ほんのり甘いフレンドシップ
「お久しぶりですね、マックスさん」
「ああ、ひさしぶり、メロディ」
偶然街で再会したメロディとマクスウェル。せっかくだからと、二人は最近開店したばかりのカフェに立ち寄った。開店したばかりなこともあって来客が多く、うっかり人とぶつかった拍子に転んだマクスウェルが数秒気絶してしまうアクシデントはあったものの、二人は無事席に着く。
「それにしても、マックスさんが平民区画にいるなんて驚きました」
「時々遊びに来ているんだ。貴族区画を見ているだけじゃ見識が広がらないからね」
今のマクスウェルは貴族の服装ではなく、ちょっと裕福そうな平民の格好をしている。クローシュハットを被り、眼鏡をかけて顔を隠してもいるが、整った容姿を隠し切れてはいなかった。
椅子に腰掛ける佇まいに品があり、一部の女性客がチラチラとこちらを窺っている姿がメロディの視界にも入ってくる。さすがに声を掛けてくるような無粋な人はいないようで、メロディは内心で安堵していた。
「ところで、メロディは今日は休みかい?」
「ええ、そうなんです……二週間ほど休みなしで働いていることがお嬢様に知られてしまって、強制休日になってしまったんです」
ずーんと落ち込むメロディに、マクスウェルはなんと返してよいか分からなかった。
「ま、まあ、そのおかげでメロディと会えたんだから、俺は嬉しいよ」
「……そうですね。マックスさんとゆっくりお話するなんて本当に久しぶりですものね」
気持ちが持ち直したのかメロディが笑顔を浮かべてそう言った。ホッと安心してマクスウェルも笑顔を返す。
「こうしてゆっくり話ができるのは馬車の旅以来じゃないかな」
王都へ向かう定期馬車便の中。そこが二人の出会いであった。旅の間、意気投合した二人は友人関係となったのである。
メロディがルトルバーグ家のメイドになってからは、メイドとして時々顔を合わせる機会はあったものの、お互いにプライベートで会話をすることはなかったので、春以来ということになる。
「それじゃあ、私と乗ったあの馬車も見識を広げるために?」
「そうだね。王太子殿下が広めた定期馬車便はまだ国中に網羅したとは言えない。馬車だけでなく道路の整備がどれくらい進んでいるのか実際に見て確かめようと思ったんだ」
「勉強熱心なんですね」
「幼馴染の頑張りが国にどんな影響を与えているのか、この目で見てみたくなっただけだよ」
「友人思いで素敵だと思います」
「あはは、困ったな」
メロディが何の衒いもなく笑顔で褒めるものだから、マクスウェルはつい苦笑を浮かべてしまった。友人の言葉だと理解しているから素直に受け入れられるが、可憐な少女に笑顔で褒められたら耐性のない男ならうっかりときめいてしまうのではないだろうか。例えばどこかの騎士様とか。
気持ちを落ち着けようとマクスウェルは紅茶に口を付けた。
「……美味しい。初めて飲む味だ」
「そうですね。お砂糖が入っていないのにほんのり甘味を感じます」
「茶葉を買って帰ろうかな。家族からも受けが良かったら仕入れてもいいかもしれない」
「それはいいですね! ……うちではちょっと厳しいかもしれませんが」
一杯だけならメロディのお給金でも支払いできるが、屋敷におろそうと考えると少々値段が張る紅茶であった。今も最下級紅茶をメロディの技術で美味しくいただいているルトルバーグ家としては、採用するのは難しそうである。
悩むメロディの姿に苦笑したマクスウェルはメロディに告げた。
「屋敷におろすかはともかく、よかったらメロディの分だけでも今日はプレゼントさせてくれないかな」
「えっ、そんな悪いですよ」
「まあ、再会の記念ってことで許してくれないかな?」
「でも……」
「その代わり、今度街で再会した時にはメロディがお茶を奢ってくれればいいからさ」
「んー、そうですね。じゃあ、次にお会いしたら私がお支払いしますので、今日はありがたくいただきます。ありがとうございます、マックスさん」
「うん。次もよろしくね、メロディ。次の休みはいつかな」
「はいっ。えっと次の休みは……」
(帰ったらお嬢様にもこのお茶を飲んでもらおうっと)
笑みを浮かべるメロディの向かいで、次回のお茶の機会をしっかり確保したマクスウェルもまた、静かに微笑むのであった。
「どうです、旦那様。ほんのり甘くて美味しいお茶らしいんですけど」
「……甘いんだが、なぜかすごく苦い気がする」
ポーラが仕入れた新しい紅茶を、なぜか美味しいと思えないレクトがいたとかいなかったとか。
マクスウェルのお話があんまりだったので続きを書きました。
3/23(日)はお休み
次回は3/24(月)更新予定




