうのだ。


 ゲームでもバレッタが効果を発揮すると『フラワーバレッタはバラバラになって壊れてしまった』というテキストが表示される仕様だ。


 地面に転がる壊れたバレッタは、アンネマリーがかつてゲームで見たアイテムのイラストによく似たデザインをしていた。そして、タイラントマーダーベアの一撃をくらいながら無傷で生還しているシエスティーナの状況を見れば、効果を有していたことは一目瞭然である。


「シエスティーナ様、これをどこで手に入れたのですか?」


 壊れてしまったバレッタの残骸を拾うシエスティーナに、アンネマリーが尋ねた。


「これかい? これは、この前王都を散策した時に偶然立ち寄った雑貨屋で購入したんだ」


「……雑貨屋」


(間違いない、『不思議な雑貨屋』だわ! やっぱり王都にあったんだわ!)


「その店はどこにあるのですか!? 教えてくださいませ!」


「ええ? ど、どこって、平民区画の、えっと……あ、後でいいかな。今はあの魔物をどうにかしないと!」


「え? あ、そ、そうでしたわ。申し訳ございません」


 興奮しすぎてアンネマリーは今の状況を失念していたようだ。今はヴァナルガンド大森林の強敵であるタイラントマーダーベアを倒さなければならない。


(シエスティーナ様が雑貨屋に辿り着いていたなんて。知っていたらすぐにでも案内してもらってリフレッシュキャンディーを買っていたのに。そうすれば、今だって私も戦えていたはず……)


 詮無きことだが、今この場で戦えないことをアンネマリーは歯がゆく思う。


「それにしても悔しいな」


「何がですか?」


 魔物の動きを封じる『縛霜』を維持しながら、シエスティーナは眉を顰めた。


「私は不意を突いて『氷槍』を顎へ直撃させたのに、奴に何のダメージも与えられなかった。対してクリストファー様やマクスウェル殿の攻撃は浅いながらも効いている。それが悔しいんだ」


「それは、あの魔物が黒い魔力に――っ! 『凝視解析アナライズアヴィジョン』!」


 ハッとしたアンネマリーは、今使える唯一の魔法『凝視解析』でタイラントマーダーベアの魔力を解析し始めた。


「……いけない! 二人とも気を付けて! そいつはいつでも動けるわ!」


「アンネマリー嬢、それはどういう……」


 相手がヴァナルガンド大森林の魔物である時点で予想はついていた。魔王の配下となった魔物であろうと。だからこそクリストファー達は常に銀製武器を携帯し、魔物との戦闘に備えていた。しかし、シエスティーナはそうではない。彼女は銀製武器を所持していなかった。


 だから、彼女の氷の槍はタイラントマーダーベアに効果がなかったのである。魔王に力を与えられた魔物には聖女の力か、銀製武器を介した攻撃でないとダメージを与えられないから。


 であるなら、タイラントマーダーベアの動きを封じている魔法『縛霜』はどうかといえば、アンネマリーの『凝視解析』は、魔法の霜が既に拘束力を失っていることをしっかり捉えていた。

 つまり、タイラントマーダーベアは動きを封じられているという演技をしていたのである。攻撃が通らないシエスティーナよりも、多少とはいえ有効打を与えてくるクリストファーとマクスウェルを先に排除するため、彼らの隙を狙っていたのだ。


 シエスティーナの『縛霜』は、攻撃魔法ではないためしばらくは本当に効果を発揮して、タイラントマーダーベアの動きを封じていたが、すぐに黒い魔力によって無力化されていたのである。

 浅い傷を何度も付けられたタイラントマーダーベアの上半身がぐらりと揺らいだ。頭もぐらつき死角が生まれ、クリストファーはその隙を突いて致命傷を与えるべく頭に向けて剣を突き刺そうと動いた。


 アンネマリーの注意が飛んだのはこの時だった。既に剣を構え、突き刺す直前。止めようにも体は止まらず、クリストファーは剣を突き出した。しかし次の瞬間、タイラントマーダーベアの下半身を覆っていた魔法の霜は砕け散り、一歩足を横にずらしていとも簡単にクリストファーの剣を避けた。


(マジかよ!)


 全力で剣を突き出した姿勢はあまりにも無防備だった。一歩踏み込んだ勢いのまま、タイラントマーダーベアの腕が振るわれる。魔物と近すぎる距離。回避は間に合わない。

 援護のために控えていたマクスウェルが『火矢』を撃つが、タイラントマーダーベアの豪腕を舐めるだけで、勢いを殺すことはできなかった。


(あ、死ぬ)


 まずは一匹。タイラントマーダーベアはそう思ったに違いない。


「当たれ! 必中の弾丸『誘導魔弾ミシレグィダード』!」


「グガアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」


 豪腕がクリストファーを捉えようとした時、高速で飛ぶ光の弾丸がタイラントマーダーベアを吹き飛ばした。シエスティーナはおろか、クリストファーやマクスウェルの攻撃などとは一線を画す確実な有効打がタイラントマーダーベアの脇腹に直撃したのだ。


「あでっ!」


 魔物の豪腕からは逃れられたものの、胸から地面にダイブしてしまったクリストファーは痛みに悶えた。


「怪我はない?」


 クリストファーの前に白銀のドレスを纏う、これまた白銀の髪を大ボリュームなツインテールにした美少女――小聖女ことマイカが降り立った。

 少女は白い狼に跨がったまま、クリストファーを見下ろす。


「あ、ああ、助かった、ありがとう」


「……そう」


 小聖女は軽く返事をするとツンとした態度でタイラントマーダーベアを見据えた。


(ク、クールビューティー! この幼さでクールビューティーだぜ! 大人になったらさぞモテるだろうな! うちのマイカだったらこうはいかない!)


 まさか目の前にいるのがかつての自分の妹だとは全く思いもしないクリストファーである。


(もうもう! 道中でメロディ先輩がいたらキャンディーを渡して代わりに戦ってもらおうと思ってたのに! 見つからないんだから!)


 マイカはマイカで、ままならない現実に対する怒りと、身バレ防止の無口キャラの相乗効果で、クリストファーにはクールビューティーに見えるという無駄な化学反応が起きていたりした。


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