超番外編 その知らせは青天の霹靂に!
ルシアナ番外編の途中ですが、超番外編を挿入します。
マジびっくり!
本日、五月十二日。正午を迎えたルシアナは「昼食はまだかなぁ?」なんて考えながら、今日も勉学に励んでいた。
入学式の夜、春の舞踏会で起きた襲撃事件のせいで、せっかく入学した王立学園は二ヶ月間の休校となり、ルシアナは学園から届いた教科書で予習をしておかなければならないのだ。
うっかりさぼろうものなら、我が家の超有能スパルタ家庭教師メイドが常に背後にスタンバって勉強するはめになりかねないので、ルシアナはそれはもうしっかりと勉強をしていた。
一通り勉強を終え、小さくふぅと息を吐いたところで自室の扉をノックする音が響いた。
「お嬢様、失礼します」
「あら、メロディ。そろそろお昼かしら。お腹が減っちゃった」
現われたのはルトルバーグ家のオールワークスメイド、メロディだ。彼女はティーセットとお菓子を載せたワゴンを押して入ってきた。
「申し訳ありません、お嬢様。先程お客様がいらして、その対応をしていたので昼食の準備が少し遅れているんです」
「そうなの? メロディにしては珍しいわね」
「手紙の配達にいらしたみたいなんですが、開封は今日の正午を過ぎてからだと何度も念押しされまして。分かったと何回も返事をしたんですがなかなか帰ってくれず……何だったんでしょう、あの人?」
メロディは腕を組んで難しそうな顔で首を傾げた。
「やっぱり人手不足は深刻ね。早く誰か募集に引っかかってほしいわ。メロディに負けず劣らず超優秀なメイドとか、見習いでもいいから元気で楽しいメイドとか、経験がなくても器用にこなせる執事見習いとか、誰か一人でも入ってくれたらメロディも楽になるんだけどなぁ」
「そんな人達がいてくれたらきっと楽しい職場になりそうですね」
メロディとルシアナは可笑しそうに笑い合った。
五月上旬現在、商業ギルドに出したルトルバーグ家の求人に応える者はまだ見つかっていない。
「というわけで、今も『分身』が調理中なんです。もう少し掛かりそうなので、よかったらお茶を召し上がりませんか?」
「いただくわ。お腹がペコペコだったの。いつ私のお腹と背中がくっついちゃうかと心配していたくらいよ」
「お嬢様、そんなどこかの童謡みたいな言い回し、どこで覚えてきたんですか? まあ、いいですけど。今日はいつもの森で大きな雌鶏を見つけまして、これまた大きな卵をひとつ分けてもらえたんです。それでプリンを作ってみました」
「うーん、デリシャス!」
ちなみに、大きな雌鶏の体高は三メートルくらいあったとだけ伝えておこう……。
「底に入ってるほろ苦甘いソースも最高ね!」
「材料のグラニュー糖はちょっとお高いですが、やっぱりプリンにカラメルソースは不可欠ですから。卵が大きくておかわりも作ってありますから、夕食のデザートにでも出しますね」
「えー、お昼のデザートでいいじゃない」
「今食べたばかりじゃないですか。どんなに早くても三時のおやつですよ」
「じゃあ、それで食べるわ。よろしくね、メロディ!」
「もう、お嬢様ったら」
プリンを食べながら次のプリンを楽しみにするルシアナの無邪気な様子に、毒気が抜かれたメロディは可笑しそうに苦笑するのだった。
「ところで、その手紙って誰宛てのものだったの?」
「一応、私ですよ。ただ、ちょっと聞き覚えのないところからだったので、開封するか迷っていまして」
「へぇ、どこからなの?」
「TOブックス編集部というところです」
「ふーん、てぃーおー……ん?」
「どうされました、お嬢様?」
何やら言いよどむ素振りを見せたルシアナに、メロディはキョトンとした顔で首を傾げた。
「いや、うん、よく分からないけど、何となく、危険な香りがして……」
「危険? もしかして何かの悪徳組織とかなんでしょうか。名称的に出版社の類いかと思っていたのですが」
「う、うーん、私もちょっとよく分からないわ。もう正午を過ぎてるんだし、手紙を読んでみたら?」
「そうですね。詐欺グループとかだったら通報しないといけませんし」
メロディはエプロンのポケットから封筒を取り出すと、サッと手紙を開いて読み始めた。
「……拝啓 新緑の候、すがすがしい好季節の折……時候の挨拶は飛ばして。えーと、あ、ここからが本題ですね……【このたび、あてきち著『ヒロイン? 聖女? いいえ、オールワークスメイドです(誇)!』のアニメ化が決定しました。それにつきまして、出演者の演技指導に関するミーティングを後日行いたいと――】……アニメ化?」
「あにめ化?」
「「「「「「「アニメ化!?」」」」」」」
「「きゃああああああああああああっ!?」」
