メルティ夫婦
「まあ、チョコレート?」
「そうよ、お母様。メロディと一緒に作ったの」
伯爵邸の食堂。夕食を終えた伯爵夫妻の前に、ルシアナは昼間に作ったチョコレートを差し出した。マリアンナはそのうちの一つをひょいと摘まむと、パクリと口に含んだ。ヒューズも続く。
「ん~、甘くて美味しいわ。ルシアナ、メロディ、ありがとう」
「えっへん♪」
「恐れ入ります」
自慢げに胸を張るルシアナの隣で、メロディは慎ましやかに一礼した。
「本当だ。これは美味しいね。チョコレートなんて何年ぶりかな」
「お父様、チョコレートを食べたことがあるの?」
「ああ、昔ね」
二つ目のチョコレートを咀嚼しながら答えるヒューズに、ルシアナは頬を膨らませて怒った。
「ずるいわ! 私は今日が初めてのチョコレートなのに!」
「あ、いや、それは……」
「ふふふ。ルシアナ、ヒューズを許してあげて。昔といっても私達の結婚式の日のことよ」
「へ? 結婚式?」
マリアンナの言葉にルシアナはポカンとなった。二人の結婚式ということは、十五年以上前の話である。当然、まだルシアナが生まれる前のことだ。
「先代伯爵様が奮発してお祝いに贈ってくださったのよ」
「お祖父様が?」
「ええ。『チョコレートのようにほろ苦くも甘くてとろけるような愛し合う夫婦になってほしい』という願掛けをしてくださったの」
「お祖父様、ロマンチストねぇ」
知られざる両親の思い出を知って興味深そうにふんふんと頷くルシアナ。微笑むマリアンナは少し可笑しそうな顔で内緒話をするようにしつつ、この場にいる全員に聞こえる声で口を開いた。
「それがね、先代様が結婚祝いは何がいいか尋ねたら、ヒューズが」
「わあわあっ! ストップストップ!」
顔を真っ赤にさせたヒューズがマリアンナの声を遮った。慌てる夫の姿に、マリアンナはクスクスと笑いを抑えられなかった。
「いいじゃない。ライアン達だって皆知ってることよ」
「娘にまで言わなくたっていいじゃないか!」
「そんなことないわ。あなたがいかに家族を愛しているのかをルシアナが知るのはとても意義のあることよ」
「そ、そうだけど……その秘密は、夫婦だけの宝物というか……えっと……」
「まあ、ヒューズったら……恥ずかしいわ」
顔を赤くしてそっと視線を逸らすヒューズはどこか純情な少年のようで、思わずマリアンナの鼓動が高鳴る。
そして彼女は、彼の頬にそっと手を添えて微笑んだ。
「そうね、ごめんなさい。久しぶりのチョコレートで少しはしゃぎすぎたみたい。許してくれる?」
「俺は君に怒ってなどいないさ。俺もチョコレートは久しぶりだったから、二人の思い出を大切にしたいって気持ちが少し前に出すぎたみたいだ。俺の方こそ許してくれるかい?」
「ええ、もちろんよ、ヒューズ」
「ありがとう……君のその甘い笑顔を見ると、チョコレートのようにとろけてしまいそうだ」
「もう、ヒューズったら……そんな切なくもほろ苦い瞳で見つめられたら、私の方が恥ずかしさのあまりとろけてしまいそうだわ」
「マリアンナ……」
「ヒューズ……」
うっとりとした双眸が見つめ合う。
この場には、二人の姿しかなかった。
「……ねえ、メロディ。このチョコレート、お酒とか入ってないわよね?」
「ええ、まったく」
「素面であれなのよね、私の両親……」
「ふふふ、仲が良くていいじゃないですか」
「ものには限度ってものがあるのよ、もう!」
いつの間にか食堂を出ていたメロディとルシアナ。微笑ましそうにしているメロディの隣で、ルシアナは顔を真っ赤にして叫ぶのだった。
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