ドッグミーツガール
それは、マイカとガルムが魔法同調訓練をするためにヴァナルガンド大森林を訪れた時のことだった。
「よーし、取ってこーい!」
「わひゃあんっ!」
その辺で拾った木の枝を放り投げるマイカ。ガルムは楽しげに吠えると空の奇跡を追って走り出した。
その時である――。
「きゃあっ!」
――マイカの周りに突風が吹いた。
突然の横風に思わず目をつむるマイカ。それは敷物の上ティーセットを広げてマイカ達を見守っていたメロディでも同様で、ほんの数秒、視界は真っ暗になる。
「ふぅ、びっくりした……あれ?」
風で乱れた髪を整えながら周囲を見回すマイカは、ガルムの姿がないことに気が付いた。
「えええええっ!? ガルム! どこ行っちゃったの!?」
マイカの絶叫で状況を把握したメロディは立ち上がった。
「マイカちゃん、ガルムを探しましょう」
「は、はい!」
この辺りはメロディの魔法『夢幻球』の結界で魔物から守られているが、うっかり外に出てしまったら豆柴サイズのガルムではひとたまりもない。
かといってこの結界に探知能力などないので、メロディにもガルムの現在位置は把握できなかった。
「「ガルム、どこにいるの!」」
マイカは木の枝を投げた方へ、メロディはその反対側へ向かった。焦っていたのか、木の枝が突風に流されて進路を変えたことにはまだ気が付いていないのであった。
「ぐーすぴー」
ちなみに、無理矢理同行させられていたグレイルは敷物の上で惰眠を貪っていた……。
◆◆◆
一方その頃、ヴァナルガンド大森林にはもう一人の訪問者がいた。ちょうど『夢幻球』の境界あたりに転がっていた大きめの石を、椅子代わりに腰掛ける銀髪の少女、セレディアである。
彼女は少し疲れた様子で息を吐いた。
「はぁ、せっかく来たのにいい感じの眷属になりそうな魔物が見つからないわね」
どうやら、新たな手駒となる魔物を求めて大森林を訪れたようだ。
「せっかく体に負担が掛からないよう魔力をためて準備してきたのに、空振りなんて酷いわ。この前はすぐに魔物が出てきたのに、今日は全然姿を見せないのはなぜなのかしら?」
セレディアは不愉快そうに首を傾げる。しかし、それは仕方のないことだった。
彼女は知らない。自分のすぐ近くに大森林の圧倒的強者が控えている事実を。
要するにメロディのことである。強い魔物ほど彼女の気配を敏感に察知し、その来訪と同時にサッと退避しているのである。
だったらいらないじゃん、『夢幻球』……とはならない。彼我の戦力差を把握できない、中途半端に強い魔物が寄ってくるので。サンダーバードとかタイラントマーダーベアとか、ジャイアントキラーバイソンとか……。
「何か一匹くらい眷属にしないとさすがに魔王の沽券に関わ、あだあっ!」
美少女にあるまじき悲鳴が大森林に木霊した。何かがセレディアの頭に降ってきたのだ。
「いたたた、もう、何なのよ!」
飛来物を拾うセレディア。それは何てことのないただの木の枝であった。先程の突風に流されてここまで飛んできてしまったようだ。
「ぐぬぬぬ、木の枝のくせに生意気な。へし折ってやろうかしら」
「わひゃんっ!」
「ん?」
セレディアが木の枝を睨んでいると足元で動物の鳴き声がした。直後、彼女の足に何かがのしかかる感触がして、セレディアは足元へ視線を向けた。
「わひゃん!」
木の枝を追ってきたガルムである。セレディアの足に前足を預け、彼女が持つ木の枝を瞳を輝かせて見つめていた。
「今日最初の魔物……でいいのかしら。全然魔力を感じないけど」
「はっ、はっ、はっ! わひゃん!」
まるで「それちょうだい、ちょうだい!」と主張するように楽しそうな表情を浮かべるガルム。その姿は動物好きなら誰もが表情を綻ばせるであろうキュートな姿であった。
しかし――。
「こんなよわっちいのじゃ眷属にならないわよ!」
「わひゃんっ!?」
元々狼の姿をしている魔王ティンダロスには効果がなかった。
セレディアは木の枝を全力で放り投げた。狙ったわけではないが、木の枝は『夢幻球』に向かって放物線を描き飛んで行ってしまう。
「わんわんっ!」
ガルムは「また追い掛けられる!」とでも言いたげな鳴き声を上げると、セレディアに脇目も振らず木の枝を追って走り出した。
「……仕方ない。今日はもう帰ろっと」
セレディアとガルム、二人の再会は何のドラマも起きず、あっけなく終わってしまうのであった。
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