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【アニメ化決定】ヒロイン?聖女?いいえ、オールワークスメイドです(誇)!  作者: あてきち
第8章

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第15話 悪夢の回廊とリフレッシュキャンディー

10/9 第8章全話一括公開!

「……起きてください」


 ポンポンと軽く頭を叩かれた気がして、クラウドは小さなうめき声を上げた。


「うっ……」


 ぼうっとする意識がゆっくりと覚醒し、クラウドは瞼を開けた……つもりだったが、まだ目が覚めていないらしい。開いたつもりの瞼の奥の瞳は、何も映してはいなかった。


 視界一面、真っ暗である。


 それが周囲に光がないがゆえだと気付くのに少し時間が掛かった。うつ伏せに倒れている自分の頬の感触が硬く冷たいことを知ると、ここがいつものベッドの上でないことに気が付く。

 なぜかとても重くなった体をゆっくりと起こして、改めて周囲を見回した。一切の光がないそこがどこまで続くのか認識することすらできない。

 四方八方視界は闇に覆われており、クラウドは自分が閉じ込められたのだと理解した。


 そして、思い出す。


(ああ、そうだ。私はセレディアに……)


 何があったのかを思い出した。屋敷の者達はクラウド以外、セレディアの心を操る魔法によって支配されてしまったのだ。そしてなぜか自分だけが彼女の支配を逃れ、代わりにこのような闇の空間に追いやられたのである。


(確か、セレディアは何と言っていたか……)


 まだ少し頭が混乱しているようで、記憶が上手く繋がらない。何となく痛む気がして、クラウドは右手でこめかみを押さえた。


 その直後だった。


「目が覚めました?」


「え?」


 可愛らしい女性の声が耳元に届き、左手の甲に暖かい気配が重なった。それは誰かに手を重ねられたかのようで……事実、クラウドが左手の方を見れば、闇から伸びた細い腕がそっと彼の左手に重ねられていたのだ。


「うわっ!」


 思わず左手を引っ込めるクラウド。あまりの衝撃にこめかみの痛みなど吹っ飛んでしまった。


「だ、誰だそこにいるのは!?」


「……あの、目が覚めたのならそろそろ立ち上がってもらえますか? あまりここに長居するのはよくないので」


 女性の言葉にハッとするクラウド。


「ここがどこなのかあなたは知っているのか」


「……ここは悪夢の世界です」


「悪夢の世界?」


「ここに長く居続けると心が悪夢に侵されて、普通ではいられなくなります。なるべく早くここから出た方がいいです」


「出口を君が教えてくれるというのか」


「まあ、そんなところです」


「……それを信用しろと?」


 クラウドは声のする方を強く睨んだ。セレディアによって囚われた場所に現われた女性と思しき存在。自分を助けてくれると言うが、それを素直に信じるには状況がよくなかった。

 クラウドの問い掛けにしばし無言となる女性だが、沈黙の中で彼女の呟きが届いた。


「……どうしよう、夢の中じゃ物的証拠なんて提示できないし。どうやったら信じてくれるかな」


 その声は困惑に満ちていた。善意を偽装している者特有の、策略の気配がまったく感じられない言い草であった。これが演技なのだとしたら、宰相補佐として培ってきた対人能力では太刀打ちできない相手となってしまう。

 もし、クラウドが感じたとおりの人物なら、目の前の女性はクラウドの味方ということだ。


(この状況で手を払いのけるのはあまりにも惜しい)


 いまだに悩む気配を放つ女性を前に、クラウドは少しばかり息をつくと女性へ声を掛けた。


「分かった。君の言葉を信じよう。出口へ案内してくれ」


「あっ、よかったです。それじゃあ、私と手を繋いでください」


 小さく安堵の息遣いが聞こえ、クラウドの前に女性の細い腕が差し出される。女性と手を繋ぐことに若干の抵抗はあったが、この状況では仕方がないと気持ちを切り替え、クラウドは女性の手をそっと握りしめた。そして、同時に疑問に思う。


