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【アニメ化決定】ヒロイン?聖女?いいえ、オールワークスメイドです(誇)!  作者: あてきち
第8章

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第1話 チートを失った黒髪メイド

10/9 第8章全話一括公開!

「優しく照らせ『灯火ルーチェ』」


 王都のルトルバーグ邸。真っ暗な室内に可憐な声音が木霊した。しかし、小さな明かりを生み出す魔法はいつまで待っても発動することはなく、部屋は暗いままだ。


 声の主、メロディ・ウェーブの口から小さなため息が零れる。彼女は常備していたマッチで蝋燭に火を付けた。室内にようやくメロディの顔が浮かび上がると、彼女はベッドから立ち上がり窓のカーテンを開いた。


 十一月二十三日。春や夏であればこの時間でも既に青い空を拝むことができる頃だが、十一月の下旬ともなると見上げた先はまだ真っ暗だった。


「一晩経っても変化なしかぁ……」


 それは昨日のことだった。ルトルバーグ領へ帰るヒューバート達を見送った午後、ルシアナから強制半休を言い渡されたメロディは平民区画で偶然アンナと遭遇した。その際に突然、二人の前に大きなトカゲ型の魔物が現われたのだ。


 魔物が吐き出した黒い煙を吸ってしまい、なぜかメロディは魔法が使えなくなってしまった。いくらチートなメイド技能を持つとはいえ、魔法を使えなければメロディとて魔物には無力だ。

 幸い、突如現われた謎の銀髪少女に助けられ危機は去ったが、一晩明けた今朝になってもメロディは魔法が使えないままであった。


(どうして魔法が使えないのかな。あの煙が何らかの毒だったとして、どんな原理で私の魔法を封じてるんだろう……?)


 つい考え込みそうになるが、メロディはそんな場合ではなかったことを思い出した。


「いけない。お嬢様を起こしに行かなくちゃ」


 魔法が使えなくてもメイドの仕事は待ってはくれない。何よりそんな悩み事を考えるよりメイド業務に思いを馳せる方が建設的だ。メロディは振り返るとクローゼットに向かうのだった。






「おはようございます、お嬢様」


「うーん、おはよう、メロディ……暗いわねぇ」


 メロディに起こされたルシアナは、窓の向こうの薄暗い景色を眺めながらポツリと呟いた。


「ふふふ。最近は毎朝それですね」


「しょうがないでしょ。いつもと同じ時間だって分かってるけど、こうも暗いとまだ寝足りない気分になるんだもの。それに寒いし。早く春になってほしいわ」


「まだ雪も降っていないのに気が早いですね。お嬢様、紅茶をどうぞ」


 メロディは目覚めの紅茶をルシアナに差し出した。


「ありがとう。うちの領地は十二月になったら結構積もるけど、王都は時々降る程度らしいわよ」


「毎朝の雪かきは大変でしょうからそれは助かりますね」


「大丈夫よ。たとえそうなってもメロディの魔法があれば一発でしょ」


 何でもなさそうな声音でそう言うと、ルシアナは暖かい紅茶に口を付けた。メロディは困ったように難しい表情を浮かべていた。


「……うーん、それは、どうでしょう」


「どうかした? まさか、メロディの魔法でも雪かきって大変だったりするの?」


「いえ、そんなことはないんですけど、ただ……」


「ただ?」


 ルシアナはキョトンと首を傾げた。


「今私、魔法が使えないので雪かきは手作業で頑張るしかないかなと思いまして」


「へぇ、そうなんだ。大変ね」


 頬に手を添えて愚痴るようにため息をつくメロディに相槌を打つと、ルシアナはティーカップに口を付けた……のだが。


「……ん?」


 紅茶は唇に触れたものの、喉を通ることはなかった。


(……今、メロディは何て言った? 確か――)


『今私、魔法が使えないので』


「……え?」


「お嬢様、そろそろお急ぎください。今日はお屋敷から登校するのであまり時間がありませんよ」


「あ、うん、そうね。遅刻したら大変。急がなくちゃ…………じゃなあああああああい!」


「お嬢様っ!?」


 ルシアナは飲みかけの紅茶をメロディに返すとそそくさとベッドから立ち上がる素振りを見せ、途中で大声を上げた。メロディ、びっくりである。


「メロディ、魔法が使えなくなったってどういうこと!? 一体何があったの!?」


「きゃあっ! お嬢様、紅茶が零れちゃいます、落ち着いてください!」


「落ち着いていられるわけないでしょう! こうしちゃいられないわ。お父様、お母様!」


「お、お嬢様、どちらへ!?」


 勢い任せにメロディを問い詰めたルシアナだが、埒が明かないとばかりに寝間着姿のまま部屋を飛び出してしまった。

 ルシアナの変わりようについていけず、メロディはティーカップを持ったまま呆然と扉を眺めていた。


 そして、もう第何回目だったか、ルトルバーグ伯爵家緊急家族会が開催されたのである。




◆◆◆




「時間がないので手短に済ませよう。メロディ、魔法が使えなくなったというのは本当かい?」


 急いで伯爵一家の朝食を済ませ、食堂には屋敷の住人が揃っていた。ヒューズが音頭を取り、メロディに尋ねると彼女はコクリと頷く。


「はい。実は――」


 メロディは昨日の出来事を皆に聞かせた。リアクションに差はあれど、全員驚いている様子だ。

 ヒューズはこめかみを押さえて悩ましげに口を開いた。


「……メロディの魔法が使えないことも問題だが、何よりまず、王都に魔物が現われたことが大問題だ。通報などはしてあるのかい?」


「その件についてはアンナさん、居合わせたヴィクティリウム侯爵家のメイドから報告することになっています。向こうで対処するので口外しないでほしいと頼まれまして」


「そうか、侯爵家が。なら、そちらは問題ないか」


 アンネマリー・ヴィクティリウムが王太子クリストファーの婚約者候補筆頭であることは周知の事実。『貧乏貴族』などと揶揄されるルトルバーグ伯爵家からよりも、未来の王妃の実家から報告が上がる方が国としても対処しやすいだろう。


