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【アニメ化決定】ヒロイン?聖女?いいえ、オールワークスメイドです(誇)!  作者: あてきち
第8章

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第6話 髪飾りと虹色の飴

10/9 第8章全話一括公開!

 メロディは雑貨屋の扉を開けた。上部に設置されたベルがチリリンと鈴の音を鳴らす。

 扉を潜ると、左右の両側に商品棚があり、少女向けと思われる可愛らしいデザインのティーセットや文具、ぬいぐるみなどが並んでいた。


 店の真ん中にはテーブルセットが置かれており、正面には店員が立つだろうカウンターと、その後ろにはクッキーやキャンディーなどが入った瓶詰めを並べた棚が設置されている。

 カウンターの内側には扉がある。店内は現在無人なので、おそらく店員はこの扉の向こうにいるのだろう。


「可愛らしい物がいっぱいですね」


「あ、ああ、そうだね……」


 棚には可愛いデザインのヘアアクセサリーなども置いてあった。シエスティーナは瞳を輝かせて店内を見回した。すると、カウンター奥の扉から白髪の老婆が姿を見せた。


「あら、いらっしゃいませ。お客様なんて珍しいわ」


 おっとりした雰囲気の老婆は優しい笑みを浮かべてそう言った。シエスティーナは苦笑する。


「まあ、こんな小道の奥まったところにある店じゃお客なんてあまり来ないでしょう」


「ふふふ、そういう意味ではないのだけれど、まあ、いいわ。さあ、座ってちょうだい。今、お茶を淹れるわね」


 店主と思わしき老婆は二人にカウンターの席へ着くよう促した。


「えっと、いいんでしょうか?」


「私達、それほど持ち合わせがあるわけじゃないから、もてなされても大した買い物はできないんだが……」


「そんなことを気にする必要ないわ。お客様にお茶を出すなんて普通の事よ。さ、腰掛けて少し待ってちょうだい」


 そう告げると、老婆は扉の向こうへ姿を消した。二人だけとなり、メロディは店内を見回す。


「掃除が行き届いた綺麗なお店ですね。店主さんが一人で切り盛りされてるんでしょうか」


「どうだろう。でも、お客が少ないなら人を雇う余裕はないんじゃないかな」


「まあ、失礼ね。心配いただかなくてもうちはちゃんとやっていけてますから大丈夫よ」


「あっ、申し訳ない」


 戻ってきた店主に話を聞かれていたようだ。少し恥ずかしそうにシエスティーナは謝った。


「ふふふ、謝罪を受け入れましょう。さあ、私の特性ブレンド紅茶をどうぞ」


「「いただきます」」


 二人は出された紅茶を飲んだ。


「わぁ、これ、美味しいですね」


「喉が渇いていたからちょうどいいと思っていたけど、本当に美味しいな」


 カレナが淹れてくれる紅茶より美味しいかもしれない。シエスティーナはそう思った。これは、もちろんよい茶葉を使っているが、紅茶を淹れる技術も優れていることが分かる味だった。