メロディとルシアナは悲鳴を上げた。いきなり「アニメ化!?」と叫びながらたくさんの人達がこの部屋に集まってきたからである。
「マジかよ、アニメ化だってよ! つまり、俺が歌って踊るってことだろ! どうすんだ、女の子達にきゃあきゃあ騒がれちまうぞ」
「お兄ちゃん! いくら王太子様の顔がよくったって中身はお兄ちゃんなんだからモテるわけないでしょ!」
「マイカちゃん、仕方のないことだけど色々メタメタね……でも、私達がアニメになるなんて!」
ルシアナのクローゼットから突然、三人の人物が現われた。クリストファー、マイカ、アンネマリーである。時系列や設定をガン無視して、元日本人の転生者グループの登場である。
「なんでうちのクローゼットからクリストファー様達が」
「マイカちゃんはまだ孤児院にいる時期のはずなのになぜいるんでしょう? というか、私の発言何かおかしくないですか、お嬢様?」
「分かんないわよ!」
◆◆◆
「ちょっと旦那様! アニメですって! これはチャンスですよ!」
「チャ、チャンスと言われても……何がチャンスなんだ?」
なぜこの場にいるのかという問題はあるが、普通に部屋の扉から姿をみせたポーラとレクトの二人である。
「思い出してください、旦那様。メロディと屋敷で再会した日のことを」
「メロディと再会って、それは……」
「そう! アニメになるってことは色っぽい肉声がついて、つやっぽい色が塗られて、それがぬるぬる動くんですよ。つまり、お風呂場でメロディと再会したシーンがアニメでばっちりくっきり」
「お前は何を言ってるんだあああああああっ!」
「……レクトさん」
「メ、メロディ!? ち、違うぞ。これはポーラが言ってるだけで」
「あの記憶は忘れたはずですよね? 覚えているのなら、また忘れてもらわないと」
メロディの手に紫電が走る。
「メロディ、やめ――」
「全てを忘却の彼方へ『記憶消去』!」
「ぐわああああああああああああああ!」
「はぁ、旦那様ってば美味しい役よね。羨ましいったらないわ♪」
◆◆◆
「やれやれ、普通、俺はクリス達と一緒に登場するんじゃないのかな」
「私は一緒にいてくださって心強かったです」
「貴族令嬢にベランダから乗り込ませようとするのは少々無理があるのではないでしょうか」
「マクスウェル様、ルーナ、それにオリヴィア様まで! 不法侵入ですか!?」
ベランダから現われた三人にルシアナは驚きを隠せない。
「やあ、ルシアナ嬢、アニメ化おめでとう」
「えーっと、ありがとうございます?」
「ドキドキするわね、ルシアナ。今から緊張しちゃうわ」
「ルーナったら大げさね」
「大げさでなくてよ、ルシアナさん。私も同じ気持ちよ」
「オリヴィア様まで?」
ルシアナが首を傾げると、二人は意を決したように声を揃えた。
「「だって私達、アニメでルシアナ(さん)を罵倒しないといけないんですもの」」
「言われてみれば最初、二人とも敵キャラだった! なんかヤダー!」
「俺はルシアナ嬢とダンスの練習を頑張らないとね。一緒に頑張ろう」
「それはそれで恥ずかしすぎるのでなんかイヤですうううううう!」
◆◆◆
(……なんというカオス。魔王の力でもここまで混沌を呼ぶことはできんぞ)
ルシアナのベッドを昼寝場所にしていたグレイルは、突然のこの状況を呆然とした様子で眺めていた。レクトに電撃を浴びせるメロディ。顔を赤くして「イヤー!」と叫ぶルシアナ。
他にも設定を無視して仲良くおしゃべりしている幼馴染三人組に、部屋の外から「ぬおー! いっぱいで入れないいいいいい!」と叫ぶ、この屋敷の主であるヒューズとマリアンナの声が聞こえたり。
(関わりたくない……)
グレイルは素直にそう思った。部屋を出た方がいいだろうかと逡巡していると、ベッド下から声が聞こえ始めた。
「アニメ化っすよ、アニメ化。凄いっすね、リューク!」
「……俺は別に」
「嬉しいっすね、セレディアちゃん、シエスティーナ。ぬるぬる動いて決めポーズする俺を二人にみせちゃうっすよ!」
「えっと、それは……ど、どうなんでしょう、シエスティーナ様」
「う、うん……どうなのかな、セレディア嬢」
ベッド下に潜り込んでいたのは、シュウ、リューク、セレディア、シエスティーナの四人だった。よく四人もベッド下に隠れられたものである。
「なんかテンション低いっすね。どうしたっすか?」
「「えーと……」」
キョトンとした無邪気な顔で首を傾げるシュウ。女子二人は何とも言いがたい複雑な表情を浮かべていた。シュウはリュークに向き直って尋ねる。
「どういうことっすかね、リューク」
「……分からんが……お前、出番あるのか?」
「…………え?」
シュウは石像のように固まってしまった。
「お、おれ、出番ないの?」