 夏の狼型に続いてトカゲ型の魔物が王都に現われた。その事実は不用意に口外できない。そんなことをすれば王都の住人がパニックを起こしても不思議ではないからだ。

 魔力を持たない一般人は魔物に対して無力だ。侵入経路も分かっていない状況で情報が一人歩きしたら、何が起こるか誰にも予測することはできない。慎重になるのも当然のことだろう。


(ヴィクティリウム侯爵家が動くなら、私が無闇に関わるべきではないな)


 ヒューズは一人納得すると小さく首肯した。


「とすると、やはり問題はメロディの魔法か。確か、変な煙を吸ったせいだって?」


「おそらくそれが原因だと思います。煙を吸った直後から魔法が使えなくなったので」


「……メロディの魔法を封じられるとは、なんて恐ろしい魔物なんだ」


 メロディの魔力が王国の筆頭魔法使いを圧倒的に凌駕していることは、ルトルバーグ家では周知の事実である。そんな強大な力を持つメロディの魔法を一介の魔物がどうやって封印したというのだろうか。


 表情を険しくするヒューズとは対照的に、ルシアナは不思議そうに首を傾げた。


「でも、その魔物ってもう倒されてるのよね? なんかよく分からない変な女の子の魔法で」


「うぐっ! へ、変な女の子……」


「何か言った、マイカ?」


「いいえ、何でもないです!」


「そう? で、どうなの、メロディ?」


 何だかちょっと傷付いたように胸を押さえるマイカを余所に、ルシアナはメロディに尋ねた。


「はい。実は、何か魔法が掛かっていたのか顔を思い出せないんですけど、幼い少女だったと思います。魔法の一撃で魔物を倒していました」


(何となく、私の魔法にちょっと似てる気がしたけど、気のせいかなぁ?)


「魔法の一撃で魔物を倒すなんて……まさか、メロディ級の魔法使いなの、その子?」


「さすがにそれはないんじゃないですか。そんな人がポンポン現われるわけありませんよ」


「……まあ、そうよね」


 ルシアナが告げた一つの可能性をマイカは否定した。何だかちょっと焦っているように見えなくもないが、きっとルシアナの気のせいだろう。


「それでメロディ、魔法を取り戻す方法はあるのかしら?」


 マリアンナが問うと、メロディは眉尻を下げて首を横に振った。


「今のところどうしたらいいのか分かりません」


「メロディ先輩の魔法でどうにかできないんですか?」


「……マイカ、メロディは魔法が使えないんだぞ」


「え? あ、そっか。すみません」


 リュークに窘められたマイカは恥ずかしそうに頬を赤らめた。


 メロディなら魔法が使えない状態も魔法でどうにかできるのではと、つい思ってしまうのだ。何となくマイカの気持ちが分かってしまい、みんな仕方なさそうに苦笑を浮かべていた。






 結局、メロディの魔法については様子見をするという意見でまとめることしかできなかった。

 元々魔法に疎いルトルバーグ伯爵家に参考文献などあるはずもなく、この場で最も魔法に詳しいメロディがお手上げでは、ここにいる誰にもできることなどないのだった。


「とりあえず、時間経過で改善しないか待ってみることにします」


「しばらくは屋敷で過ごすの?」


 ルシアナの問いにメロディはコクリと頷いた。


「はい。魔法が使えない状態ではどこまでお嬢様の役に立てるか分かりませんし、まだマイカちゃんの魔法訓練も途中ですから。しばらくこちらで様子を見てみようかと」


「そう、残念ね」


「セレーナ、お嬢様のことをお願いね」


「お任せください、お姉様」


 柔和な笑顔を浮かべてセレーナは了承した。


 そして会議は終わり、全員が慌ただしく動き出す。


「セレーナ、お嬢様の着替えを手伝ってちょうだい。リュークは旦那様を、マイカちゃんは奥様をお願い。私は馬車の方を見てくるわ」


「畏まりました、お姉様」


「分かった」


「分かりました!」


 仕事をしながらマイカは考える。


(やっぱりシャドウゲッコーの魔法封じはゲーム設定通りみたい。だとすると、アイテムで回復しない限り、メロディ先輩の魔法は封じられたままだ)


 メロディを襲った魔物、シャドウゲッコーは乙女ゲーム『銀の聖女と五つの誓い』においても同様の魔法封じの能力を有していた。そして、その効果はゲーム内の回復アイテムを使用することでしか状態異常を治療する手段がない、永続効果であった。


 ゲームの設定通りであれば、どれだけ様子見をしたところでメロディは魔法を取り戻すことはできない。それは、ゲーム知識を持つマイカだけが知っている情報であった。


(王都に魔物が現われたということは、魔王の暗躍が進んでいるということ。そんな状況で聖女であるメロディ先輩が魔法を使えないままなんてヤバすぎる! 早くどうにかしなくちゃ!)


 マリアンナの着付けをしながら、マイカはキュッと眉を寄せた。


(見つけないと。状態異常を回復するアイテムを売っている店『不思議な雑貨屋』を!)


「マイカ、ちょっと痛いわ」


「あ、ごめんなさい!」


 意気込むあまり服を引っ張ってしまったようだ。マイカは謝罪すると仕事に専念した。


 そうして、メロディの魔法が使えない不便な生活が始まった。






 一週間後――。


「……あれ? 特に困らないな」



 ――メロディは不思議そうに首を傾げるのであった。


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