「どうしてこの暗闇の中で君の手だけは見えるんだ」


「え? 気付いてないんですか?」


「何がだ?」


 クラウドは訝しげに首を傾げた。しばしの沈黙の後、女性は答えた。


「……私の手だけが暗闇で見えるのは、あなたの周りが光っているからですよ」


「何?」


 そう返されて、クラウドは改めて自分の周りを見た。今までなぜ気付かなかったのか、言われてみれば、クラウドはこの闇の中にあって自分の体を見ることができていた。首から下の体も足も、もちろん少女と手を繋いでいる左手も。


「悪夢の世界にあってあなたが意識を保っていられるのは、あなた自身が光ある夢に包まれ、守られているからです。その輝きがある限り、あなたは自分を見失わない。素敵な夢ですね」


(ああ、そうか。確か、セレディアは私が夢に守られているから支配できないと言って、この闇の中へ落としたのだったか)


 クラウドにはその光ある夢に心当たりがあった。思い出されるのはほんの数日前のこと。ここ最近では最も幸せな夢であった。


 この世界でただ一人、クラウドが愛する唯一の女性と再会する、幸せな夢……。


「さあ、行きましょう、クラウド……悲しい悪夢を終わらせなくては」


 クラウドはハッとした。忘れられるはずもない美しいの声と、手放したくない温もりを感じたから。彼の右手を誰かの手が優しく包み込んだ。


 そっと振り返るとそこには――最愛の人がいた。


「……セレナ」


 闇の中でセレナもまた光に包まれていた。柔らかい笑みを浮かべるセレナが愛おしい。


「ここは夢だもの。全ての人の心は夢で繋がっている。また会えて嬉しいわ、クラウド」


「ああ、私も嬉しい。もうずっと、この冷たい闇の世界に君と留まっていたいほどに」


「それはちょっと困るんですけどね」


 向き合う二人のそばで、苦笑気味に告げるクラウドと手を繋ぐもう一人の女性の声が聞こえた。


「ごめんなさいね、この人、本当に夢見がちで」


「まあ、実際に夢の中ですしね。ロマンチストの本領発揮といったところでしょうか。お気持ちは察しますけど、できれば理性的で現実的な心も思い出してほしいです」


「……私は別にロマンチストというわけでは」


「ふふふ、クラウドはそんなものよ」


「男の人は大体そんなものですよ」


 クラウドの否定の言葉は二人の女性によってあっさりと覆されてしまった。多数決の勝利である。


「さあ、そろそろ本当に行きましょう。いつまでもリア充のイチャイチャに付き合っていられませんし。私、爆死しちゃいます」


「りあ……なんだって?」


「お気になさらず。それじゃあ、行きますよ、お父様……じゃなかった、レギンバース伯爵様」


 女性に手を引かれ、クラウド達は歩き出した。だが、歩きながらも先程の女性の言葉は質問しないわけにはいかなかった。


「……君はなぜ、私を『お父様』と呼んだのだね?」


「それは……」


 クラウドの左手を握る女性の力がほんの少し強くなる。そして、諦めたようなため息が零れた。


「……私にとってあなたは『お父様』だからですよ」


「私が君の父親……?」


 女性の足がピタリと止まり、クラウドの足も思わず止まる。そして、クラウドの目の前に、彼の光を受けた女性の顔が浮かび上がった。


 見覚えのない黒髪の女性……というより、少女といった方が通じそうな幼い容貌をしている。


「初めまして、お父様。私の名前は白瀬しらせ怜愛れいあ……あなたの偽物の娘、セレディア・レギンバースの心を構成している者の一人です」


 少しだけ寂しそうに微笑む少女に、クラウドは驚愕に目を見開くのであった。




◆◆◆




「それじゃあ、セレーナ。必要な木材の計算をしていってもらえる?」


「畏まりました、お嬢様。マイカさん、リュークもよろしくお願いしますね」


「はーい!」


「分かった」


 十二月二十日の午後。ルシアナ達はルトルバーグ邸の庭に来ていた。この場にいるのはルシアナとセレーナ、マイカとリュークの四人である。


 先日、ルシアナがヒューズに雪囲いについて問い合わせの手紙を送った結果、予想通り彼が雪囲いについて考えているはずもなく、今から準備をせざるを得なかった。

 そして、王立学園が休みの今日、ルシアナと使用人達で雪囲いに必要な木材の数などを調べることになったのである。


 ちなみに、この場に伯爵夫妻の姿はない。ヒューズは休日返上で宰相府で仕事があり、マリアンナはクリスティーナとハウメアとのお茶会だ。以前から決まっていたため、雪囲いの準備のために予定を変更することはできなかった。