「あの、このお茶ってブレンドの配合を教えていただくことって」


「ごめんなさいね。これは当店のお客様限定のブレンド紅茶なの」


「うう、残念です」


 しばし紅茶を楽しんだ面々だったが、店主の老婆が本題を切り出した。


「それで、今日はどんな商品をお求めかしら?」


「あの、大変申し訳ないんですが私達、ここには道に迷って来ただけなんです」


 メロディが告げると、店主は鷹揚に頷いた。


「そう。迷っているのね、人生という名の道を」


「え? いえ、普通に道に迷っただけなんですが……」


「……本当に?」


「「えっ?」」


 店主はすっと目を細くして、やや鋭くなった瞳で二人を見つめた。メロディとシエスティーナは思わず身構えてしまう。


「本当は何か困ったことでもあるのではなくて?」


「それは……」


 メロディは言葉に詰まった。直近の悩みといえば間違いなく魔法が使えなくなったことだろう。

 シエスティーナもまた言葉に詰まる。彼女にとって目下問題なのはシュレーディンの存在だ。

 悩みはある。しかし、二人とも気軽に口にできる問題ではなかった。店内に沈黙が下りた。


「ふふふ、それじゃあ、私が二人に相応しい商品を占ってあげましょう」


 そう言って店主はカウンターの下から水晶玉を取り出した。まるで占い師のように水晶玉に手を翳してじっと水晶玉を覗き込む。


「むむむ、見えてきた、見えてきたわ……あなた達が買うべきラッキーアイテムは、これよ」


 水晶玉を見終えた店主は店内の商品棚から一つ、カウンターの棚から一つ、商品を持ってくるとメロディ達の前に差し出した。


「あなたはこっちで、あなたはこれね」


 商品棚から持ってきたのは花柄のバレッタだった。差し出されたシエスティーナはバレッタをじっと見つめた。心なしか瞳がキラキラ輝いているように見える。


「シーナさん、付けてみますか?」


「え? あ、えっと…………うん」


 メロディの提案を、シエスティーナはしばし悩んだ末受け入れた。


「……ど、どうかな?」


「なんだか大人びて、さらに綺麗になったように見えますよ」


「あ、ありがとう……」


 店主から手鏡を渡されたシエスティーナは、バレッタで髪をまとめた自分の姿を色んな角度から眺めた。


「……私って、こんなふうになれるんだ」


「それを被っている時は、必ずそのバレッタを付けることをお勧めするわ。きっとあなたに幸運をもたらしてくれるでしょう」


「えっ!? その、ばれて……」


 シエスティーナはウィッグを両手で押さえた。店主はクスリと笑うと首を横に振った。


「とてもよく似合っているわ。私の目利きが良すぎるだけよ。バレッタ選びも完璧でしょう?」


 年齢を忘れて可愛くウインクをする店主。冗談まじりの言葉に、シエスティーナは思わずといった感じで笑ってしまった。


「……幸運が訪れるかはともかく、バレッタは可愛いと思う」


「あの、私のお勧めの商品はこれなんでしょうか?」


 メロディの前には、瓶詰めされた虹色のキャンディーが置かれていた。


「綺麗な飴ですね」


「舐めてもとっても美味しいのよ。よかったら今舐めてみる?」


「いえ、今はお腹が空いていないので、また今度」


「あら、そう? ……まあ、そう言うならそれでも構わないけど」


 メロディは首を傾げた。まるで老婆が「もったいない」とでも言いたげに見えたからだ。


「それでどうかしら、その飴。お買い上げいただける?」


「はい。お土産にちょうどよさそうです。おいくらですか?」


「私のバレッタもいくらかな?」


 二人が尋ねると店主は値段を教えてくれた。幸い、二人の所持金で支払える額だった。

 今まで長髪にしたことがなかったのでシエスティーナはバレッタの付け方が分からないらしい。購入後、メロディが指導し、何度か練習してシエスティーナはバレッタの付け方を習得した。


「よし、自分で付けられた」


「ふふふ、可愛いでしょ、シーナさん」


「ええ、本当に。とっても眼福ね」


 普段は侍女に任せることなので、自分でできることが思いの外嬉しかったようだ。ニコニコ笑顔でこちらを見るメロディと店主を前に、シエスティーナは誤魔化すおうに視線を逸らした。

