遅すぎたバレンタイン
「何か甘いものが食べたいわね」
勉強を終えたルシアナは机に頬杖を突きながら呟く。
それにお茶を持ってきたマイカが答えた。
「私も食べたいです! メロディ先輩に聞いてみましょう」
二人はメロディがいるであろう調理場へ向かうのだった。
「何がいいかしら?」
「そうですねぇ……できれば、チョコレートが食べたいんですけど、無理ですよねぇ」
「チョコレート。うちでは出たことがないから食べたことないのよね。確かに気になる」
「えええっ!? この世界にチョコレートってあるんですか!?」
マイカ、驚愕の事実。チョコレートは存在していた!?
実際、メロディとアンナが王都を散策した際に立ち寄ったアイスクリーム屋さんにはチョコミント味が普通にメニューとして扱われていたので、間違いなくチョコレートは存在しているのだ。
「ないと思ってるのになんでチョコレートって言葉が出てくるのよ?」
訝しむルシアナに、マイカは頭をかきながらなんとか誤魔化そうとする。
「いやあ、あはは……で、でもでも! チョコレートがあるならメロディ先輩にお願いしてみましょうよ、お嬢様! きっと何とかしてくれますよ!」
「それはそうね! 行きましょう、マイカ!」
「はい、お嬢様!」
二人は調理場へ駆け込んだ。
「メロディ! 私、チョコレートが食べたいわ」
「はいはい。今から作りますからちょっと待ってくださいね」
「何ですかそのご都合展開は!?」
二人が調理場に到着すると、当たり前のようにメロディはチョコレートを作るところだった。調理台の上にはかご一杯にカカオ豆が入っている。
「これ、どうしたんですか?」
「実はこの前、いつもの森の南側を散策していたらカカオっぽい木を見つけたの」
「便利だな、いつもの森!」
思わずツッコむマイカ。禁断の森はご都合的な食材の宝庫であった。
「これがチョコレートになるの、メロディ?」
「はい、お嬢様。ついさっき下ごしらえが終わって、チョコレートの試作を始めるところです。それにしても、今から私がチョコを作るって、二人ともよく分かりましたね?」
言った覚えもないのにと、メロディは不思議そうに首を傾げた。
「偶然よ。甘いものが食べたいなって思ってたら、マイカがチョコがいいって言ったの」
「ふふふ、すごい偶然ですね。だったら二人も一緒にチョコ作りをしますか?」
「やるわ!」
「やりますやります!」
チョコ作り。なんだかとっても乙女チックで楽しそう。この時、二人はそう思った。
「では、みんなで頑張りましょうね」
そう告げると、メロディはすり鉢とすりこぎを三人分用意した。
「「えっ?」」
二人は知らなかった。手作りチョコレートはとっても力仕事であることを。カカオ豆をチョコレートにするためには、ペースト状まですりつぶさなければならないのだ!
マイカは愕然とした。何となく、手作りチョコといえば湯煎のようなイメージだったので。
「メロディ先輩、ここは魔法で……」
「ふふふ。一からチョコレート作りなんて初めてでワクワクするわ。お嬢様、マイカちゃん、頑張って美味しいチョコレートを作りましょうね」
まるで後光が差しているような柔和な笑みを向けられ、ルシアナとマイカは了承するしかないのであった。
その後――。
「「「美味し~い♪」」」
さすがはメロディ監修。チョコレートは一発で美味しくできました。一口サイズの丸形のチョコレートがお皿にたくさん並んでいる。
「メロディちゃ~ん。ちょっと小腹が空いちゃって、何か食べるもの……って、何か美味しそうなもの食ってるっす! 俺達にも分けて! ほら、リュークも頼むっすよ」
「俺は別に……」
作り立てのチョコレートを堪能している三人の下へ、シュウとリュークが姿を見せた。
「わあっ、チョコレートじゃないっすか。どこで買ってきたんすか?」
「さっき私達で作ったんです」
「凄いっす! ……あれ? 手作りチョコレート? なんだかとても甘いフレーズのような?」
「はい、シュウさん。お裾分け、どうぞ」
小皿に小分けしたチョコレートをメロディはシュウに手渡した。
「やったー! メロディちゃんから手作りチョコレートもらっちゃった!」
小躍りするシュウの隣で、リュークは静かに立っていた。興味なさそうに見えるが、実は何度かチョコレートに視線が向いていることにマイカは気付いていた。
(まあ、リュークは甘いもの好きみたいだし……)
学園舞踏祭で甘いジュースを飲んだときの彼の反応を思い出し、マイカは小皿にチョコレートを取り分けるとそれをリュークに差し出した。
「はい、リューク」
「……いいのか?」
「私がめっちゃ頑張って作ったチョコだからしっかり味わってね。あと、お返しは三倍返しが基本だからそこんとこよろしく」
「三倍返し……?」
リュークは小皿を見た。そこには丸いチョコレートが五つある。三倍返しということは、これを十五個用意しろという意味だろうか。リュークは首を傾げた。
正直なところ、マイカはノリで言っただけである。
手作りチョコレートと言えばバレンタイン。とっくに二月を過ぎているが、そろそろホワイトデーだなぁ、とか思った結果言っているだけなので特に深い意味はないのであった。
「とにかく食べてみて。美味しいから!」
「ああ」
リュークの密かな好物リストに『チョコレート』が加わる瞬間であった。
ちなみにレクトはもらえませんでした……。
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