「メロディ先輩も一緒にやってくれた方が早く終わるんですけどね」


 セレーナから渡されたマニュアルを参考に、割り当てられた箇所の木材の必要量を書き込んでいきながら、マイカはポツリと呟いた。隣で一緒に作業をしていたルシアナが返す。


「まあ、そこまで大きい庭じゃないんだし、大丈夫でしょ……メロディがあいつと同行する必要はないだろうって意見には賛成だけど」


「レクティアス様に手紙を送ったのはメロディ先輩ですから、仕方ないんですけどねぇ」


 この場にメロディの姿はない。なぜなら、彼女は今レクトと一緒に材木商の下へ行っているからだ。材木の調達についてレクトに相談の手紙を送ったところ、彼を通じてレギンバース伯爵が懇意にしている材木商を紹介してくれるという話になったのである。

 メロディはその挨拶のため、レクトと一緒にお出かけ中のため不在だった。


「むきいいいっ! あの男、メロディに変なことしたら許さないんだから!」


「……あの人にそんなことする気概があるわけないじゃないですか」


「け、結構辛辣ね、マイカ」


「個人的にはもっと恋の駆け引きとか見せてほしいんですけどね」


 乙女ゲージャンキーのマイカから見れば、レクトが一番メロディとの距離が近い攻略対象者である。しかし、既に彼の好感度はカンストに近く、これ以上の発展は見込めない。


 そのうえで、レクトの恋愛スキルはヘタレであった。つまり、メロディから積極的にアプローチしない限り、おそらく進展はないものと思われる。ある意味安心なキャラクターであった。


(あーあ、レクティアス様がせめてシュウさんくらい積極的だったらまた違ったかもしれないのに。ああいうのは攻略対象者がするから楽しいんだけどなぁ)


 まさか、あれ(シュウ)も実は攻略対象者だとはまったく気付いていないマイカである。


「よし、これは終わり。次はあの低木だね。この大きさなら――あれ?」


 とある低木を確認していたマイカは、枝葉の内側に何かが埋もれているのを発見した。ゴミでも入っているのかとそれを取り出してみると、それは――。


「……え? 待って。これって……ちょっと待って」


 ――マイカのとーっても見覚えのある物だった。


(虹色に輝く瓶詰めのキャンディー……いやいやいや! おかしいでしょ。いくらなんでもこれはないって。こんなところに捜していた回復アイテム『リフレッシュキャンディー』があるわけないって!)


 リフレッシュキャンディー。乙女ゲーム『銀の聖女と五つの誓い』において『不思議な雑貨屋』 と呼ばれる売店で購入できる回復アイテムである。


 このキャンディーには毒や麻痺、魔法封印といった状態異常の全てを治療する効果があり、それは現在進行形でマイカが捜し求めている品でもあった。

 そんなリフレッシュキャンディーが、灯台もと暗しとも言えるルトルバーグ邸の庭木の中に落っこちているなんて、意味不明すぎて信じられないマイカである。


 しかし――。


(そうだよね。リフレッシュキャンディーに似てるけど、そんなものがここに落ちてるわけがないよね。私ったらアイテムを欲しがるあまり何でもそう見えるようになっちゃったみたい。反省、反省、気を付けなくっちゃ。てへっ)


「あら? それ、この前メロディが雑貨屋で買ったっていうキャンディーじゃない」


 ――現実はマイカの常識を軽々と打ち破った。


「お嬢様、今、なんて?」


「ん? だから、そのキャンディーよ。この前、メロディがお土産に買ってきたのよ。だけどちょっと目を離した隙になくなっちゃって。メロディ、一つも舐められなかったってガッカリしてたのよね。ホントにどうしてこんなところにあったのかしら?」


