ふわふわホワイトデー
「俺はクッキーを用意したっす。リュークはどうするっすか?」
「ふむ……」
シュウに尋ねられたリュークは、腕を組んで悩ましげな声を漏らした。
リュークは困っていた。先日、マイカからもらったチョコレートのお返しがまだ決まっていなかったからだ。
マイカから『3倍返し』を言い渡されたせいで、何がいいのか分からなかったようである……ノリで言っただけのマイカがとっくに忘れているとは思わない、律儀な男がここにいた。
(やはりお菓子にはお菓子がいいだろうか。だが……)
シュウはメロディにクッキーを渡すつもりらしい。『チョコにはお返しをするのがマナー! ……のような気がするっす』という、本人もなぜか不確かな感覚でお返しをするようだ。
自分も倣ってクッキーでもよかったが、何となくシュウと同じは嫌だなと感じたリュークは市場に行って何かないか見て回ったが、あまりピンとくるものはなかった。
チョコレートが美味しすぎたせいかもしれない。あれの3倍返しに見合う品はどこに売っているだろうか。そう悩んでいること数日、結局リュークには答えを出すことができなかった。
というわけで――。
「それで、私のところに来たの?」
――メロディの出番である。
彼女は調理場で何かを作っているところだった。
「……すまん」
「ふふふ、謝らなくていいよ。ちょうど今、お菓子を作っているところ……なんだけど、これはあまりお返し向きじゃないかもね」
「何を作っているんだ」
「ゼリーよ。最近、ゼラチンを作れたから、明日のお嬢様のお茶菓子に出そうかと思って」
「ぜらちん……?」
「主に牛の骨で作ったりするんだけど、いつもの森に牛っぽい動物がいて狩ってきちゃった」
メロディは嬉しそうに「ふふふ」と微笑んだ。
牛っぽい動物が『ジャイアントキラーバイソン』と呼ばれる魔物であることを彼女は知らない。
(チョコのお返しにゼリーはちょっと違う気がするのよね。何がいいかな……そういえば今日って、ホワイトデーじゃない?)
暦の上では日本ならホワイトデーと呼ばれる日であったことを思い出したメロディは、作りかけのゼリーを見て、何か閃いたようにポンッと両手を打ち鳴らした。
「ゼラチンがあるなら『あれ』が作れるわ。リューク、そうしましょう!」
「あれ? 何を作るんだ?」
「ふふふ。それはね――」
◆◆◆
「マイカ、これを」
「え? 何、リューク?」
可愛くラッピングされた何かを手渡されたマイカは首を傾げた。重さや手触りから察するに小さな陶器のように思われるが、何なのだろうか?
「この前のチョコのお返しだ」
「覚えててくれたんだ」
「……3倍返しだろう?」
「あはは、ついノリで言っただけなんだけど、わざわざ用意してくれたんだ。ありがとね」
リュークの言葉に、マイカはちょっとバツが悪そうに苦笑いを浮かべた。そして、改めてラッピングされたお返しの品を見つめた。
「ねえ、これ、開けてみていい?」
「ああ」
「何が入ってるんだろう? クッキーとか? ……えっ、これって!」
リボンを外すと、包装が外れて中身が露わになった。出てきたのはガラス製の小瓶で、中にはふわふわした白いお菓子が詰められている。
それは、ホワイトデーの定番お菓子――。
「マシュマロ! どうしたのこれ!? どこで買ったの?」
「作ったんだ」
「マシュマロを? リュークが?」
「メロディに手伝ってもらった。ゼラチンという物を作ったからこれもできるはずだと言って」
「わあっ! さすがはメロディ先輩! ……ゼラチンって自家製できるんだ」
「……3倍返しになっただろうか」
「なったなった! マシュマロなんて久しぶり! せっかくだから今一つもらっちゃお!」
ガラス瓶の蓋を開け、マイカはマシュマロを摘まみ上げた。ほどよい弾力でふわふわした触り心地のマシュマロは、前世で食べたそれと遜色ない。
ニンマリ笑ったマイカはマシュマロを口に放り込んだ。
「ん~っ! ふわっふわで美味しい♪ ありがとう、リューク」
「そうか――んぐ」
満足そうに微笑むマイカに、リュークはコクリと頷いた、ところに柔らかい感触が唇に押し付けられた。反射的に口が開き、甘くてふわふわのお菓子がリュークの味覚を刺激した。
「どう? 美味しいでしょ」
「……」
リュークは無言で咀嚼し、小さく首肯した。言われなくても事前に味見をしているので美味しいことは分かっている。
だが……。
「ふふふ、美味しいよね、マシュマロ」
何となく、ほんの少し、さっきより甘くて美味しいお菓子ような気がするリュークだった。
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