その味は受け継がれて
「あっ、おかえりなさい、レクトさん」
「メロディ?」
仕事中、忘れ物に気が付いたレクトは屋敷に帰ってきた。そしてそこには、なぜかメロディの姿があった。調理場でポーラと料理をしていたらしい。
といっても、テーブルに並んでいるのはサンドイッチが中心だが。不思議そうに首を傾げるレクトに、メロディが答えた。
「お弁当のメニューの試作をしてるんです」
近いうちにルトルバーグ家では山へ遊びに行く計画があるらしく、これらはお弁当の試作品なんだとか。
「せっかくだから目新しいものを作りたいと思って、今日は朝から市場を見て回っていたところにポーラと会ったんです」
「私がうちで試作をしようって提案したんですよ。旦那様もいない時間だからちょうどいいと思いまして」
なぜか自慢げに語るポーラにレクトはムッと眉根を寄せた。
「……俺がいる時でも別に問題ないだろう」
「大ありですよ。私達が真面目に試作してる最中にチラチラこっちを窺われたらうっとうしくて仕方がないじゃないですか」
レクトは反論できなかった。たぶんポーラが言うとおりになると思われるので。
「でもポーラ、試食してくれる人がいると助かるわ。レクトさん、よかったら食べてみて感想をいただけますか?」
テーブルには何種類かのサンドイッチが並んでいた。
どれを食べようかレクトは少し悩む。
「定番のたまごサンドとハムサンドは私が作りました。こっちのフルーツサンドはポーラのおすすめです。この果物は私も初めて見るので、後で私も作ってみるつもりです」
メロディが説明してくれるので、レクトはたまごサンドを手に取った。ポーラ作のフルーツサンドはレクトも初めて見たので新鮮な印象だが、そんなことよりメロディ作のサンドイッチである。
「美味いな」
「ありがとうございます」
「ああ、美味い……いや、うん……ホントになんでこんなに美味しいんだ?」
「分かります、旦那様。なぜか凄く美味しいんですよね」
お世辞ではなく本当に不思議なくらい美味らしい。
メロディは自慢げに胸を張った。
「ふふふ、母の秘伝のレシピです。あとでポーラにも教えてあげるね」
「いいの? ありがとう、メロディ! んーっ、美味しい♪」
メロディに礼を告げ、たまごサンドを頬張るポーラ。サンドイッチをパクパク食べるレクトにつられてしまったようだ。
「ところでレクトさん、お仕事はいいんですか?」
「はっ、そうだった。すぐに戻らなくては」
三つ目のサンドイッチを食べ終えて、ようやく目的を思い出したレクトは忘れ物がある自室へと走り出した。そして、すぐに調理場へ戻ってくる。
「すまないが俺はこれで失礼するよ。メロディ、ゆっくりしていってくれ」
「はい。あとこれ、よかったらお昼にどうぞ」
メロディはサンドイッチを詰めたバスケットをレクトに渡した。調理場を離れているわずかな間に用意したらしい。
「一応、木皿を入れておいたので必要なら使ってください。お仕事、頑張ってくださいね」
ニコリと微笑むメロディからバスケットを受け取ると、レクトはそれを大事そうに抱えてレギンバース邸へ急ぐのであった。
◆◆◆
レギンバース邸に到着すると、すぐにレクトは執事に声を掛けられた。どうやら急ぎの案件があってクラウドが呼んでいるらしく、すぐに来てほしいそうだ。
レクトはバスケットを手にしたまま執務室へ向かった。
「――ということでよろしく頼む」
「承知しました」
急ぎの案件が恙なく片付き、レクトは安堵の息を零す。
「それでは閣下、失礼します」
「ああ……ところで、さっきから何を大事そうに抱えているんだ?」
ジッとクラウドが見つめる先にあるのは、メロディの手作り弁当である。途端にレクトは気まずい表情を浮かべた。何せ彼が持っているのは、クラウドの実の娘の手作り弁当なのだから。
「……これは、先程忘れ物を取りに戻った際に渡された、私の昼食です」
「ああ。そういえばもうそんな時間か」
「閣下は、昼食は……」
「まだだな。この案件が終わってから食べるつもりだ。レクトは先に食べてくるといい」
今取り掛かっている案件が片付くのは、おそらくまだ数時間はかかるだろう。クラウドは気にした様子もなく執務を再開させたが、レクトは気にせずにはいられなかった。
『お仕事、頑張ってくださいね』
笑顔でそう告げた少女の顔が思い浮かび、レクトはバスケットを持ってクラウドの前に立った。
「……どうした?」
「閣下、こちらよかったら少し置いていきますので仕事の合間にでもお召し上がりください」
バスケットから木皿を取り出し、そこにたまごサンドとハムサンドを数枚並べる。
「サンドイッチか」
「ええ、とても美味しいのでよかったら」
「……気を遣わせてしまったな。ありがたくいただこう」
「では、失礼します」
レクトは一礼するとやっぱりバスケットを大事そうに抱えて執務室を後にした。
机に置かれたサンドイッチを眺めながら、せっかくの部下からの厚意を無下にできないと、たまごサンドに手を伸ばした。
「……美味い」
クラウドの口から思わず感想が漏れた。想像以上の美味しさに驚く。
だが、それよりも――。
(この味、以前どこかで食べたことがあるような……どこだったか……)
どうしても思い出せないまま、クラウドはサンドイッチを完食するのであった。




