常勝無敗のチェックメイト
「チェックメイト」
ある日の放課後、シエスティーナは教室で女子生徒とチェスを楽しんでいた。何名かのクラスメートも盤面を観戦している。
「負けましたわ。これでもチェスには自信があったのですが」
「君は十分強かったよ。ただ、ここの駒を取られていたら、負けていたのは私かもしれないね」
「そこの駒を? ……ああ、なるほど。むむむ、対局中に気付けなかったのが悔やまれますわ」
優雅に微笑みながら感想戦を行うシエスティーナ。周囲も「なるほど」と感心した様子でシエスティーナの意見を聞いていた。
(少々はしたないけれど、やはり勝負に勝つのは気持ちいいな)
つい先日実施された抜き打ち試験では一位を取ることができなかった。まさか平民の少女にその座を奪われてしまうとは。
顔には出さなかったがシエスティーナはそれを悔しく思っていた。チェスの相手をしてくれた女子生徒には少々悪い気もするが、おかげで少し気が晴れたようだ。
しかし、そんな彼女の前に新たな試練が迫ってくる。
「あれ? 皆さん、何をされているんですか?」
なんと言うことでしょう、敗北相手セシリア・マクマーデンの登場である。
「シエスティーナ様とチェスをしていましたの」
「チェスですか。そういえば最近(前世以来)打っていませんね」
「まあ、セシリアさんもチェスを? お強いのかしら」
「それなりに打てるとは思いますけど」
「シエスティーナ様、よろしければセシリアさんとも対戦してみませんか」
「そ、そうだね……どうかな、セシリア嬢」
「シエスティーナ様さえよろしければ」
やっぱりそうなるか。シエスティーナは内心で嘆息した。
女子生徒が席を立ち、かわってセシリアが腰掛ける。周囲のクラスメート達は静かになって二人の対局を観戦し始めた。
「よろしくお願いします、シエスティーナ様」
「ああ、よろしく、セシリア嬢。……ところで、これまでの君の戦績を教えてもらっても?」
「戦績ですか? 申し訳ありません。考えたこともなかったので何とも……」
「そ、そうだね。では始めよう」
二人の一戦が始まった。
「……そういえば、負けたことってあったかな?」
セシリアの囁くような呟きを聞き取れたのは、対面に腰掛けるシエスティーナだけであった。
◆◆◆
「チェックメイト」
「……負けました」
当然のように、セシリアの勝利であった。終始セシリアのペースだったと言って差し支えないだろう。観戦していたクラスメート達も目をパチクリさせて驚いている。
「……お強いですね、セシリアさん。シエスティーナ様はどうすれば勝てたのでしょう?」
女子生徒が尋ねると、セシリアはしばし考えて駒を動かし始めた。
「えっと、おそらく二十八手前のここで――」
「そんなに前に戻らないと勝てませんの……?」
女子生徒は驚くが、いざ感想戦が始まると納得するしかない手順であった。定跡を応用したその打ち方には感心するしかない。
悔しい。
そう思いつつも、感想戦を見せられればシエスティーナは敗北を認めざるを得なかった。周囲に気取られぬ程度に小さく息を吐き、皇女に相応しい華やかな笑顔を浮かべる。
「ありがとう、セシリア嬢。この敗北を糧にもっと精進しようと思う」
シエスティーナがそう告げた直後だった。新たな人物が教室に入ってきた。
「あれ? 皆さん、何をしてるんですか?」
ルシアナである。午後の選択授業を終えて教室に戻ってきたらしい。
「シエスティーナ様とチェスをしていました」
「セシリアさんとシエスティーナ様が? 私、一応ルールは知ってるんだけど、チェスをやったことはないのよね」
「……だったら、セシリア嬢と対局してみるかい、ルシアナ嬢?」
「セシリアさんとチェスですか? わあっ、やってみたいです! いい? セシリアさん」
「構いませんよ」
セシリアと盤上遊戯をできることが嬉しいのか、ルシアナは笑顔で席に着く。
先程の対局を見ていた面々は生暖かい目で盤面を見つめた。セシリアの技量を見た後では、今回初めてチェスを打つルシアナが勝てるわけがないことを理解しているからだ。
きっと圧勝するか、囲碁でいうところの指導碁のような対局になるだろうと、皆が思っていた。
「あれ? これってチェックメイトじゃない?」
「……負けました」
対局はルシアナの勝利に終わった。シエスティーナを含めた観戦者全員が驚きを隠せない。
盤面は終始ルシアナのペースだった。定跡ひとつ知らない彼女によるカオスな蹂躙劇である。
彼女が定跡を知らないだけの初心者ならセシリアは簡単に勝てただろう。しかし、ルシアナの勝負勘は理不尽に鋭かった。よく分からずに打ちながら、ここぞというところには対処を要する一手を打ってくるのでセシリアは終始翻弄されっぱなしだったのである。
他の手にも意味があるのではと考えすぎてしまったことが最大の敗因だろう。気付けばルシアナだけが見抜いた隙を突かれ、セシリアは敗北してしまったのだ。
「もう一戦しましょう、ルシアナ様」
「えー? うーん、次やったら負ける気がするからやらないわ」
「そんなぁ……」
ガックリ項垂れるセシリアの姿は、ついさっきの自分の心を表わしているようだとシエスティーナは思った。
(彼女も負けたら悔しいんだな……)
何をやっても勝てない少女をどこか雲の上の人のように思っていたらしい。シエスティーナはそれが可笑しくてクスリと笑ってしまうのだった。
【comicコロナ】
コミック版オールワークスメイド第25話①
3月31日(月)11時まで公開です。よろしくお願いします!
https://manga.nicovideo.jp/comic/52849?track=official_list_s1
◆◆◆
【Audible】
オールワークスメイド オーディオブック
第2巻は5月15日(木)配信予定です。
https://audible.co.jp/pd/B0DW42GRZR
第1巻のレビューもお待ちしてます。
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