 そして、店の正面にある大きなガラス窓から、外が日暮れ近いことに気が付く。


「そろそろ帰らないと」


「あっ、本当です。随分長くお邪魔してしまったみたいですね」


 シエスティーナは一旦バレッタを外し、店主がラッピングしてくれた。メロディも瓶にリボンを付けてもらい、お土産としては完璧である。


「今日は来てくれてありがとう。機会があればまたいらしてね」


「私こそありがとう。素敵なお土産が買えて嬉しいよ」


「今度はクッキーの瓶詰めも買いますね」


「ええ、よろしくお願いします」


 老婆は店の扉を開けた。メロディとシエスティーナは促されるままに雑貨屋を後にした。店主に手を振り、入り組んだ細い道を抜けて、市場へ続く通りに戻ることができた。


「ふふふ、シーナさんがお金を落とした時はどうなるかと思いましたけど、素敵な買い物ができてよかったですね」


「……それは本当に二人だけの秘密で頼むよ、メロディ」


 転がるお金を追い掛ける自分を客観的に想像し、シエスティーナは頬を赤らめるのだった。







 空が茜色に染まる頃、二人は貴族区画の入り口までやってきた。そして、シエスティーナは気が付いた。


「あ、うちの侍女だ」


「よかった。ちゃんと迎えた来てくれたんですね」


 遠目からシエスティーナに気が付いたらしい。馬車を背に立つカレナが一礼した。


「……ここでお別れかな。よかったら途中まで送るけど」


「ありがとうございます。でも、ここでお別れしましょう」


 メロディがそう告げると、シエスティーナは少しだけ寂しそうに微笑んだ。


「今日の私達はメロディとシーナ。その関係のままお別れしませんか?」


「……そうだね」


 偶然生まれた休日。こっそり抜け出した先で出会った少女との楽しい一日を、身分の違いで穢したくない。メロディの思いはシエスティーナにも伝わった。


「それじゃあ、ここでお別れだね」


「はい。よくないことかもしれませんけど、いつかまたお会いしましょうね、シーナさん」


「いつかまた、シーナとして会える日を楽しみにしているよ。今日はありがとう」


 シエスティーナはそっと右手を差し出した。メロディも右手を出し、二人は握手を交わす。


 そうして、二人は笑顔で別れを告げたのである。




◆◆◆




「おかえりなさい、メロディ! 休暇は楽しめた?」


「ただいま帰りました、お嬢様。お陰様で素敵な休日でしたよ」


「それはよかったわ。ところでそれ、何かしら?」


 ルシアナは調理台に置かれた小さな瓶詰めを見つめていた。雑貨屋で購入したキャンディーだ。


「たまたま見つけた可愛らしい雑貨屋で買ったキャンディーです」


「これ、キャンディーなの? 虹みたいですごく綺麗ね! それにとっても美味しそう!」


「よかったら一つ食べてみますか?」


「いいの? じゃあ、あーん」


「……お嬢様、はしたないですよ」


 ルシアナはメロディの前で口を開けて、キャンディーが放り込まれるのを待った。


「今日だけ、今日だけだから。一生のお願い!」


「またそんな、一生使い続けそうな言葉、どこで覚えてきたんですか。まったくもう」


 呆れつつも結局、メロディはルシアナの口にキャンディーを放り込むのであった。何だかんだ言ってもルシアナに甘いメロディである。


「んーっ、何これ美味しい! 何だかよく分からないけどすっごく美味しいわこれ!」


「ふふふ。大げさですね。じゃあ、私も一つ」


 瓶からキャンディーを取り出そうとした時だった。


「きゃああああああああああああああああああああああああああ!」


「な、何っ!?」


 屋敷の奥から甲高い悲鳴が鳴り響き、メロディは手を止めた。


「今のってお母様の声じゃない?」


「何があったんでしょう? 行きましょう、お嬢様!」


「うん!」


 メロディはキャンディーの瓶を調理台に置くと、マリアンナの下へ走り出した。







「わひゃーん!(待って、グレイルウウウウッ!)」


「わわわわーん!?(追い掛けてくるなと言ってるだろうが、あだあああああっ!?)」


 メロディ達が調理場を離れてすぐのことだった。ガルムによる一方的な追いかけっこに参加させられたグレイルが調理場へ駆け込んできた。


 そして、追ってくるガルムの方を振り向いた瞬間、余所見をしたまま走り続けたグレイルは、調理台に激突してしまったのである。


 その上、その衝撃で調理台の端に置いてあったメロディのキャンディーの瓶がグラグラ揺れたかと思うと、グレイルの頭上に落下してくるという悲劇が起きた。


「ぎゃわんっ!(ごばはあああっ!)」


「ひゃわん!?(グレイル!? だいじょうぶ?)」


 さすがのガルムもこの悲劇には心配そうな顔でグレイルを見つめた。頭は調理台に、悶絶している腹に瓶が落ちてきて、踏んだり蹴ったり状態のグレイルは……キレた。


「フギャワアアアアン!(ふざけるなああああああ!)」


 グレイルの全身から黒い魔力が迸る! ほとんどの負の魔力をメロディによって浄化されたので軽い物を持ち上げる程度の力しか行使できないが、キャンディーの瓶を運ぶには十分な力だ。

 グレイルは怒り任せに瓶を持ち上げると走り出した。その勢いにガルムは喜び、追いかけっこの続きとばかりに走り出す。


 そして、庭先まで来るとグレイルは力一杯キャンディーの瓶を庭に投げ込んだのである。


「わんわん、わわーん!(瓶詰めの分際で生意気なんだよ、死に晒せやああああああ!)」


「わっひゃあああんっ!(グレイル、かっこいいいいいいい!)」


 幸い、キャンディーの瓶は庭の低木の枝に引っかかり、瓶が割れることはなかった。瓶を全力投球したグレイルは魔力を使って疲れたので、ふらふらとした足取りでその場を去ってしまうのであった。


 まるで運命の強制力とでも言いたくなる出来事が、メロディの与り知らぬうちに起きていた。


「まさか田舎暮らしのお母様があれくらいで悲鳴を上げるとは思わなかったわ。たかがゴキ」


「お嬢様、それ以上その言葉は言っちゃダメです。忘れましょう。でも、我が家にあんなものが出てしまうなんて。まだまだ掃除不足でした。くっ、魔法が使えたら一発なのに」


「ああ、そっか。メロディの魔法洗浄がなくなったから増殖する隙ができちゃったのね」


(……あれ? でも、セレーナは洗浄の魔法を使っていないのかしら?)


 ルシアナは疑問に感じたが、魔法の力はメロディに及ばないことを思い出し、「そういうこともあるかもね」と一人で納得した。


「まあ、あまり気にしないで。とりあえずさっきのキャンディーでも食べて気持ちを切り替えましょう。あれ、すっごく美味しかったからメロディもびっくりするわよ」


「はい、楽しみですね……あれ?」


 調理場に戻ったメロディは首を傾げた……調理台にあるはずのキャンディーの瓶がないのだ。

「確かにここにおいたはず……」


 二人は調理場を捜し回ったが結局、キャンディーを見つけることはできなかった。


「がっかりね。どこに行っちゃったのかしら? また食べたかったのに」


「うう、私なんてまだ一粒も舐めてないのに」


(店主さんはこれが私のラッキーアイテムだって言ってくれたんだけどなぁ……)


 まだ見ぬキャンディーの味を想像しながら、メロディはため息をつくのであった。



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