「いや、分からんが」
「一般的なアニメの尺を考えると、初登場が原作三巻のシュウはまだ可能性がありそうだが」
「四巻が初出の私とシエスティーナ様は、今回のアニメでは少々厳しい気がします」
セレディアは残念そうに俯き、シエスティーナは仕方なさそうに苦笑した。
「ガーン! 神様、俺に出番を! ……リュークは、出番は?」
「……子供の姿でいいなら一巻から出ているな」
「やられたっす! 裏切り者おおおおおおおおおお!」
「いや、知らんし」
◆◆◆
ベッド下から聞こえるやりとりに、グレイルはもう部屋から出たいと思った。
そっとベッドから下りようとしたところで、グレイルはメロディにつかまってしまう。
「きゃいん!?」
「もう、出て行っちゃだめでしょ、グレイル。みなさん、集まってくださーい!」
メロディが呼び掛けると、全員が部屋の中央に集まってくる。
「よーし全員揃いましたね。じゃあ、皆さんこのまま天井を見上げてください」
メロディがそう告げると、全員が静かに天井を見上げ始めた。
もし天井にカメラでもあれば、こちらを見上げるメロディ達の俯瞰映像を見ることができるだろう。メロディはルシアナにグレイルを預け、手紙を広げて口を開いた。
「というわけで、『ヒロイン? 聖女? いいえ、オールワークスメイドです(誇)!』がアニメになることが決定しました。今日はその情報が解禁されただけなので、詳しい情報が分かったらあとがきやSNSで公開します。楽しみにしていてくださいね!」
「「「「「「「お楽しみに!」」」」」」」
メロディが手を振ると、他の者達も倣って天井に向かって笑顔で手を振り始めた。
それがしばらく続き、ようやく全員の手が下りる。
「……で、この茶番は何なの、メロディ?」
呆れた顔のルシアナが尋ねた。
「手紙にこうしてほしいって書いてあったんですよ。営業の一環らしいです。そういえば、アニメ化を記念してこの作品の特設サイトを作ってもらえるそうですよ。完成したら見てみましょうね」
「絶対見る! 楽しみー!」
「超営業しますね、お二人とも……」
「あら、マイカは楽しみじゃないの? ところでアニメ化記念のティザービジュアルは私とメロディのツートップなの。マイカもしっかり営業すれば、どこかで描いてもらえる可能性も」
「メッチャ楽しみですー! みんな、特設サイトやSNSを盛り上げていこうね!」
「我が妹ながらホントに現金なこって」
ノリのいい妹にクリストファーは苦笑いを我慢できないのであった。
「あれ? そういえばセレーナを見てないけど」
メロディは周囲を見回すがセレーナの姿はどこにもない。それに答えたのはレクトだった。
「彼女ならレギンバース伯爵閣下と一緒にいるぞ」
「伯爵様と?」
「なんか、設定的にメロディと同席するのは気まずいと仰って、庭にいるんだ。セレーナは一人にしておくのが忍びないといってお茶の相手をしていたぞ」
◆◆◆
「どうぞ、伯爵様」
「あ、ああ、ありがとう……」
セレーナが淹れてくれた紅茶を一口飲み、クラウドはちょっとドギマギしてしまう。
(メロディは当然として、この娘と一緒にいるのも正直気まずいのだが)
アニメ化記念の影響で、設定情報がフリー解禁されているため、セレーナと一緒にいることも恥ずかしいクラウドだった。
「第8章ではよろしくお願いしますね、伯爵様」
「あ、ああ、そうだな……そんなことを今言って、大丈夫か? ネタバレとか」
「ふふふ、これくらい大したことないから問題ないわ……ね? ク・ラ・ウ・ド♪」
「――っ!?」
清楚に微笑むセレーナとは異なり、気安い雰囲気で彼の名を呼ぶ彼女の様子に、クラウドは思わず息を呑んでしまった。
「セレ、んぐっ!」
「どう? プリンは美味しい?」
口内に甘いもほろ苦いプリンを放り込まれ、クラウドはしゃべるのをやめた。
「はい、もう一口」
差し出されるスプーンの魅力にあらがえず、クラウドはそっと口を開くのだった。
というわけでオールワークスメイドがマジでアニメ化です。
CAST
メロディ:宮本侑芽さん【ガンダム 水星の魔女 ニカ・ナナウラ役等】
ルシアナ:大久保瑠美さん【推しの子 MEMちょ役等】
STAFF
制作:EMTスクエアード
読者の皆様が作品を応援してくださったおかげでアニメ化が決まりました。
誠にありがとうございます。
メイドの特設サイト以外にも、アニメ公式SNSとか出ると思いますのでぜひフォロー等していただいて作品を盛り上げていただけると嬉しいです。
放送日等、詳細が分かり次第お知らせします。
あとあと!
最新小説7巻とコミック6巻は5月15日発売です!
オーディオブック2巻も5月15日配信スタートです!
よろしくお願いします♪