 不思議そうに腕を組んで首を傾げるルシアナ。それに対し、マイカは思いっきり息を吸い込んで、吸い込んで、吸い込んで――。


「なんでそうなるのおおおおおおおおおおおおお!」


 ――マイカは全ての息を絶叫に変えた。


「きゃあっ! どうしたの、マイカ!?」


 慌てて耳を押さえるルシアナ。マイカはぜえぜえと肩で息をしている。


「お、お嬢様、雑貨屋って、どんな雑貨屋か聞いてます?」


「え? そ、そうね、確か……可愛らしい雑貨屋って言ってたような?」


「マジじゃん!」


 マイカは頭を抱えた。


「大丈夫? マイカ!」


「だ、大丈夫です……」


(もうもう! 信じられない! 私がずーっと王都を捜し回っていた『不思議な雑貨屋』を、メロディ先輩はとっくの昔に見つけていて、あまつさえリフレッシュキャンディーも買ってたっていうの!? そのうえなくしたって? ……せめて一つくらい舐めておいてくださいよおおおおおお!)


 心の中でメロディへの文句が止まらないマイカ。頭を抱えたまま体を揺らすが、彼女はあることに気が付いて、ピタリと動きを止めた。


(……違う、そうだ、そうだったんだ! 私は捜し方を間違えていたんだ。メロディ先輩が一緒にいなきゃ『不思議な雑貨屋』は見つからなかったんだ。だってあの店をゲームで利用できたのは、ヒロインちゃんだけだから!)


 ゲーム内の売店『不思議な雑貨屋』を利用できるのは、当然のように主人公の代行者たるプレーヤーだけであった。他のキャラクターが使う意味はない。それはもう純然たるゲーム仕様である。


(迂闊だった。あれだけ上から捜してそれらしい店が見つからない時点で、おかしいと思うべきだったんだ。だってこの世界でリフレッシュキャンディーの効果は明らかにチートだもん。『不思議な雑貨屋』は何かしらの魔法で隠された場所だったのかも)


 改めてヒロインという特別な存在を目の当たりにしたマイカだった。

 思考が紆余曲折した結果、どうにか気持ちを切り替えることに成功したマイカは、とりあえず求めていたアイテムを入手できた喜びに浸ることにした。


(私の変身、あんまり意味なかったけど、メロディ先輩が帰ってきたらこのキャンディーを舐めてもらえれば私の苦労も報われるよぉ)


 小聖女の魔力が残り少ない中、偶然とはいえ目標と達成できた喜びはひとしおである。

 しかし、マイカの安堵は長くは続かなかった。


 ――ぞわり!


「――っ!?」


 マイカはハッとして背後を振り返った。王立学園の方向だ。そこから、マイカは今まで感じたことのない強烈な魔力の気配を感じた。


(えっ! うそ! あれって……ボスモンスター!?)


 明らかにシャドウゲッコーを凌駕する、殺意に満ちた魔力の発露を感じだ。あまりにも唐突に。


(あれは、ヤバい……!)


 行かなくちゃ! これまで王都を巡回し、魔物を駆逐してきた経験が、マイカに動くよう急かす。一歩踏み出そうとした時、両手に持つ瓶詰めの感触がマイカを躊躇わせた。


(……私が行くより、メロディ先輩にキャンディーを渡した方がいいんじゃ。でも、メロディ先輩は今どこに?)


「お嬢様、メロディ先輩が行った材木商の場所って分かります?」


「分からないわ」


(……今から探しに行く? でも、その間に誰かが襲われたら? すぐに見つけられる?)


 逡巡し、マイカはひとつの結論に至った。

 瓶の蓋を開けると、マイカは中からキャンディーを一つ取り出し、ハンカチにくるんだ。そして、残りの瓶をルシアナに手渡す。


「マイカ?」


「お嬢様、メロディ先輩が戻ったらこのキャンディ-を舐めるよう言ってください。絶対ですよ!」

「え? マイカ、急にどこへ行くの!?」


「お花摘みに行ってきます!」


 それだけ告げると、ポカンとするルシアナを背にマイカは走り出した。途中でリュークともすれ違うが、マイカはそれも無視して屋敷の物陰に駆け込んだ。


(ガルム!)


(マイカ!)


 緊急事態だからだろうか、マイカとガルムの心が繋がる。示し合わせたように落ち合った一人と一匹は手のひらと肉球を重ねて魔法の言葉を唱えた。


「「銀星結界」」


 小聖女に変身したマイカは魔力の気配がする方、王立学園へと飛び出した。



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